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大学生環境活動家

グローバル気候マーチ

 2019年9月20日、赤ちゃんを連れたお母さんからお年寄りや外国人まで、さまざまな人が大阪市中之島に集まった。「NO石炭YES省エネ」「Cut CO₂ emissions!」「気候危機」。思い思いのプラカードを持って約300人が行進している。彼らの先頭に立つ小林誠道さん(21)は、Fridays For Futureと呼ばれる団体の大阪支部のリーダーだ。
 Fridays For Futureとはスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんが2018年8月に起こした活動の総称である。Fridays For Futureを直訳すると「未来のための金曜日」であり、毎週金曜日にストライキを起こしたことが始まりだ。活動の目標として、2015年の国連気候変動枠組条約締結国会議(通称COP)で合意された、世界の平均気温上昇を1.5℃に抑えるというパリ協定の達成を掲げている。「次世代に美しい緑豊かな環境を残そう」というグレタさんの発信に賛同し、日本でも2019年2月に地球温暖化防止を訴える活動が始まった。日本では気候危機宣言という、気候問題の関心を高め、対策を打ち出す宣言の発令を目標の一つに掲げている。小林さんは2019年6月から日本の大阪支部のリーダーとして、この活動を支えている。大阪支部のメンバーは10人。全員が20代の大学生で構成されており、このマーチも彼らが企画した活動の一つである。
 「グローバル気候マーチ」と呼ばれる冒頭の行進は、気候問題を自分自身にも降りかかる危機として認識し、政府や地方自治体に具体的かつ中身のある緊急対策を講じてもらうことを目的に行っている。この日は大阪支部で初めてのマーチ活動で、仲間は事前にSNSで募った。応募制ではないため、当日まで誰が、何人集まるかは分からない。結果として300人が自分たちの呼びかけに応えて集まった時、想定していた数よりも多くて嬉しかったと小林さんは話す。17時から始まったマーチは終始野外フェスのような明るく楽しい雰囲気で行われ、1時間かけて無事に終わった。環境問題を研究している学者や市議会議員も参加しており、これを機に交流が生まれ、Fridays For Futureの活動に助言をもらえるようになった。その他にも多くの参加者とのつながりが生まれ、11月に行われた2回目のマーチにも来てくれたという。

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 小林さんが活動するにあたって大事にしていることに「Climate Justice」という考え方がある。これは温暖化問題に取り組む中で他人を傷つけることなく、活動が全員にとってプラスになるようにしていこうとする考え方である。Fridays For Futureのメンバーがそれぞれ自分の目指す夢や希望を持っている。しかし、「自分のために、でもそれも皆のために」を大事にして、自分が良いと思うことが地球にとっても優しいことでありたいと考えている。この「皆」にはマーチの参加者も含まれる。小林さんは参加者に来てよかったと思ってもらえるよう、マーチが楽しくなるようなさまざまな工夫を凝らした。例えばネガティブな言葉を決して使わず、ポジティブな言葉のみで抗議をした。コールの内容も「ええやん!ええやん!パリ協定!」と関西弁を使ってノりやすいフレーズを考案。また、外国人も積極的に参加できるように「Our government be the change!」と声に出してもらい、他の参加者が続けて言うことで国を超えた一体感を生み出した。こうした工夫が、その場を通りがかった人にもマーチに親しみやすさを感じさせることにつながった。参加者とオーディエンスの双方が満足し、理解してもらえるように気を付けたという。

