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「初恋、ざらり」から考える「ふつう」のもつ排他性と包摂性


1話でここまで泣かせるドラマはかつてあったのだろうか。
まだ、3話までしか見ていないが、普段から障碍をお持ちの方にサポートをしている身としては、果てしなくリアルで「ふつう」のもつ暴力性、排他性を表現できている。

以下があらすじだ!!

主人公の上戸有紗は軽度知的障害と自閉症がある女性。障害を隠して働くが、人間関係がうまくいかず、仕事でのミスも多いためすぐクビになる日々。そんな自分に強い劣等感を抱える有紗は、知り合った男性から体の関係を求められるたびに応じることで、何とか自分の価値を確かめようとしていた。“普通”に憧れ、“普通”になれない苦しさに自分自身の価値を見失いかけていた有紗だったが、新しいアルバイト先の先輩・岡村龍二との出会いをきっかけに、恋に落ち、彼の優しさに触れることで少しずつ心境が変化していく。

『初恋、ざらり』あらすじ・出演キャスト・スタッフ情報まとめ【2023年7月期・夏ドラマ】 | TV LIFE webより引用

「ふつうになりたい」
「ふつうの女性になりたい」
「ふつうにならなければならない」

しきりに「ふつう」という言葉を唱える上戸の言葉は
他人に理解されない孤独な世界で傷ついた心の悲痛な叫びだ。
「ふつう」でありたいと・・
見ていて痛々しく、そして「俺か」と何度も突っ込んだ。


「ふつう」になりたいからこそ、劣等感を原動力に何とか役に立とうとするが上手くいかない。そして、さらなる劣等感と自己否定の悪循環に陥る。
これも良くある事で、動機が「自分はダメな奴だから人の役に立たなければならない」なのだ。(アイアムノットOK,ユーアーOKの態度)

※なお、このような人生の態度は容易に「自他否定の人生観」に陥りやすい。自己否定を極めると他者否定によって何とか心を守ろうとする。
私たちはその様にして心を守るシステムが存在する。

裏を返すと彼女の心は「残酷で排他的な孤独な世界の中でも、
何とか人の心と触れ合いたい」という思いが確かにあるのだ。
世界と触れ合い少しでも世界から受け入れて欲しいのだ。
それだけ彼女は純粋で「優しい」

彼女は仕事の初日に「AM(午前)」と「PM(午後)」の英語表記の意味が分からない事や物品を壊してしまい迷惑をかけてしまった。

その事を反省し二度と起きないように「メモ」に記載し
夜中にメモ内容をみて次の日に備える。
※個人的に泣いてしまった。

そして、朝早くに出勤して準備を行うも出だしから「やらかし」をしてしまい、「仕事ができるだけに厄介な叔母様方」に責められるのだ。
※責めている自覚がないからこそ本当に厄介

「ふつうは・・わかるよね」と。

世の中には「頑張って何とかなる事」
「頑張って何とかなるかどうか微妙な事」
「頑張ってもどうにもならない事」
の3つがある。

主人公のが抱えている自閉症スペクトラム症は脳の構造上
非言語的かつ相手の意図を検出するような高度な
コミュニケーションは苦手なのだ。
軽度知的障害も相まって当然「抽象的な表現」を理解する事は難しい。

厄介なのは精神症状(脳の状態)は見えないため
「頑張ってもどうにもならない事」を強要されるケースがあるのだ。

※身体症状は見えるため、例えば重度片麻痺の人に走る事を強要する事はない。余命宣告されたがん患者に安易に「頑張れ」とは言えない。等々

おわかりだろうか?
全てとは言わないが発達障碍をお持ちの方の世界は
「ふつう」という枠組みがとても残酷で暴力的
なのだ。
「頑張れ」とは言うが何を頑張ればよいのかわからないからだ。
しかし、目に見えないから自分の努力不足だと考え心が病んでしまう。

さて、「初恋、ざらり」というドラマは障碍者の就労についてのテーマもある。おそらく深い内容は3話以降なのだろうが、1話の冒頭のセリフが個人的に刺さった。

「お金が少ないから、一般雇用で働くしかない」

障碍者雇用の平均月収は
精神障害:12万5千円
発達障碍:12万7千円
知的障害:11万7千円
厚生労働省「平成30年度障害者雇用実態調査結果」

少しデータは古いがこんなものなのだ。
もちろんこのデータには非正規雇用やパートも含まれるが
この様な現実があるのだ。

ちなみに国は法定雇用率を上げようとしているが、
この収入のデータを見て邪推したくなる私の気持ちが分かるであろうか・・?

