【裏側】トライアウトであったこと
1. 藤井コーチ登場
9時。トライアウトが始まる前に、06ブルズのメンバーが練習を行っていた。
(走りこむ遊馬ジェシー選手と孫入優希選手を担いで走る栗本皐生選手)
各自ノックや打ち込みを行う中、10時過ぎ、一人の男がグラウンドに現れた。
11月12日に就任が発表された藤井秀悟投手コーチ兼GM補佐だ。
矢白木崇行オーナーとランニングとキャッチボールをした後、練習に参加していた井阪功大投手とキャッチボールを行った。
(フォームの細かいところまで気づいたことを一つ一つ伝える藤井コーチ)
井阪投手には「3球、3イニング、3試合」というスパンで見ていこうとアドバイス。そうすれば、いい、悪いの判断がやりやすくなる」と伝えていた。
指導を受けた井阪投手は「自分が今どう投げてているか、どんな投げ方をしているのかも教えてくれた。意識をしっかりしていいところを吸収していきたい」と話した。
トライアウトでも精力的に選手たちを見ていった。
受験生にトスを上げるなど、グラウンドを動き回っていった。
「僕自身トライアウトを2回受けているのでものすごく受ける人の気持ちがわかります」と藤井コーチ。
「気持ちを前面に出ている選手を見たいです。レベルよりも伸びしろというところを見ていきたいですね。そして一回で結果を出せる準備をしてほしいです。もちろん普段の試合でも大事な部分ですけれどね」
今季防御率リーグトップの06ブルズ。練習生を含めトライアウトでは4人の投手を指名した。藤井コーチの指導でどう変わっていくか楽しみだ。
2.現役捕手が見たトライアウト
ブルズの選手たちがサポートをしていた今回のトライアウト。今回はブルペン捕手として堺シュライクスの秀太捕手、神戸三田ブレイバーズの濵口竜成捕手だ。
2人とも高卒1年目の捕手。ただし彼らはトライアウトを経ずにそれぞれのチームに入団している。
(50m走の様子を見守る秀太)
「自分が(トライアウトを)経験していないのですごく参考になります」と秀太。
「もちろん自分と同じポジションの選手が指名されるかもしれないので……ちょっと緊張もしています」
(ブルペンキャッチャーとしてスタンバイ中の2人)
(引退した06ブルズの虎弥太選手から技術面のアドバスを受ける濵口)
濵口も「気持ちの面とか必死になってやっているところとか、そういったものはものすごく参考になりました」と振り返った。
同じポジションの選手が指名された両球団。
「来年はレベルアップします!」力強く濵口が宣言した。
そして、秀太は……
3.異色の受験生
「オッケー!ナイスプレー!」「いいぞ!ナイスバッティング!」
一人大きな声を出してずっと会場を盛り上げていた選手がいた。野崎純世。
彼は「じゅんせー」という名で、スレンダーパンダという漫才師の一人として活動している。
トライアウトの2週間前、突如としてさわかみ関西独立リーグのアカウントににタグをつけてこんなツイートをしていた。
(写真右側がじゅんせーこと野崎純世。左側は相方の木谷カレー)
元々このコンビ、流通経済大学の野球部出身。青森出身でお笑いが好きという共通点のある堺シュライクス・松本祥太郎オーナーに誘われて、開幕戦などで行われたYouTube配信を行った時には「実況と解説」として登場した。
「トライアウトを受けようと思ったきっかけは開幕戦で実況を担当した時でした。それまで独立リーグは知っているだけの存在でした。魅力があるのにそれを知られないのはもったいないと思いました。もっと広めたいなと思いました」
そう思い立ち、事務所や相方の木谷さんとも何度も話し合った。出した結論は「やりたいことをやるがモットーのコンビだから野球もお笑いもやってステップアップしていこう」だった。
もちろん「ほかの受験者の方に迷惑はかけられない」とトライアウトまでに練習にも打ち込んだ。開幕の頃より体は絞れていた。意欲は人一倍だった。
(遠投で82メートル、50m走6.40秒を記録した野崎)
元々流通経済大でプレーしていた野崎。軟式野球を続けていたこともあり、動きは機敏だった。
外野守備ではエラーもあったが、遊撃の守備では華麗な動きを見せた。
事務所のプロフィールに「特技・フレーミング」と書かれていた捕手にも途中から挑戦。ブルペンでボールを受けた。
その間、ずっと声を出し続けていた。自分のプレーにも、他の受験者にも。
(シートノックの出番前、バットを二本持って素振りをする野崎)
最後のほうには受験者も野崎につられて声を出すようになっていた。
そしてドラフトの結果、堺シュライクスから6巡目指名を受けることとなった。
(合格者として野崎の名前が読み上げられた時、嬉しそうにスマホを構える相方の木谷カレーさん)
堺のイベントには出ていたが、そもそも堺の関係者がトライアウトを受けることを知ったのもエントリー後。指名確約はなかった。
ただ、参加者の中でもしっかり目立っており、結果もしっかりと残した。
「元々阪神ファンで、新庄剛志さんが好きだったんです。その新庄さんが去年トライアウトを受けているのを見て、『夢を追うのに年齢って関係ないんだな』って影響を受けました。一段と野球をする覚悟を決めないといけないと思いました」
(指名後、ガッツポーズの野崎)
「M-1は敗退しちゃったんですが、この後キングオブコントやR-1ぐらんぷりもあります。ひょっとしたら相方ともリモートでネタ合わせをすることになるかもしれません。野球もお笑いも極めて……野球ならNPBに行けるレベルまで突き詰めてやっていきたいなと思ってます」
今後は野崎が所用のたびに関東に戻るなどしながら両立を図るという。
「タイトルとかも獲りたいですね。元気と脚がセールスポイントです!」
こうして二足の草鞋を履く独立リーガーが新たに誕生した。
ライブでは笑いを、野球ではスタンドに笑顔を届けられる存在になってほしい。
……一方そんな話をしていた横で非常に気まずそうにしていた男が一人。チームメイトとなる堺シュライクスの秀太だった。
「脚も速い、同じポジション……寮にも住まわれるということなので……もっと頑張らないといけないですね!」
笑顔だったが目は笑っていなかった。秀太の飛躍にも期待がかかる。
4.その他光景
競合が出たときに誰がくじを引くのかじゃんけんで決める神戸三田ブレイバーズ首脳陣。なお、木村豪コーチがくじ引き係となったが競合は発生せず。
カメラに気づいてピースする松本オーナー
今回運営サポートを担当した06ブルズの選手たち。先日引退が発表された虎弥太、宮前晴輝の両選手にもサポートいただきました。
(文・写真:SAZZY)