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日本政府の為替介入は“薄い望み”

※4/23時点までの出来事を整理し、改めて政府日銀の介入の有無を考察しました。こちらもご覧ください。

為替、特にドル円ウォッチ勢にとって、焦点の一つになっているのが“為替介入”についてだ。

実際に、要人からの“円安けん制”とも捉えられる発言で、円高に動く場面もあるなど、“為替介入の有無”が注目されている

FXドル円のトレーダーとしても、もちろん見逃せない。その為替介入の実現性について、今回は考えてみたい。

“幻し”の日銀為替介入

まずは、日銀の動きについてだ。端的に言って、現状で日銀の金融引締めや為替介入の現実性は低そうだ。

実際、日銀自身はずっと、金融引締め(円高)に否定的なスタンスを示してきているのだ。

黒田総裁が、引き続き金融緩和を継続すると発言し続けているほか、3月末の指値オペの実施もあり、要人発言・政策ともに緩和継続をシグナルしている。

実際、市場では、黒田総裁発言を円安けん制と受け止めて円高に振れる場面もあったが、結局は円安がさらに進んだ。転じて、“黒田総裁の円安けん制発言”はマーケット参加者の一部の誤解だったと言わざるを得ない。

また政府要人の発言から、日銀への介入圧力は小さいと読み取ることができる。具体的には、岸田文雄総理大臣が、

・日銀が物価安定目標に努力されることを期待
・為替誘導のために行われているものではない
・日銀とはデフレ脱却実現に緊密に連携して取り組む
・金融政策の具体的な手法は日銀にゆだねられるもの

との趣旨で発言しており、政府から日銀への為替介入や金融引締めへの働きかけはなさそうだとの解釈が可能だ。

まとめると、少なくとも今ある材料からは、日銀の為替介入は幻しだったということだ。

財務省の介入有無は“これから”の話題

日本政府自身はどうだろうか。財務省としては、現時点では、具体的な動きが見えているわけではない。

そのスタンスを示しているのが鈴木大臣の発言で、基本的には、「緊張感をもって注視する」という姿勢で一貫してきた。

一部にはこれを円安けん制と捉える向きもあったが、文面的な意味でも、その後に為替介入が行われていない点でも、発言後に円安がさらに進んだ点でも、財務省の為替介入は、実体のないものだった。

しかしこの点については、注意を要しそうな動きがあり、今後にこそ現実的な話題として捉える必要がありそうだ。

というのも、鈴木財務大臣がこのほど、「悪い円安」を懸念していると表明したほか、20日からのG20財務相・中央銀行総裁会議にあわせて日米財務相会談が行われると報道。

日本単独での為替介入については、有効性の面で疑問符がつくが、日米協調介入となれば、話は違ってくる。もしも日米財務相会談で協調介入が論議されるのであれば、無視しないほうがいいだろう。今後の話題になりそうだ。

そこで次に、米側の事情も簡単におさらいしたい。

米財務省・FRBはインフレ対策に主眼

米側の金融当局、つまりFRBは、金融引締め(ドル高要因)を進めてきた。背景にあるのがインフレで、その対策としての意味合いが強い。

裏返せば、米のインフレが収まるまでは金融政策の転換は見込みにくいということだ。

また米政府、財務当局としても、インフレ対策でFRBと一致している。

財務大臣イエレンは、ウクライナ戦争を理由に上げつつ短期的にはさらなるインフレが起こり、経済が悪影響を受けると発言。インフレ対策を重視する雰囲気の演出に一役買っている。

つまり、現在の状況では、米側にとっても金融引締めを推進(ドル高要因)する理由はあっても、日本に配慮してドル円為替に介入(円高要因)する理由は薄いということになる。

現在までに公になっている情報からは、米側は協調介入に積極的ではなく、日米の協調為替介入は可能性の低い、“薄い望み”ということになりそうだ。

まとめ:為替介入の現実性は低いが、要注視

まとめよう。現時点で明らかになっている情報は以下の通りだ。

第一に、日銀は為替介入をやりそうになく、日本政府財務省には問題視する兆しはあるものの、動きはまだ具体化していない。

第二に、一方でアメリカの政府財務省、FRBはいずれもインフレ対策を主眼にした金融引締めで一致。短期的な政策転換は現実的ではない。

つまり、日米両当局の為替介入の可能性は現時点では低い。ただ、日本側に現行為替レートを問題視する兆しもあり、油断できない。そういう事になりそうだ。

また付記すれば、米側の姿勢はインフレ対策として形成された面が大きいので、米インフレの動向しだいで変更がありうることも忘れてはならない。

Notes&References

[1] NRIのエコノミストである木内登英氏は、「米国は日本に円買いの為替介入を認めない」「円安の流れを大きく変えるのは米国経済・物価情勢の変化とFRBの政策姿勢の修正」と指摘している。
https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2022/fis/kiuchi/0413_2 (17, Apr. 2022)
[2] また同氏は、日本の為替介入について「為替介入の実現可能性は低い」(現状からの転換には)「FRBの急速な金融引き締め姿勢が変化することが必要だろう。それが生じるまでにはなお数か月の時間を要することが見込まれ[る]」としている。
https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2022/fis/kiuchi/0415_3 (17, Apr. 2022)


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