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夢を魅せる~テーマパークダンサーという仕事~

 テーマパークのメインイベントであるショーやパレードを行うとき、テーマに沿った衣装に身を包み、キラキラした笑顔とキレのある動き、息の合ったダンスで人々を楽しませてくれる人たちがいる。明るくエネルギッシュなパフォーマンスで観客を夢中にさせ、ショーやパレードをより一層盛り上げる。楽しそうな様子につられてこっちまで笑顔になれるテーマパークの世界観を作り出すのに欠かせない存在だ。その人たちの名はテーマパークダンサー。
 しかし華やかで明るい面が目立つ一方で、ダンサーになるのは難しい。テーマパークの数自体が少なく募集人数も限られているため、厳しい審査をくぐり抜けた人だけがなれる狭き門なのだ。
 今回取材したのは、難しいことだと知りながらもテーマパークダンサーを志望する3人。彼女たちの通っていた大学は、テーマパークダンス・バレエコースというダンス専門のコースが存在する短期大学だ。そこでは、ダンサーになるために必要なダンスの技能や表現力、舞台人としての礼儀やマナー、オーディション対策など、踊ることを仕事にするために身につけなければならない知識を学ぶことができる。

目指したきっかけ

 白川未采さん(21)がテーマパークダンサーについて知ったのは高校卒業後の進路を考えているときだった。幼い頃からバレエを習っていた彼女は悩んでいた。「最初は、保育士のようなバレエとまったく関係のない職業や衣装製作など踊らない仕事も考えていました。でもバレエの先生から『製作は踊れなくなってからでもできるけれど、踊れるのは今しかないよ』と言われ、自分自身ずっとやってきたバレエをここでやめてしまうのはもったいないなと思い直し、バレエが生かせる仕事を探すことにしました。そこでテーマパークダンサーの募集を見つけて、これだ!と思ったのです」。
 実際にテーマパークダンスを始めたのは大学に入ってからだった。学校はとにかくイベントが多く、1つのイベントごとに必ず新しいダンスを披露するため、必然的に人前で踊る機会が多い。今までバレエ一筋だった彼女にとって、お客さんとコミュニケーションをとりながら踊る経験ははじめてのものだった。実際に経験していく中でテーマパークダンスの魅力に気づき、ますますのめり込んでいった。

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 そして極めつけは大学に入ってからはじめて行った某有名テーマパークである。生で間近にパレードやダンサーさんを見てすごさを実感し、自分もここで踊りたいという強い思いが湧き上がった。大学に入り実際に活動している先輩などを見てチアダンスなどにも興味が湧いたが、やはり最終的になりたいのはテーマパークダンサーだという。
 佐藤未来さん(21)も未采さんと同じように、将来を考えるときにはじめてテーマパークダンサーについて意識したという。幼い頃からヒップホップやジャズ、チアなどあらゆるジャンルを習ってきた彼女は、自分の進路を考えたときに漠然と「ダンスで食べていきたい」と思い、テーマパークダンサーを意識し始めた。バレエを経験したことがなかったため、高校卒業後は経験があるストリート要素の強いダンス専門学校に行こうかと考えていたが、部活の顧問の先生の「逃げるな、バレエが強いところに行け」という言葉に導かれ、今まで経験してこなかったバレエがある学校に飛び込んだ。そこで本格的にテーマパークダンスを始め、「他の自分になりきれる」ところに強く惹かれたという。「そもそも人前で踊るのが好きっていう部分はあります。でもそれだけじゃなくて、テーマパークダンスはイースターやハロウィンなどテーマごとに雰囲気がまったく異なるため、より他の自分になりきることができるところが魅力です。悪い自分にもかわいい自分にもなれて、その違いを踊りで表現するのが楽しいです。もともと演技することも好きだから、ダンスと演技が組み合わさっているのもいいなと思います」。
 実は彼女は在学中にプロバスケットボールチームのチアダンサーに合格し、実際に1年間チアダンサーとして活動していた経験がある。しかし、今は契約を終了しテーマパークダンス一本に絞っている。「テーマパークダンサーは目指しても28歳とかまでしかできないんだから、その短い期間くらいはテーマパークに捧げてもいいかなって。やっぱり諦めきれないから」。
 一方、新保七星さん(21)はお母さんがダンサー募集のホームページを見せてくれたことがきっかけだった。ダンスを続けるか迷っていたときに、こんなのがあるよ、とオーディションのページを見せてもらい、「テーマパークダンサーなんてあるんだ」と興味を持った。そこから自分で調べ始め、テーマパークダンス・バレエコースがあるこの大学に進学することを決めた。「ダンス以外にも興味があることがたくさんあって、オープンキャンパスも専門から総合大学までいろんなところに行きました。でもやっぱりテーマパークダンスを学びたくて、ここに進学しようと決めました。他の専門学校のダンスだとけっこうストリート要素が強いなと感じたので、バレエを重視したかったのです」。
 テーマパークダンサーに惹かれた一番の理由はお客さんとの距離の近さ。実際に間近で見て距離の近さに驚きながらもすごく楽しいと感じた。見ているときでさえこんなに楽しいのだからここで踊ったらもっと楽しいと思うに違いないと思い、テーマパークで踊ることがいつしか自分の夢となったという。

