『大根』
福井県に来たら『おろしそば』を食べなくてはならない。
大野のソースカツ丼とか、越前のカニとか、三国の海の幸とか、福井県はおいしいのだ。ただ、僕にとっては、おろしそばを食べることが、福井県を食べることに値する。
冷やされているにも関わらず、香り立つ蕎麦。その上に、振りかけられた荒削りの鰹節が、立体感を演出する。
それらが主役と準主役かに思われたところに登場する、大根おろし。
これを小鉢のつゆの中に入れる。このつゆには、既に大根のおろし汁が入っている。
大根おろし入り、大根おろし汁つゆ、だ。
それに蕎麦をつけて、食べるのではない。
ぶっかける。主役と準主役にぶっかける。
この瞬間、僕は喉鼓を鳴らすのだ。
物語の秩序が乱れたおろしそばを、口にぶち込む。先を駆ける主役と準主役の蕎麦達の行く末は、大根おろしの辛さに全てを絡め取られるのだ。
辛い!めちゃくちゃに辛い!もう一口!
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