『ポストの鍵』
「今朝ね、手紙を出したんだ。僕はちょうど急いでてさ、車から降りながらサイドポケットに入れておいた手紙をひっ掴んで、ポストまで走ったわけ。
それで、勢いよく手紙をぶち込んだら、手紙と一緒に鍵を握ってるのを忘れててさ。ポストの中に手紙も鍵も、両方とも入れちゃったんだよね。
でさ、困ったなあと思って──あの、鍵を取り出すためにポストの鍵が必要になっちゃったから。
あ、ポストの裏にね、郵便局の電話番号が書いてあるんだよ。知らなかったなあ。
それで、無我夢中で電話して、状況を伝えたんだ。そしたら可愛い声で聞かれたんだ。
〈落としたのは、金の鍵ですか? 銀の鍵ですか?〉って。
変な冗談を言うなあと思ってね。
まあ、でも、僕はヤケクソで、
〈僕が落としたのは普通の鍵です〉って答えたんだ。
そしたら、〈あなた、正直ね〉って。
だから、僕はもう一つ正直に言ったんだ。
〈鍵だけじゃない。僕がポストに入れたのは手紙だ。なんなら今ここで中身を読んでやる!〉って。
それで、手紙の内容をそらで読んでやったよ。そしたらね、
〈あなたの手紙、好きよ。でも、今はあなたの声が聞けてよかった。答えはイエス。結婚して下さい〉ってさ」
(おしまい)
この記事は以下の企画に参加しています。
500文字で僕が表現するとこうなります。(noteアプリの字数カウントでちょうど500文字です。超えてたらごめんなさい。)
ショートショートっぽいショートショートを書こうかとも思ったんですけど、長台詞だけってのもアリかと。これも小説の手法の一つってことで、ご容赦ください。
そんなわけで。
おしまい。またね。
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