
「自分で考えて行動できる社員」を育てるためには、経営者は何をするべきなのか?
こんにちは、お金が入るでかねいりです。
ある会社の経営幹部の方々に、「自社の社員にどうなってもらいたいですか?」という質問をしたところ、「自分で考えて自分で動ける社員になってもらいたいですね」という答えが返ってきました。
中堅・中小企業の経営者や経営幹部の方々にこの質問をすると、同様の答えが返ってくることが多くあります。
そこで今日は、中堅・中小企業において、自分で考えて自分で動く社員を育てるために、経営者や経営幹部は何をすべきなのかについて考えたことをお伝えできればと思います。
■中堅・中小企業の育成の本当の課題とは?
「自分で考えて自分で動ける社員を育てる」
これは、いわゆる社員育成に関することになりますが、20年以上、中堅・中小企業の社員育成の現場を見てきた中で、社員育成がうまくいかない本当の問題が何かということが見えてきました。
それが「決めていない」、「示していない」、「一貫性がない」というものです。「何を」ということですが、それが以下の4つのことになります。
①自社は何のために存在しているか?(使命・存在意義)
②自社は何を目指しているのか?(ビジョン)
③そこにどう向かうか?(経営計画・中期事業構想)
④どんな組織にしたいのか?(人材マネジメントポリシー)
社員育成がうまくいっていない企業に共通しているのが、この4つのことについて「決めていない」、「示していない」ということでした。
一方で、①~④が決まっていて、示していたとしても、それが次のことと一貫していない(連動していない)と育成はうまくいきません。
⑤組織としての役割の設定(※)
⑥評価制度の整理・実施
⑦育成方針・育成方法の整理・実施
(※)組織としての役割設定とは、例えば、部下の育成やチームの目標達成、報連相など、組織を運営していく上で必要な役割のこと。中堅・中小企業の場合、業務上の役割設定はされていることがあるが、組織としての役割設定がなされていないケースが多い。
■A社の事例
A社の経営者からの依頼は、お客様第一の浸透を図りたいということでした。その要望に応え、浸透を図る取り組みを数年行いました。その後、社長からこれまでの成果について分析してほしいという要望を受け、社員へのヒアリングを実施。
その結果、お客様第一については、言われていることやっているというレベルで、自分から率先してというレベルには至っていませんでした。
また、社員に会社への要望や提案・意見を求めたところ、今ある不満(マイナス)をどうにかしてほしいという「マイナスをゼロにするもの」ばかり。一方で、お客さまに対してこんなことがしたいなどと言った「ゼロからプラスにする意見や提案」は、ほぼありませんでした。
そうしたヒアリング結果からお客様第一の取り組みがなかなか進まない原因を分析し、結論として内部志向になっていることだと考えました。その要因が次の2つではないかと考えました。
1.仕事が作業になっている。
社員の方々は素直な方が多く、言われたことはしっかりやるのですが、それ以上はやらない。一方で仕事は成果をあげることが目的。その視点や動きが欠けていました。
2.ビジョンが示されていない。
考えてみれば当然なのですが、どこを目指すのかがはっきりしていなければ、前向きな意見は出しようがない。どこを目指すのかがはっきりしているからこそ、そこへ向けて「こんなことをやったらどうか」、「もっとこうしていきたい」という前向きな意見が出てくるのですが、どこを目指すのかが欠けていました。
この分析結果を社長に伝え、ビジョンをつくることを提案し、プロジェクトメンバーを集め、そのメンバーでビジョンづくりを行いました。
そこで整理して決めた10年後のビジョンを全社員に社長から発表。その後、社員の方々に社長の話を聞いてどう感じたかということをヒアリングしたところ、もちろん不安の声もありましたが、
「自分たちが今後、どのようなことに力をいれていけば良いかということがイメージしやすくなった」
「自社の強みを活かせば、もっとこんなこともできるのではないか」
といった以前になかったお客さまや地域といった外部に対しての前向きな意見が出てきたことがとても印象的でした。
A社はこの後、組織の役割設定を行い、人事評価制度や育成方針・方法の整理を行いました。
その結果、今までは仕事が作業という状態から、仕事に対して目標を持ち、自ら振り返り、改善を図るという状態に変わる社員が増えました。
ある社員は「ビジョンや組織としての役割設定がなかったら、バイト感覚で仕事をしていたと思う」と発言。また、ある社員は「ビジョンや組織としての役割設定があるので、自分に何が足りないか振り返りやすくなって、仕事にやりがいが持てるようになった」と言っていました。
A社は、まだ十分な状態ではありませんが、「自分で考えて自分で動ける」ようになる可能性を示す社員の変化だと感じます。
■面倒なことですが、やりますか?
A社の事例のように、決めて、示していなければ、社員も考えようがありません。そして、そこに一貫性がなければ、行動を起こす原動力が生まれません。一方で、「決めて」、「示して」、「一貫性」を持たせれば、社員の行動は変わります。
しかし、①~⑦を会社として実行することは、簡単なことではありません。率直に言えば、手間と時間がかかり、とても面倒なことです。言い換えれば、経営者や経営幹部の「こんな面倒なことをしてまでも良い会社をつくりたいと思えるか?」という意思にかかっていると言えます。
もし、「自分で考えて自分で動ける社員になってもらいたい」ということが、経営者や経営幹部が楽できるから、儲かるからという理由からきているものであれば、そもそものところで、その実現は難しい。
理由は2つ。
ひとつは、そのくらいの想いであれば、①~⑦をやる労力が出ない。手間で面倒と感じて、途中であきらめてしまうから。
もうひとつは、社員が「それは経営者や経営幹部のエゴでしょ」と思って、変化しないから。経営者や経営幹部が「自分で考えて自分で動ける社員になってほしい」と言っていることが、社員には「俺のためにがんばれ」という風にしか聞こえてこない。言い換えれば、「俺の指示通りに動け」と言われているのと変わらない。
だから、うまくいかない。
そういった意味で、最も重要なのは、「何のために経営をするのか?」という経営者や経営幹部の意思や想い。
では、どういった意思や想いを持つ必要があるのか?
ここについて、ピーター・ドラッカーは、次の3つのことが必要だと言っています。
・独自の貢献(自社の強みを活かし、顧客や地域へ貢献すること)
・人を活かす(働く仲間を幸せにすること)
・害悪の除去(社会問題を解決すること)
これが、どの会社にも共通する経営者や経営幹部が持つべき想い。
このベースを持ち、上記の①~④を決めて、示し、⑤~⑦までを一貫性を持って実行することができると、「自分で考えて自分で動ける社員を育てる」ことができると考えます。
人材育成に課題を抱えている中堅・中小企業の方々、もしかするとそれは、①~⑦が整理されていないからかもしれません。参考にして頂ければ嬉しく思います。