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地獄の話
誰が見てきて伝えたのかわからないが、昔から地獄には八つの地獄があると言われる。
一つ目は等活地獄。難しい名前だが、むやみに生き物の命を奪った者が行く。殺生の罪という。
とはいうものの、この地球に生きる生き物は、みな他の命を食べながら生きている。我々ヒトも他の生き物の命をいただいている。いやいや私はヴィーガンで野菜しか食べないという人も、我々東洋人からすれば植物という生き物の命を食べていることになる。動物も植物も同じ命を持っていると考える。他の命をいただかなければ地球では生きていけない。だから「いただきます」と言ってから命をいただく。
そういう罪ではなく、むやみやたらに生き物の命を奪う人が落ちる地獄。
争いごとが好きだった人も落ちるそうだ。
ここに落ちた罪人は、鉄のツメをつけて、互いに殺し合いをしなければならない。また、地獄の鬼によって生きたまま体を切り刻まれる。スパスパと切られ、死んだと思えばまた生き返り、またまた生きたまま体を切られる。苦しみがずっと繰り返される。
次に黒縄地獄。ここには、むやみに生き物の命を奪う殺生の罪に加え、盗みを何度もはたらいた者が行く。
地獄は、下に行くほどに罪が重なっていく。殺生の次に盗みがくる。盗みも一度や二度ではなく、何度も繰り返すのが罪だという。
熱く焼いた黒い縄を、焼き印をジューッと押しつけるように、体に巻き付ける。ジュージューッと体に焼き目がつく。体を焼かれる苦しみ。
また、縄の跡がついた体に、これまた熱く焼いた鉄の斧で体を切り刻んでいく。
また横には、熱く熱した鉄の山がある。そこに張ってある鉄の綱の上を罪人に渡らせる。熱くて苦しい。苦しくて山から落ちると、そこには煮えたぎった鉄の釜があり、生きたまま煮られていく。
ここでも死んだらまた生き返って、同じ苦しみをくり返し味わうことになる。
その下にあるのが衆合地獄。殺生、盗みという罪に加えて、邪淫の罪を犯した者が行く。邪淫の罪とは、淫らな行いをくり返すことをいう。
上の階層の黒縄地獄の十倍の苦しさがあるといわれる。
熱した鉄の山に押しつぶされて圧死したりもする。死んでも生き返り、同じ苦しみをなんども味わう。
鉄の刃がたくさんついた道の上で、美人が誘う。罪人は、ふらふらと美人を求めて刃の上を歩いて美人のもとへ行く。行ったと思えば、美人は下の方にいる。罪人は、どうしても美人のもとへ行きたくて、またまた刃の道を歩いて血だらけとなる。淫らな罪を犯した者は、美人を見るとどうしようもなくなってしまう。
と、ここで「邪淫の罪」が出てくるが、これでは子どもに伝えたくても関係なくなってしまうし、女性はどうなるんだ。男遊びをくり返した女性も行くのだろうか。疑問も多い。
現代感覚では納得できないこともあるが、これが地獄なのだから仕方ない。
次は、叫喚地獄。罪は重なっていくので、殺生、盗み、邪淫の罪に加えて、飲酒の罪。酒を飲むことが罪となる。
もちろん普通に酒を飲んでも地獄には落ちない。地獄に落ちる酒というのは、酒を飲ませて悪事を働いたり、酒に毒を入れて殺人を犯したりする罪をいう。
衆合地獄の下にあり、その十倍の苦しみを受けるという。
熱湯風呂の中でさらに煮られたり、燃えたぎった鉄の部屋へ入れられる。苦しくて叫び声をあげると、それを聞いた鬼たちは興奮し、罪人を追い回して弓矢で打って打って打つ。
罪人の体は生きたまま腐ってうじ虫がわいてくる。その体を鬼たちは生きたまま食べる。
ここでも命が亡くなったと思うと生き返り、また同じ苦しみがくり返される。
叫喚地獄の下は、大叫喚地獄となる。ここでは、殺生、盗み、邪淫、飲酒に加えて「うそ」が加わる。うそをつくことは、今までの罪より重い罪となる。罪人の苦しみは、叫喚地獄の十倍となる。
次には炎熱地獄がある。大叫喚地獄の罪に加えて、仏の教えに反する者が落ちるといわれる。炎熱地獄というだけあって、常に熱い火で焼かれ続ける。
ここの火の熱さは、今までとは比べものにならないといわれる。
その下は大炎熱地獄がある。ここでは今までの罪に加え、強姦の罪が加わる。
強姦は全てだめだろうが、特に、尼僧と童女への強姦があげられている。
その罪にあわせて、炎熱地獄の十倍の苦しみがあるという。
最後に待っているのが無間地獄。ここでは今までの罪に加えて、父母の殺害が入る。親殺しの罪だ。
ここでは、今まで見てきた苦しみが絶え間なくくり返される。
子どもたちが行くといわれる賽の河原も、石を積んだら壊され、また積んだら壊され、同じことを永遠にくり返さなければならない。
おなじことをくり返すということは、人間にとって苦しいことなのだろう。
死んでもまた生き返って、同じことをくり返す。同じ苦しみをくり返す。
こういう地獄の話を、ただ物語としてでいいので、子どもたちに伝えていきたい。