厳しいオーディション

 3人がバレエについて言及していることからもわかるように、テーマパークダンスの基本となるのはバレエの動きだ。3人が通っていた大学のコース主任である大島博人先生は立ち姿や些細な仕草一つ一つにバレエの経験がにじみ出るという。「バレエが基礎で次に必要になるのはジャズかな。バレエの動きが綺麗にできればパレードでも美しく移動できる。だからバレエをやっていないとテーマパークは難しいですね」。
 そのため、テーマパークダンサーのオーディションでも一番重視されるのはバレエの基礎だ。オーディション内容は決まった形式に沿って行われる。最初に書類審査があり、ここではダンスの経歴や今までの経験、そして写真を提出する。一番頑張るのはやはり写真。膨大な数の書類から目をとめてもらえるように、少しでもかわいく見えるようにメイクや服の色を工夫する。「どんなメイクや髪型が似合うかなというのは考えます」と未采さんはいう。七星さんも、似合うレオタードの色などは自分だけではわからない部分もあるため、どっちの色がいいか人に見てもらうこともあると話す。
 書類が通れば次は実際に踊るダンス審査となる。しかしダンス審査といってもはじめから振り付けされたダンスを踊るわけではない。バレエの基礎技術を確認するために、スタジオ全面を横切るように使って、移動しながらダンスでよく使うターンやステップ、ジャンプなど技を披露するクロスフロアを行う。基本的には1人か2人で列になって順番を待ち、自分の番が終わったらまた列の最後尾に並び、審査員にストップをかけられるまで続ける。技はだいたい決まっており、回転するステップの代表であるピルエット、軸脚から片方の脚を離したり戻したりするバットマン、片足を前や横に投げだし、その方向に軽く飛ぶジュテなどが王道である。大島先生は「バレエの経験というのは振る舞いや一挙手一投足に出ます。実技審査では立っている姿勢なども見られているんですよ」という。これを通過するとやっと実際の振り付けで踊る実技審査に入る。
 何回か実技審査をくぐり抜けて生き残ると、最後には面接が待っている。大島先生曰く、「面接も意外と重要視されています。一般の社会人と同じ。担当者からの話によると、自分をアピールするような格好ではなく、TPOをわきまえた服装で行くべきだと言われます」。性格や協調性、実現可能性などを面接で審査され、面接試験を通過した人が、晴れてテーマパークダンサーとしての一歩を踏み出すことになる。「僕の感覚ではテーマパークに合わなそうなやんちゃな空気の人は合格しにくいんじゃないかなと思います。入ったら社内規則をきちんと守ってくれる人をとりたいから。テーマパークのブランドを守るためにいろんな努力をされていると思うので、その中にダンサーも合わせていかないとやっぱり難しいです。ダンスがうまくて自分だけを見てというタイプばかりでも大変。日常的なマナーは当然として、舞台上の独特なマナーも守っていける人にならないとなかなかトップにはなれないし、長く続けていくのも難しいと思います」。

