もう一歩
杖をついた老人が歩いている。歩行器の老人が歩いている。手ぶらだけれど、リュックを背負い散歩する老人がいる。しっかり歩けず、一歩一歩踏みしめながら歩いている。
こんなに老人がいたのか。
朝早く仕事に行き、夜遅く帰ってくると、昼の老人の姿など見ることもない。なんで歩いているのだろう。家でじっとしていればいいのに。
狭い道を年寄りがあっちこっちうろうろしていたら、通りにくくていらいらする。電車の中でマスクもしない子どもがさわいでいるとコロナも気になるしいらいらする。(まあ、こっちはしつけもしないで、その場で注意もしない親に対していらいらするのだけれど……)
子ども叱るな来た道だもの
年寄り笑うな行く道だもの
こんな言葉を思い出した。子どもの頃の自分を忘れている。これからの自分の姿から目をそらしている。
自分もだんだん歩くのがおっくうになってきた。いざ自分が歩きにくくなってくると、「もう一歩」がなかなか出ない。
そんなとき、ふと高石友也の「もう一歩」を思い出した。
もう一歩 もう一歩
新しい君の夢が叶う♪
「もう一歩」という言葉が頭の中でかけめぐる。「もう一歩」が応援歌となり、言葉と一緒に足を一歩前に出す。
高石友也は我々の世代では、
おいでみなさん聞いとくれ ぼくは悲しい受験生♪
の「受験生ブルース」を思い出してしまう。
「もう一歩」は、一時期、道上洋三のABCラジオ「おはようパーソナリティ(おはパソ)」でよくかかっていた。高石友也はラジオのセミレギュラーのような存在で、よく出演していた。
朝の「おはパソ」も、車で通勤している頃はよく聞いた。
兵庫県伊丹市に住んでいる道上洋三はずっと大阪で放送を続けた。関西ではおなじみ。2022年まで45年間ラジオが続いた。大震災の時も、病気になった時も続けた。
よく東京からゲストで来ていた永六輔も長年ラジオを続けた。
永六輔は亡くなってしまったが、道上洋三は脳梗塞のリハビリを続けながら、もう一歩を踏み出そうとしている。
生きていると、「ここでもうやめてしまおう」と思うこともある。そんな時、「もう一歩」というエールが聞こえると、がんばれることもある。
「もう一歩♪」と口ずさみながら、「もう一歩」、歩いてみようか。