「事業欲の強い経営者の落とし穴」~ある経営者の話から考えたこと~
こんにちは、お金が入るでかねいりです。
今日は、事業欲の強い経営者のお話から「企業の成長と会社の存続」について考えたことをお伝えできればと思います。
■業績好調なBtoB業態のA社
2代目の経営者(Z社長)に継承後、右肩上がりで会社は成長を続けていました。
Z社長は、顧客開拓能力が高く、これまでの営業手法の中で次々と新しい顧客との取引を契約するだけではなく、新たな仕組みや仕掛けをつくり、その中で全く新しい業界の顧客との接点を持ち契約を取り付けるなど、A社の業績を牽引していました。
Z社長になぜ顧客開拓がそんなに上手なのかを聞いたところ「仕事が増えれば、業績も上がる。業績も上がれば社員も喜ぶ。仕事がないという不安を社員に与えたくないんだ」とその想いが源泉にあるから動き続けることができるということでした。
そうした中でした。少しづつですが、社内でミスが増えてきて、顧客からのクレームが出るようになってきたのです。
そこでZ社長は、社員の能力や考え方が未熟な状態なのだと判断して、社員を外部の研修へ積極的に参加するように指示し、社員育成の強化を実施。
ミスやクレームが減ることを期待しましたが、逆に増える一方。
さらには、退職を申し出る社員が増えていきました。
社員が退職することは無念の想いもありましたが、自分の方針に付いてこれないなら仕方がないという想いあり、Z社長はさらに顧客開拓を続けることにしました。
■信頼していた幹部からの申し出
そうした中、社員だけではなく、信頼していた幹部からも退職の申し出が。
その幹部は、辞めた社員の仕事を引き受け仕事量が増え、キャパオーバーになることが常態化していてかなり疲弊していました。体調を崩して休むことも少なくありませんでした。
もちろん、その状態をZ社長も気づいていました。そこで、Z社長はその幹部を気遣い、いたわる思いで面談を行い、食事に行き、その幹部の話をとことん聞いた上で、「無理するな、やれる範囲でいいぞ、一緒にどうやれるか考えよう。」という話をしました。
そうしたところ、その幹部は喜び、「わかりました。社長からそう言って頂いて嬉しいです」と答えたのでした。
■経営者としての自信を喪失して気づいたこと
幹部からの退職の申し出があったのは、「わかりました。社長からそう言って頂いて嬉しいです」と答えた次の日のことでした。
別の幹部から話を聞いたところ、「昨日は社長がなかなか家に帰してくれなかった。本当は帰りたかったのにと言っていましたよ。」と。
その話を聞き、Z社長は、一体なにがどうなっているのかわからなくなり、経営者としての自信を失ったと言います。
Z社長は、なぜこのようなことになったのか振り返るとともに、信頼する友人や知人に相談をする中で、1つの答えが見えてきました。
それは、「社員が向いている方向と自分が向いている方向が一緒だと思っていたが、実際のところは真逆だった」ということでした。
Z社長は、社員のためにと思い、新しい仕事を取ってきていたのですが、社員からすると、「なんでこんな忙しい状況なのに、また仕事を取ってくるのか。社長は私たちのことを何も考えくれていない。わかってくれていない。」という状態になっているのではないかと考えたのです。
そこでZ社長は、「成長の踊り場」をつくることにしました。意図して、あえて会社の業績を伸ばさないという決断をしたのです。
■「成長の踊り場」の必要性
経営者の大きな役割のひとつが、「市場をつくること」だと考えます。
「市場をつくる」というのは、自社のビジネスが広がりそうな種を見つけてきて、その種を大きくする動きのことを言っています。
いわゆるマーケティングとイノベーションのことで、目の前の仕事や契約ではなく、先々の成果・業績をつくるための動きです。
社員はどうしても目の前のことに意識がいくもので、「市場をつくること」は社員に任せてうまくいく領域ではありません。経営者が率先して行っていく必要があり、会社を伸ばしていくための重要な動きです。
しかし、ここには前提があります。それは、「契約した仕事をより良く対応していくための組織体制があるか」ということです。
A社のケースは、「会社の成長に組織がついていくことができなかった」という例になります。ベンチャー企業などにも見られる傾向です。
そういったときは、あえて「成長の踊り場」をつくるということが必要です。「成長をしないという決断をする」ということですが、事業欲が強い経営者からすると、なかなか難しい決断です。
しかし、この決断をしないと組織が崩壊し、仕事はあるのだけど、人手が足りないという人手不足倒産の道を進むことになります。
A社のケースで言えば、そこに気づき、舵を切ったということは、今後の会社の存続・成長に向けてとても重要な決断になったと考えています。
この決断により、A社が今後も末永く成長していく企業になることを期待したいと思います。