テーマパークダンサーに必要なこと

 オーディションの内容以外にも、テーマパークダンサーにはいくつか暗黙の共通認識がある。まずは目指す期間。未采さんは、ダンスを教えてもらっている先生から「25歳までは書類がぽんぽん通るけど、過ぎてからは経歴がないとちょっと難しくなっていくと思うよ」と言われた。未来さんも「明確には決まっていないけれど若いに超したことはない」という。そのことについて大島先生は「必ずしもそうではない」と前置きして、「同じレベルだったら若い方をとることはあるかもしれません。それは雇ってからの成長の余地もあるし、上り調子の時期に使いたいというのもある。確実ではありませんが私も何人かから同じような話を聞いたことがあります」と教えてくれた。
 また、ダンスを魅せるためには体型や顔も重要になってくる。体のラインが綺麗だとダンスもより美しく見えたり、顔立ちや表情でパレードの雰囲気を作り出したりできる。自分に対するあらゆることがダンスに影響するのだ。そのため、未采さんは選ばれる際にスタイルや顔にも一定のラインがあるように感じている。「レオタードを着るので、スタイルがはっきりわかるじゃないですか。一回模擬オーディション受けたときに、『まずみんな太りすぎー』みたいにズバッといってくる先生もいました」。
 未来さんは、顔もダンサーとしての価値の一つだから大切だと言い切る。メイクで隠すのにも限界があり、一部の人にはすぐにばれてしまう。そのような外見重視の風潮もあってか、ダンサーになっても活動できる期間はそこまで長くないという。またオーディションに受かることはスタートラインにすぎない。ショーに出るためにはパーク内部でのオーディションを受けなければならず、さらにダンサー内のランキングで一定の順位以上に入っていないとオーディションに参加すらできない。40歳手前くらいまでは続けられたとしても、だんだん内部オーディションで受からなくなってくることがわかっているため、自分が満足した段階でやめてしまう人も多い。
 そしてテーマパークダンサーを目指す人にとっての憧れはやはり現役のダンサーである。未采さんと七星さんの憧れの人も、現在テーマパークで活躍しているダンサーさんだという。パレードやショーを見て、踊り方や立ち振る舞いが好みの人を探し、この人だ!と思った人についてインターネットやSNSを駆使して調べる。インターネットやSNSでは、ダンサーが好きで毎日のようにパークに通っている人たちがいるため、その人たちがあげてくれる写真や動画から憧れの人が出演するショーを知ったり、どの位置で踊るのか情報をつかむことができる。その情報を元に実際に行って、憧れのダンサーさんの動きを研究する。
 より身近な憧れは大学の一つ上の先輩だ。実際にテーマパークダンサーとして活躍している人はもちろん、インストラクターとして講師をしている人もいる。先輩たちから直接ダンスを教えてもらったり、振り付けを考えてくれた曲に出演することもあるという。パークのダンサーよりも身近な存在であるため、憧れであるとともに「こういうダンスを踊りたい」という具体的な目標のような存在でもある。

夢を叶えるために

 彼女たち3人は昨年度大学を卒業した後も、ダンサーになる夢を叶えるべくレッスンに励んでいる。未采さんと七星さんは大学卒業後に上京し、今はアルバイトをして生活費を稼ぎつつレッスンを受けている。上京のきっかけとなったのは一昨年の4月に東京で行われた大会に出たことである。周りのレベルの高さに驚き、ダンススキルを上げたいと考えるようになった。憧れの一個上の先輩たちが上京してレッスンしていることもあり、決断できた。
 未来さんも同じような生活を名古屋で送っている。彼女がレッスンを受けているのは大学在学中から教えてもらっていた先生だ。学生時代も学校のカリキュラムと並行してレッスンを受けていたため、卒業後も続けて同じ先生にお世話になっている。大学でも教えてくれていた先生であるため、教室には学校の同期や後輩も多い。先生は過去にテーマパークダンサーとして活躍されていた方で、レッスンではテーマパークダンスの基礎やオーディションでも審査されるクロスフロア、実際にパレードで使用されている曲を使い先生が振り付けてくれたダンスを踊ったりする。
 未来さんがレッスンに通っている教室の発表会を見にいく機会があった。そこで彼女がテーマパークダンスを踊る姿をはじめて見ることができた。

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 今回はレッスンを受けている教室全体での発表会なので、テーマパークダンスだけではなくシアタージャズやストリートなどまったく違うジャンルもプログラムの中にあった。どこかで聞いたことのあるようなパレードのイントロが流れ、ステージにスポットライトがあたり、ついに未来さんが出演する曲が始まる。30名弱の人数で行われたパフォーマンスは圧巻だった。取材で話してくれたとおりバレエの動きを中心に、優雅に、でも楽しそうに踊っている。彼女たちがあまりにも楽しそうに笑うから、観客も自然と笑顔になる。時折見ている私たちを誘うような振りが印象的で、「一緒に踊ろうよ」と語りかけられた気がした。発表会が終わったあと、私自身は何もしていないのになんだか楽しい気持ちでいっぱいになった。そのことを未来さんに伝えると、「そう思ってもらえたら、テーマパークダンサーを目指すものとしてはとても嬉しい」と話してくれた。踊っている人が心から楽しんでいて、それを見ている人も楽しくなって、皆でハッピーになる。なんて幸せな空間なのだろう!3人が目指す理由がわかった気がした。
 彼女たちの未来は厳しい。昨今の情勢もあり、これから先、今まで通りにオーディションが開催され、たくさんの観客の前で踊ったりすることができるようになるのかはまだわからない。それでも日々努力を重ねていく。夢を現実にするために。(中山幸穂)