人材が流動化すれば、日本の経済は活性化するのか?~取引先の幹部の退職から考えたこと~
こんにちは、お金が入るでかねいりです。
昨年から今年にかけて、取引先からよく聞いた話が、社員の退職です。
若手の方が辞めるというパターンは、これまでもそうだったのですが、幹部や管理職の方が辞めるという話が出てきたことは、これまでにない流れでした。
大企業では、幹部や管理職の方が転職をするということは珍しくない時代になりましたが、中堅・中小企業においては、これまでは多い事例ではありませんでした。
今日は、中堅・中小企業の幹部や管理職の退職から考えたことをお伝えできればと思います。
■転職者は増えているのか?
実際、転職者の数は、増えているのでしょうか?
総務省が出している「労働力調査」というものがあり、そこに「転職希望者」と「転職者」の推移が掲載されていました。
まず、言葉の定義ですが、
・転職者:就業者のうち、前職のある者で、過去1年間に離職を経験した者
・転職希望者:就業者のうち、現在の仕事を辞めて他の仕事に変わりたいと希望をしている者及び現在の仕事の他に別の仕事もしたいと希望している者とあります。
転職希望者数は2021年に889万人。時系列推移をみると、1968年から2000年初頭まで年々増加しています。その後、約10年は横ばいで推移し、2011年の東日本大震災以降、約200万人増えています。2015年以降はわずかではありますが、増加傾向にあることがわかります(図1参照)。
一方で、転職者数は1980年代半ばの150万人から徐々に増加していたものの、2000年以降は約300万人前後を推移し、あまり増えていません(図1参照)。
では、企業側の動きはどうなのでしょうか?
中途採用の求人総数は、「doda転職求人倍率レポート」によると、2023年で約750万件。2018年に比べると約2倍と増加(図2)。
また、企業の採用の意欲について、リクルートワークス研究所の「2024年度の中途採用を増やすかどうか」という調査によると、全業種とも採用意欲が高いことがわかります(図3)。
■転職がしやすくなっている
私自身の現場での肌感覚としても、転職希望者は以前よりも増えている印象があります。
なぜ、増えてきたのかを考えてみると、
・人材不足による売り手市場の促進。
・スカウトやAIの採用手法が市民権を得て、応募者が主体的に動かなくても、能動的に転職活動が進むようになってきている。
・働き方が変容し、働く場所への制限がゆるくなった(オンライン、在宅)。
などが考えられます。
これらのことから転職しやすい環境が整ってきたと言えます。転職のしやすさという観点でひとつの事例を紹介したいと思います。
取引先の中途採用の支援として面接に同席した時の話です。対象は、システム部門の若手の採用でした。
面接をしたのは、社会人2年目の若手社員でした。「次のステップとしてどんなことがやりたいか?」を聞いてみると、ぼんやりとした回答。「なぜ、転職を考えているか?」と聞くと、年収を上げたいからと。そのほかにもいくつか質問をしましたが、新卒と変わらない印象で、この状態だとなかなか内定をもらえるところは少ないだろうと思っていました。
「いつまでに転職活動を終えたいですか?」と聞いたところ、「すでに4社の内定があるが転職活動を続けている」ということでした。
このレベルで内定を出す会社に驚くとともに、そんな会社が4社もあることにとても驚かせられました。転職がしやすくなっているという話は聞いてはいましたが、ここまでとはという印象でした。
■良い流動化と悪い流動化
この20~30年の間で、「日本の経済を良くするためには人材の流動化を促進しないといけない」という議論が続いています。
限りある人材という資源を成長市場や優良企業へ集中的に投入することで、生産性が上がり、経済が活性化するという考え方です。
海外に比べ、日本の人材の流動化は遅れていると言われています
そうした中、ここにきて、少しずつ人材の流動化が進み始めてきていると感じてます。
ここで考えないといけないことは、「人材の流動化が進めば、本当に経済は活性化するのか?」ということです。
人材の流動化にも、良い流動化と悪い流動化があるのではないかと考えます。
良い:成長性の高い業界・仕事へ、優秀な人がステップアップ
悪い:不満があるから転職をする、仕事ができない人が転職を重ねる
転職する際、少なからず不満などネガティブな要素があることは否めません。一方で、それがすべてというケースには問題があると思っています。
私は、過去に転職のエージェントとして、1年間に400人の方の転職の相談を受けた経験があります。不満がすべてでその不満を解消するために転職をするというケースの方は、その後も何度も転職を繰り返すというパターンが多い。その理由は、また同じように不満があると、その不満を理由に辞めてしまうからです。
このような人材の方がいくら流動化しても、経済が活性化するとは考えづらい。言い換えれば、安易な転職を容認するような流れを止める必要があると考えます。
転職活動をすること自体は悪いことではなく、私は良いことだと考えています。転職活動をすると、これまでの自分のキャリアを整理することになり、何ができるようになったのか、なぜ今の仕事をしているのか、自分は何がやりたかったのか、今後どうしていきたいかなど、日常の仕事の中ではなかなか考えないことを考えられる機会です。
一方でこれは、転職するにせよ、しないにせよ、仕事をするにあたってベースには必ず持っていないといけないものだと思っています。そうすることで、多少嫌なことがあったとしても、それを思い出せば、乗り越えていける。しかし、安易な転職活動をしていると、このことにも関心が及びません。
■今は「人材の流動化の入口、そして分岐点」
今の日本は、人材の流動化の入口に立っているのではないかと考えます。
良い流動化に向かうか、悪い流動化に向かうか。その分岐点にいると考えます。そのポイントは、上記でのお伝えした「安易な転職をいかに防げるか」だと考えます。
では、企業はどうすれば良いのか?
そのための方法として、次のことをすり合わせして、その基準に満たしていない方は採用しないという選考をして頂くことをおすすめします。
①「応募者の次の職場でやりたいこと」と「自社のビジョン」が合っているか?
②「応募者が大切にしている考え方」と「自社が大切にしている考え方」が合っているか?
仮にいくら能力がある方だったとしても、この2つが合っていなければ、こんなはずじゃなかったという不満を持ち、また転職をするというリスクが高まると考えます。
一方で、上記が合っている方であれば、少し能力が低い方だったとしても、目指すことや大切にすることを目指すために多少の不満も耐えることができ、やり方次第で成長を促すことができると考えます。
私自身も自社の採用の責任者として、改めてこのことを胸に刻み、採用活動にあたっていこうと思います。