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郷に入っては郷に従えアベリアよ

 生け垣に白いアベリアが咲いている。白い花の周りには赤いガクがついていて、遠くから見ると淡いピンクの花に見える。


赤いガクのアベリア


 あれあれ、大きな木の日陰にあるアベリアのガクは黄緑色をしている。
 日が当たる部分は紫外線を避ける赤になり、日陰のガクは赤くなる必要がなく緑のままだ。
 いつも見ているのに、そんなことには気づかずに通り過ぎている。当たり前すぎて考えたこともなかった。日陰の花(のガク)と日向ひなたの花(のガク)の色が違う。環境によって色を変えている。


緑のガクのアベリア


 ヒイラギのとげとげと同じ。
 ヒイラギのとげとげは動物に食べられないためにある。だから鹿などの動物が届かない高さにある葉にはとげがない。
 とげを作るにはエネルギーがいるからだ。


 アベリアも、紫外線を浴びる部分は赤くなるけど、赤くなる必要のない、紫外線の少ない日陰では緑のままなのだ。


 アベリアは園芸種で交配によって作られたと言われる。園芸種だから、生け垣によく使われる。
 以前はただの「生け垣のなんかの木」という認識だったけど、生け垣を作っている人から「アベリア」という名を教えてもらった。名前を知ると何か身近に感じる。

 和名はツクバネウツギ(衝羽根空木)。一つ名を知ると、別の名前にも行き着く。
 ツクバネ(衝羽根)は、羽根つきの羽根のことで、ガクのついたアベリアの花が羽根つきの羽根の形をしていることからそう呼ばれる。羽根つきなんて今の子どもはしたことがないだろうな。
 次々と花を咲かせるので花期は春から秋まで続く。咲いている花の横に次々つぼみができる。
 ツクバネウツギのウツギ(空木)は卯の花のことだが、ウツギのような花なのでそう呼ばれる。ただし、ウツギはアジサイ科(あるいはユキノシタ科にされることもある)だが、アベリアはスイカズラ科。匂いの強いスイカズラの仲間なのだ。
 身近なアベリアについても知らないことがたくさんある。

 アベリアは、日が照る場所では赤くなり、日の差さない場所では緑のガクをつける。自分の生きる場所に合わせて生き方を変えている。

 アベリアだけではない。植物は、自分の生きる場所によって姿形を変え、環境が変わるとまた姿を変える。

 人も、環境が変わると、その生き方を変える。その場所で、一番いい生き方をしようと思って、考え方も変わっていく。

 郷にっては郷に従えという言葉がある。
 中国の言葉が日本に伝わり、「郷にりては郷に従え」という言葉が鎌倉時代に作られた子どもの教育本「童子教」に取り入れられたものだそうだ。
 多民族国家の中国や、村社会の日本で長く使われた言葉だということは、人間の生き方のある種の真実を伝えているからだろう。

 同じ場所に住んでいても、時代とともに環境は変わる。あの時代はよかったと過去にしがみついても、過去と同じ環境にはもうならない。新しい時代には、新しい環境の中で生きなければならない。郷にっては郷に従わなければならない。
 人生何があるかわからない。新しい環境になったらなったで、その中で一番いいと思える生き方をしたい。その中でせいいっぱい生きたい。いつまでも昔の考えにしばられていてはいけない。


 当たり前に道ばたに咲いているアベリアが、私に人生を教えてくれた。
 

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