【バースデー】生島大輔が愛される理由
サプライズ
6月12日。上富田スポーツセンター野球場。朝9時。スタッフが設営を始め、選手がアップを始めたころ、生島大輔選手兼任コーチが選手の一人とともにトスバッティングを始めた。
ある程度打ち込んだら野手が集合。今度はコーチの顔になり、選手の輪の中心になる。
その後、川原監督含め全員が集合。
しかし、一人いない。川原監督が「おい、奥西(亮介)どこ行ったんや?」
「ハッピバースデートゥーユー!ハッピバースデーディア生島さーん!」
川原監督の一言を合図に歌いながら小走りで奥西が出てきた。
そう、この日は生島の35歳となる誕生日だった。
(選手からのプレゼントを代表して渡す奥西、受け取る生島)
(プレゼントのサングラスを早速装着。「めっちゃよう見える!」と生島)
「シーズン中に祝ってもらえる選手なんて本当に大したものですし、ありがたいものですよ」と川原監督。(なお、川原監督の誕生日は11月17日。シーズンオフになる)
試合中も試合後も
試合が始まり、1打席目には「本日が誕生日である」ことがアナウンスされ、球場は大きな拍手に包まれた。
(熊野高校サポーターズリーダー部の応援を背に打席に入る生島)
4回の打席ではライト前ヒット、6回には一塁手を強襲する内野安打を放ちいずれも得点に絡む活躍を見せた。
(試合後、つけていたメモをもとに、選手たちに声を掛けていく生島)
試合には敗れたが、試合後もファンや新聞社の方などからプレゼントを渡されるなど、「生島の日」となった1日だった。
試合後・生島の言葉
「今日だけではなく、負けた試合は大体自分が作ってしまっている。もう一本どこかで自分が打てていれば勝ててたかもしれないですね」
試合後、生島に話を聞いた。繰り返し出てきたのは「自分が打てていれば」という言葉だった。
とはいえ、今季打率、安打がリーグトップ(6月12日時点)、その他の項目も軒並み上位に入る生島。好調の要因を聞いてみたら思いもよらぬ答えが返ってきた。
「自分の中では、今は自主トレ・キャンプ・オープン戦の段階で打席に立ったり守備につける段階では全然ないんです。まだ土台を作っている段階です」
これだけ打てる人の状態が「3カ月遅れ」という状態であることに驚いた。そして次に出てきた「コーチ」としての想いも、並々ならぬものがあった。
「チームとの契約もありますが、まずは選手たちに練習する環境を整えていかないといけないと思っています。今この球団にはキャッチャーが西河(洋樹)と長尾(勇輝)しかいないので、ブルペンでピッチャーのボールを取ることもしないといけないですし、バッティングピッチャーをやったり、ノックを打ったり。そこが優先になります」
(試合前、バッティングピッチャーを務める生島)
「もちろんそうなると、自分のわがままで『ノックを打ってほしい』とか『ボールを打たせてほしい』なんてことは若い選手には言えないですし、選手たちに遠慮させてもいけないですし、試合前とか終わった後のわずかな時間でしっかり自分の事をやるしかないなと思っています」
練習場の確保、選手への指導など、生島の仕事は多岐に渡る。選手に指導する内容は野球の事だけではない。
「グラウンドや球場の使用マナー等はしっかり守るように伝えています。一度マイナスのレッテルを貼られたらそれを剥がすのは難しいです。球団の体制が変わって、田所代表がいまそこを一番苦労していただいていると思うのですが、地域の方にご迷惑をおかけしてはいけないですし、そこをしっかりしていかないと、今後の活動に影響が出てくることは伝えています」
そして「選手生島」についてはこう振り返る。
「よく『選手何割コーチ何割ですか?』という質問をいただくんですが、個人としては両方10できないと気が済まない、20やらないといけないと思っています。そういう思いもあってまだまだうまくいってないなと思っています。練習して、試合で通用して、コーチとして選手たちに言える立場に、みんな以上に動けるように、とはいつも思っています」
