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嫁迫、ヨメサック、「嫁」について考える
仮面のYouTuberラファエルが結婚して、配偶者をYouTubeに出した時、本人の前で「嫁」という言葉を使っていた。芸人のYouTuber宮迫は配偶者を「嫁迫」、カジサックは「ヨメサック」と言っている。お笑い芸人を中心に「嫁」という言葉がよく使われるが、古い人間である私は違和感を覚える。
「嫁」という字は、家の女、家に付随する女性という意味になる。家制度に付属するのが「嫁」だと思ってしまう。戦隊ものでピンクは女性だと思ってしまうようなものだ。小学生のランドセルは、赤やピンク以外の色を使う女の子も増えてきているのに、なんで夫婦は「嫁」というのだろう。
妻を呼ぶ他の言葉はどうだろう。「奥さん」や「家内」という言葉がある。
ちなみに、若い夫は「嫁」を使い、年配の夫は「家内」を使う人が多いそうだ。
「奥さん」は家の奥にいる人。「奥方」という言葉があるように、家事もしないで召使に家事をさせる上流の妻を「奥さん」と言ったものだろう。「家内」も、奥方ほど奥に行かなくても、家の内にいて、外に仕事には行かず、家で家事をする妻をさす言葉から生まれたのだろう。
「嫁」「奥さん」という言葉は、もともとは自分の妻のことではなく、他人の妻に対する言葉だった。「Aさんの嫁」「Aさんの奥さん」と使った。
「家内」の反対は「主人」になる。「主人」は家の中心、大黒柱のことだ。
大黒柱は、昔の家には構造上なくてはならないもので、大黒柱が崩れると家も倒壊した。柱で家を支えていたのだ。今の家は、プレハブで代表されるように、壁で家を支えているので、大黒柱がなくても崩れない。主人も、家の大黒柱ではなくなった。
今の若い妻は「旦那」という言葉をよく使うらしい。「うちのダンナは」と言うのだ。「旦那」は、もともとは大きな商売屋の主人のことを言っていた。「あの女性がお世話になっている旦那」というパトロン的意味合いもあるそうだ。
配偶者への呼び方だけでなく、相手への呼び名もいろいろある。「あなた」「おまえ」「きさま」「君」など。
「あなた」は貴方、貴女、貴男などと書くが、本来の漢字は「彼方(あなた)」だ。「こそあど言葉」の「あ」になる。これ、それ、あれ、どれ、が「こそあど」で、ここ、そこ、あそこ、どこ、と距離をあらわす言葉の一つが「あなた」だ。「あそこ」の「あ」に「方」がついて「彼方(あなた)」。遠くを指すことばだった。江戸時代に、参勤交代で江戸と地方に離れていた妻が、遠くにいる夫を、彼方にいる人、「あなた」と呼んだのが始まりらしい。「あなた」は「かなた(彼方)」に変化していき、今では距離に関しては「あなた」より「かなた」を使う。昔は、「やまのあなたの空遠く」と言っていた。
「おまえ」「きさま」は、漢字で書くと「御前」「貴様」となる。
「御」は敬語だし、「貴」は尊い人につける言葉だ。どちらも「あなた様」という意味だった。「だった」というように、今では相手を見下したような表現になっている。昔、女の子に、「おまえなあ……」と言って散々な目にあったことがある。「おまえ」に対する拒否反応がすごかった。
「御前」と書くと「おんまえ」「みまえ」という読み方もあり、これは神や仏の前という意味になる。うちの田舎では、普通に「おまえ」と使っていたのに……。地域によっても使い方が違う。
神が妖怪や鬼に落ちていくように、言葉も、人称代名詞は尊いものが卑近なものになっていく。本来の漢字の意味とは違った意味で使われている。
「おまえ」は「御前」ではなく「おまえ」あるいは「お前」と表記して、「御」の意味を消していく。「きさま」も「貴様」とは書かない。言葉の意味が変化している。
「嫁」にしても、若い人は漢字を意識せず、「ヨメ」という意味で使っている。ちょっと生意気に漢字を使って表記すれば「嫁」になる。でも、「家」がどうこうは考えない。ヨメと家が結びつかない。そんな感覚ではないだろうか。
「嫁」という言葉に違和感を持つのは古い人間だけではないか。言葉は時代と共に変化していくのだ。
「嫁」「家内」「奥さん」は配偶者以外と話す時に使うのが基本だ。では、実際に配偶者である相手に対してどう呼んでいるか。
「おい」ですます年季の入った夫婦は別として、恋人同士ではどう呼んでいるか。「おまえ」「きさま」はないだろうから、「あなた」「君」?
私は名前で呼ぶのが好きだ。
二人だけのとき、互いをどう呼ぶかは本人の自由だが、他の人に話すとき、「嫁」という言葉に違和感を覚える人、拒否反応を示す人もいることは忘れないで言葉を使いたい。