目標から目を離さない

 実は小林さんと筆者は中学生の時からの友人だ。中高大一貫校に入学したため、9年の付き合いになる。入学した当初、私たちは同じクラス、そして同じフィールドワーク部という年に数回野外調査をする部活に入ったため、すぐに仲良くなった。彼は昔からリーダー気質で、中学1年生のころから同級生をまとめ、調査先の研究を積極的に行っていた。高校1年生にはすでに部長を務め、堺市で行われる研究発表会では3年連続金賞を獲得した。研究に熱心で、好きなことにはとことん調べないと気が済まない好奇心旺盛な性格だった。
 一方、勉強面では高校2年生の頃、テストの成績が悪く危機感を抱いていた。このままではいけないと思い、本格的に取り組むことにした。しかし、ただがむしゃらに勉強したわけではない。「問題を解くだけでは成績は上がらないと思った。どうすれば効率的に成績が良くなるのか常に考えて勉強した」という。小林さんは英語が特に苦手でこれを克服するにはどうすればよいかを考え、目標を定めて一つ一つ課題を見つけて解決していった。自分なりの勉強法を確立した彼は、3年生の頃にはクラスの上位10人に名前が載るようになった。こうした好奇心と課題解決能力の先に、現在のFridays For Futureの活動があるのかもしれない。

「おしゃべりに行くというより戦いに行く」

 Fridays For Futureの活動はマーチのような呼びかけだけではなく、政府への直接的なアプローチも行っている。その中でも重要な実績となったのは、小泉進次郎環境大臣への提言である。活動を始めた当初から、小林さんは政府にアプローチして若者の意見を聞いてほしいと考えていた。1回目のマーチが行われた同日、環境問題の取り組みに対する提言書を大阪府・大阪市へ提出し、無事に受理されたことをきっかけに、次へのステップに踏み出したいと決意した。小泉大臣と接点があり、活動当初から交流があった弁護士にかけあってもらい、小泉大臣のもとにたどり着くことができた。
 2019年11月27日、小泉大臣との意見交換会が実現した。この日は授業の中間試験日でもあり、朝から試験を受けた小林さんは急いで東京行の新幹線に飛び乗った。新幹線の中で、活動を通してずっと抱いていたものを小泉大臣に伝えようと決めた。意見交換会は、Fridays For Future大阪支部の小林さんと東京支部のメンバー2人に加えて、同じく環境問題に取り組む5団体合同で行われた。応接室に通された小林さんは「おしゃべりに行くというより戦いに行く」気持ちだったという。楽しみという気持ちはあったものの、緊張もあった。そしてついに小泉大臣と対面した。各団体に3分間の発言時間が設けられ、小林さんはFridays For Futureを代表して思いの丈をぶつけた。「私たちはマーチを自分たちの未来のため、開催せざるを得ない状況にあるという思いから企画している。気候変動問題について意思発信と責任を果たす行為としてマーチがある。日本には今、変化が求められており、科学者や大人によって気候変動によるリスクはすでに特定し、想定されているのだから決断を求めたい」。小泉大臣からは「Fridays For Future Japanは日本で行っているのだから、スウェーデンのグレタさんの活動をそのままするのではなく、日本から世界へと運動を広げるものを」という返答をもらった。意見交換会を終えて、若者の意見を真剣に受け止めてもらいこの場を設けてくれた小泉環境大臣への感謝と、やりきった達成感でいっぱいだったという。「小泉環境大臣との交流は、活動の大きな目標の一つとして掲げていたから本当に嬉しかった」。

