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「何物にも代え難い」をどうやって築くか

 農家であっても製造業であっても、自らの作った物にこだわる人はこだわります。 

 「どこにでもある作物」あるいは「どこにでもある製品」ではない、独自の何かを世に出したいと思う人がいるのです。

 農家でも製造業でもない人の中にも、そういう独自の何かを世に出したい人はいるでしょう。

 そういう「独自の何か」であることのお墨付きとして特許権は確かに意味があると思います。「独自の何か」だから特許が与えられるので。

 でも、特許が取れなくても「独自の何か」と言えることがあるのです。もちろん特許出願の対象になるもの-発明-の話です。

 どんなときに「独自の何か」と言えるのか。それは審査において新規性が否定されなかったときです。

 特許を取るための要件には色々なものがあります。三大要件は「産業上利用可能」「新規性」「進歩性」です。特許を取るにはこれら三つの要件を満たすことが必須となります。

 これら三大要件のうち「新規性」は、特許出願の前に世界中のどこでも知られておらず、文献などとして誰かが目にする機会がなかったことを言います。つまり「新規性」という要件を満たす発明は「独自の何か」なのです。

 その結果、審査で新規性が否定されない発明は「独自の何か」と言ってよいことになります。「独自の何か」と言うだけなら。

 ところで、例えば特許を取ったことで裏付けられるような「独自の何か」は必要でしょうか。

 例えば、あるサラリーマン(「A氏」としましょう)には毎日退勤後に寄り道する居酒屋(「居酒屋甲」としましょう)があるとします。一方、この居酒屋甲は世界的に著名な料理ガイドブックで紹介されるようなハイレベルな焼き鳥を出す店とします。A氏はそもそも鶏肉が嫌いなのでその焼き鳥を食べたことがありませんが、そこで常連同士でしゃべりあいながらほろ酔いになることが生活の潤いになっているとします。

 この場合、A氏は焼き鳥という「独自」を理由に居酒屋甲へ通っているのではありません。生活の潤いが何にも代えがたいから通うのです。世界レベルの焼き鳥と「居酒屋甲に行けば生活の潤いが得られる」と信じられること。この場合にどちらがA氏の支持を受けているのかは言うまでもありません。この点に気づかない「独自」は意味がないのです。A氏が焼き鳥のレベルより生活の潤いを求めるように、「独自の何か」であることよりも消費者の誰かにとって「何物にも代え難い」の方が大切なのです。

 「何物にも代え難い」をどうやって築くか。しばらく前に、そのヒントとなる話を目にしました。詳細そのままは良くないと思われるので、フィクションを入れて紹介させていただきます。

 ある土地では山から吹き下ろされる風が強く吹く土地で作物を育てているそうです。そのせいか、そこで育つ作物は他の土地で育った作物とは少し違う味がするとのこと。そこでそこの人たちはその風をアピールポイントにしているそうです。一方、そのことを知った他の土地の人は「風をアピールポイントにして売り出すのは消費者をだましているのではないか?」と考え、第三者にそう言っているのです。どちらも違うんじゃないかと私は思いました。どちらも、消費者の利益に対して敏感と言い難いように思うのです。

 風をアピールポイントにしている人については、「なぜ味が違うのか?」と詳しく調べた方が良いと思うのです。

 消費者をだましていると言う人については、「少し味が違う」という消費者にとっての利益に、もっと敏感になった方が良いと思うのです。

 料理などでは特に顕著ですが、味の違いが分かる程度の差があるときというのは、味の原因になった物質の量がかなり違うものです。塩が小さじ1杯なのか2杯なのかで味は違います。

 逆に、いわゆるトクホを取っている食品ととっていない食品との味の差はそれこそ「少し味が違う」程度です。

 このことから見て、食味の差が多少なりとも出ているなら栄養に小さくない成分差が出ているはずです。その成分差は、もしかすると一部の人にとって特別に魅力的なことかも知れません。例えば、亜鉛やマグネシウムなどのミネラル不足に悩む人がいるそうです。もしその作物が他の土地で採れた作物より亜鉛やマグネシウムが多いということなら、そういう人には魅力的な作物となるでしょう。作物としては同じでも消費者にとっては同じと言えなくなります。何物にも代えがたい商品ということになるでしょう。

 さらに、風という原因と作物の成分との因果関係がはっきりすれば、風をどう作物にあてるかを考えることになるはずです。そうすれば作物をもっと差別化することができます。

 そうすれば、もっと代えがたい商品になることでしょう。こういったことが「何物にも代えがたい」という評価につながるのではないかと思うのです。

 

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