もう一つ、興味深いのが主人公の恋人である岡本の存在だ。
彼の家庭はふつうを強要しておきながら、暗黙に特別であって欲しいという
親の欺瞞が渦巻く幼少期の家庭環境であった。

「ふつう」を強要しながら、特別を求める心理はダブルバインドと呼ばれる心理的拘束である。そして、子供は葛藤し心を病んでいくのだ。きっと岡本のお兄さんが家を出ていったのはその様な背景があったからだろう。
この作品の面白い所は心の心象風景を「絵」というメタファーを用いて上手く表現している。

1話の序盤、幼少期の上戸の絵は枠組みから溢れはみ出し、制御がきかず
世界を侵食している。そして母に請うのだ。
「ふつうになりたい」と・・。

一方で岡本の絵はとても丁寧で、絵の具の使い方も繊細で、
一方でどこにでもあるどこか淡泊な絵でもあった。

それぞれの絵が全く異なるが、本質的には「ふつうの暴力」によって傷ついた心がある。そして、二つの心は紆余曲折しながらも惹かれ合い織りなし
紡ぎ出すストーリーは圧巻である。今後も楽しみにして視聴したい。

「包摂的なふつう」と「排他的なふつう」とは

上記の概念は東畑開人先生の著書「ふつうの相談」から引用させて頂いた。


『ふつう』には人を抑圧する面と心を解放する面の両方がある
『普通にしなさい』と言われると苦しいが
『そんなことされたら普通は傷つくよ』と言われると助かる。

普通には『包摂』と『排除』の両方が含まれている。
クライアントは得てして 『ふつう』を見失いがちである。
苦悩の中にいて孤立している時には共同性や社会性が失われ
実際の現実よりも厳しい『ふつう』を想像してしまう。

だから臨床家が現実的な普通を補うことはクライエントが社会と再接続していくのに役に立つ。普通の相談では普通が処方されるのである。

ふつうの相談,東畑開人より引用

『ふつう』という言葉は我々はいつの間にか
無意識に使用してしまう言葉である。

『ふつうは報告するよね?』
『社会人としてふつうは遅刻しちゃだめだよね?』
『挨拶は当たり前です(ふつうです)』
等々だ。

『ふつう』とは『常識』としてのメッセージが
存在するが一方で『◯◯であるべきでしょ』
という攻撃性として潜在的なメッセージとして
発信されるケースがある。

そして、この『排他的なふつう』は
他者のみならず自分に用いる事で
私たちは自他共に苦しむのだ。

日常場面では以下の通りである。

『ふつうこんな場面で怒っては駄目なのに、』
『ふつうはもっとできるはずなのに、』
『ふつうは子供は学校にいっているはずなのに、』
『社会人になればふつうは働かないといけないのに、』

『排除的なふつう』は場合によって心を病ませてしまう。

では、『包摂的なふつう』に至るためには何が必要なのか?

相手に対する敬意や関心はもちろんそうだが、
専門家によって提供される『専門知(知識)』と、分かる事によって生じる
「熟知性」によって「包摂的なふつう」は起動するのだ。


ちなみに『専門知』と対をなすのが『世間知』と呼ばれるものだ。

世間の一般常識(世間知)が通用しない時に私たちは、
現状の打開策を模索する。
家族に相談してもどうにもならない
友人や同僚に相談してもなんともならない。
その時に私たちは専門家に相談して専門的な知識
を得るのである。

そして、『ふつう』でない原因を「専門知」により理解するのだ。

例えば以下の通りである。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『物忘れが多いのは努力の問題ではなく脳神経の問題だったんだ
 (発達障害)』

『人に辛くあたってしまうのは、ホルモンバランスの影響が
 大きかったんだ、、(月経前症候群)』

『学校の行き渋りはサボりではなくうつ病が原因だったんだ、、』

『心がしんどいのは、ありのままの自分を抑圧していたからだったのか
 (自己一致)』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

お分かり頂けただろうか。
『専門知』によって「わかる事」とは
自分や他者に優しくなるために有用であるのだ。

本人や周りが「熟知」する事で『包摂的なふつう』は
再起動する。それは、社会の繋がりの再接続でもある。

『わからない』を前にして、どうにも
ならなくなった時に私たちは『排他的なふつう』
を用いて、現実を逃避もしくは否認する。

でも、いつしか限界がきた時に私たちは
『分かろう』とするだ。
この態度は『関心』でもあり『愛』でもある。

そして『専門知』によって現実に則した対応や
心の在り方が可能になるのだ。

『分かること』は自分や他者の癒しに繋がる。
そして、できるだけ『わかってもらう』ためには
我々専門家の「日々の研鑽」や『言葉の熟達』が必要だ。

ここは、私の今後の課題でもあるだろう。

というわけで私自身の「言葉の熟達」や「包摂的なつながりの再起動」を
図るために講座を開かせて頂きたい。

「分かり,触れ合い,つながる心理学」と題して講座を開催する予定だ。

内容は就労移行支援事業所の講座を一般の方向けに開催する。
内容は以下の通りである。

参加希望者は以下のアドレスまでご連絡下さいませ!!

kanegonhawa@gmail.com

①名前②メールアドレス③電話番号④単発or全講座参加⑤メッセージ


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