図2

地球を救いたいから始めたわけではない

 一国の環境大臣との意見交換会を成し遂げた小林さんだが、当初は環境問題に対してさほど意識はなく、Fridays For Futureに入ったのも地球を救いたかったからではない。「何か熱中したいものが欲しかった。それがたまたまFridays For Futureだった」と語る。小林さんがFridays For Futureと出会ったのは、大学1回生の時に参加したインターンシップだった。気候ネットワークの京都事務所へインターンに行き、活動の一環としてFridays For Future Kyotoの立ち上げに携わることとなった。当時は「インターンの活動だし、特に断る理由もなかったのでとりあえずやってみるか」という軽い気持ちで参加し、今のように環境問題を全力で解決したいとは思っていなかったという。Fridays For Future Kyotoではマーチの運営に携わり、プラカードの作成や報告動画の作成を行った。そして活動を行ううちに気候変動問題に興味が生まれ、住んでいる大阪で活動を広げたいと決意してFridays For Future Osakaを立ち上げた。
 「もしFridays For Futureの活動が自分と合わなかったらどうしていた?」と疑問を投げかけると、「それでもやっていた。そもそも今の活動も自分と合っているとは思えない」と意外な答えが返ってきた。小林さんは特にマーチの在り方に悩んでいるようだった。確かにマーチは周りを巻き込んで関心を持ってもらう大きな役割を持っている。しかし、マーチをしたから二酸化炭素が減るわけではない。かといってマーチはFridays For Futureの代名詞といえる活動でもあり、やめるわけにもいかない。温暖化を無くすためにはこれが正攻法とは思えず、マーチの在り方を見つめ直しているという。また、明るく行進するマーチもその根本はデモ活動と変わりはない。そのため、いくら通行人に配慮したとしても、「公共の場で騒いでいるだけ」というネガティブなイメージを少なからず持たれてしまう。マーチに付きまとうネガティブなイメージをどうするかが今後の課題だという。小林さんは「環境には関係ない問題で文句を言われることで、Fridays For Futureが悪く言われることは避けたい」と話す。活動開始から1年半が経つが課題は山積みだ。それでも大阪支部のリーダーとして考えることをやめず、どうしたら気候変動が解決できるかに向けて常にアプローチをしている。

広がるつながり

 小泉環境大臣との意見交換会は約半年後に効果が現れた。2020年6月12日、環境省が気候危機宣言を発令したのだ。そして大臣は会見の中で「今回、宣言をした気候危機宣言は若者からの意見を踏まえたものである」と発言した。小林さんたちの行動が国を動かす歯車となったのだ。「自分が起こしたアクションが形として表れているのはやはり嬉しい」と小林さんは改めて達成感を味わった。いつもと違い、この時は弾んだ声で、当時の嬉しさが伝わってきた。大阪府からもエネルギー課から環境問題について若者の意見を聞きたいと連絡があり、11月に意見交換会を行った。第2回の交換会も予定されており、活動の広がりを実感している。
 政府だけでなく、市民にもその成果が広まりつつある。ある日、1人の女性から主婦の集まりで環境問題について話してほしいと連絡がきた。彼女は以前から交流のあった高槻市議会議員と環境問題について討論をしていた場の傍聴席に座っており、興味をもって声をかけたそうだ。まさか主婦から声がかかるとは思ってはおらず意外だったが、集まりに赴き話をしたところ好評だったそうだ。政治家から政治家へのつながりだけでなく、政治家を通して主婦へもつながったことに驚いた。他にもインターナショナルスクールから環境について授業をしてほしいと依頼を受けて授業をしたこともあり、活動の幅がどんどん広がっている。政府との縦のつながりだけでなく、同じ市民との横のつながりも日が経つごとに強くなり、広がることで、できる活動がどんどん増えてFridays For Futureのこれからの可能性も更に広がっている。活動が増え、今は慌ただしい毎日を過ごしているようだ。
 現在、小林さんは大学院への進学を考えているという。「Fridays For Futureの活動で環境に詳しいといってもそれは井の中の蛙状態。自分よりも詳しい人に教えを乞い、知見を広めていきたい」と将来のビジョンを持っていた。環境を救うための活動はまだまだ止まることを知らなさそうだ。情熱を持ってできることを求め続けた彼は日本を動かした。温暖化対策が進み始めた今、解決に向かう日が来るかもしれない。しかし、「仮に温暖化問題が解決したとしてもまた別の問題が浮き上がってくるはず。世界には問題が存在し続ける。これからもさまざまな問題にアプローチしていきたい」と小林さんは言う。Fridays For Futureに入会するときに大事にしていた「何かにチャレンジしたい」という精神はまだまだ健在だ。アクションを起こすことで、活動の選択肢や人との輪を広げて繋がっていくのもとても素敵だと思う。取材を通して彼から何事にもトライする大切さを教わった。私の友人がこれから何を巻き起こすのか、注目していきたい。(吉村幸成)