ドーズドーズドーズ - 03 - ハイプロン

 ネタが尽きた。

 流行病の影響でモノが入ってこないらしい。普段連絡なんてしない知人にまで話を聞いてもてんでダメ。手元に残ったカリカリのそれといつのかわからない1/4を見つめ呆然とする。わたしの夏はこんなもんじゃ始められない。終わらない。
 なにかなにかなにか、何かないものか。

 個人輸入サイトを巡回する。クソ苦いアモバンのゾロ、薬価も高い。これはいらない。
 見るからに体に悪そうなオレンジと黒のカプセル。なんだこれは。ハイプロン?全然聞いた事ない名前も見た目も、心の隅にまだ残っていた好奇心を刺激した。
 いっそもう飛ぶ飛ばないは置いといて、この毒みたいな色したカプセルを飲んでみたい!

 あまりあるベンゾで日々を誤魔化しながら待つは三週間。家に個包が届く。ハイプロンだ。
 あのよくわからない配色のカプセルがやっときた。うれしさのあまりすぐに1錠放り込む。効くまではきっと15分。はやくはやくはやく。期待と膨らむ微睡の時間…あれ?意外と立ち上がりが早い。軽くなる足。甘いような陶酔。感じるような、感じないような多幸感。これはいける!!

 それからの毎日は夢と希望に溢れていた。朝起きて1錠。仕事中に1錠。帰ったら1錠。寝る前に2錠。休みの日はワンシート。消える記憶。労働のことも毎日のことも好きも嫌いも。なにもかも。
 忘却の日々と共に過ごしているうちに毒々しい色のカプセルにもだいぶ耐性がついてしまった。と、同時に飽きがきた。
 
 全て忘れる、いわゆる健忘の症状がかなり発現するようになった。
 自分で作っているはずのプログラムファイルも記憶にない。
 こんなツイートも、記憶にない。
 ただ、曲はできている。
 釈然としないまま、でも聴けば、なんとなく、ハイプロンが体にいた日々を彷彿とさせる数々のエフェクト。
 あなたに伝えるには充分だった。

 💊のアイコンの曲に捧げます。

こしのかんばい

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