打ち取られた時の残像をもとに素振りをしたり、試合後の自己分析は欠かさない。「あえて言うなら」広角に打球を飛ばすことを意識していることが今の成績につながっているという。
そんな生島は「優しく言えばぬるいし、もっとしっかりやれば伸びる」とこのリーグの選手たちの事を評する。
「若い選手たちには『野球ができる喜び』をしっかり感じてほしいです。でも、例えば契約の事、コロナの事、家庭の事情などで、ある日突然野球ができなくなるかもしれない、野球をやりたくても続けられなくなることができなくなるかもしれない。そのことを頭の隅に置いていれば取り組み方が絶対変わると思うんです。だからサボってるような奴がいたら『一本でも俺にノック打ってくれよ』『俺に投げてくれよ』って思ってしまうこともあります」
好調のファイティングバーズについては「声もよく出て明るくなってきましたが、今はテンションや勢いでここまで来ている状態。これをモチベーションにしたらもっとチームがよくなっていく」と話す。
「『野球が続けられなくなるかもしれない』ということも、マイナスではなくモチベーションにしたら絶対によくなっていくと思っています。もちろん無理やり何かをさせるということはできないので、かける言葉などは気をつけるようにしています」
チームの事、個人の事でなかなか気が休まらないが、リフレッシュの方法についても聞いてみた。
「内陸(奈良県)の育ちなので、海が近い田辺市は気に入っています。なかなか最近行けてないですが、アドベンチャーワールドに行ったり、釣りやゴルフ、温泉とかに行っています。温泉は田辺から30分ぐらいのところにある『リヴァージュ・スパひきがわ』に行きます。あそこのお湯は時間をかけても入りに行く価値があります」
(美肌の湯として有名なリヴァージュ。筆者もよくお世話になっています)
「チームとしては地元のファンの方や選手の方のアルバイト先でお世話になっている農家の方、スポンサーの方に、いいパフォーマンスをして勝っていきたいです。そしてさわかみ関西独立リーグ4チーム全体で、地域と一緒に上の世界へアピールしていきたいと思っています」
力強く生島はそう宣言した。
とどめのサプライズ
話を伺っていたら17時を過ぎていた。グラウンドから上がったところに選手たちが勢ぞろいしていた。
そう、生島を待っていた。
(用意したケーキを持つ長尾)
選手総出で生島を待っていた。「来た!」の合図とともに長尾がケーキを運ぶ。
(あれ?後ろに誰かが…?)
(渡邉開登のシュークリーム攻撃※使用したシュークリームは選手たちがおいしくいただきました)
「いやぁありがとうなぁ…」選手たちに生島が声を掛けた。このムードがあるからこそ、昨年から和歌山は上位にいられるのだろうなと思った。
(深谷力にも襲撃を受け最終的にこうなった生島。「年齢の事もよく聞かれるんですけど、最近は精神年齢に合わせるようにしてます。最近調べたら二十歳ぐらいでした」とのこと)
渡邉にも深谷にも「生島大輔」とはどんな人なのかを聞いてみた。
「背中で語ってくれますよね」(渡邉)
「責任感が半端なく強いです」(深谷)
「試合に負けたり、何かあったら『俺が悪い』『俺のせいで』ってなりますし」(渡邉)
「だから野球でもなんでも、生島さんがやってる以上の事を僕たちはやらないといけないなと思っています」(深谷)
選手、スタッフ、ファン、それぞれから愛される生島。その理由が今日わかった気がした。自分の事も、他人の事にも、200%以上の力で、できることにぶつかっていく姿が、とにかくかっこいいのだ。
取材の最後にも「うちの若いのもよろしくお願いします」と何度もお願いされた。どこまでも選手ファーストだ。
生島大輔のここから先続くシーズンも活躍を願ってやまない。
(取材:SAZZY 取材日:6月12日)