〈雑記〉暴れる心電図
はい。こんにちは。
心臓を焼いた話をします。
僕は僕の疾患について、わざわざ何かを書く必要は無いとずっと思っていましたが、なんとなく意味の無いタイミングで書くことにしました。
だからと言って、特に暗い話も何もありません。むしろ、不整脈を持つ方や、心臓について不安のある方に読んでいただき、「ああ。こういう感じなのね」と思っていただければ幸いです。
特に心臓に縁のない方は──いや、縁のない方はいないか──まあ、とにかく「こういうのもあるのね」くらいで、よろしくどうぞ。
まずは、次の心電図をご覧下さい。
(手の影が邪魔なのは許して下さい。)
これが僕の一番エグい心臓発作が起きたときの心電図です。
生憎、正常時の心電図を持ち合わせておらず、何が異常なのか分からない方もいらっしゃるかと思います。波形は分からなくとも、1点注目いただければ、異常であることがすぐに分かります。
(画像の表の枠外をご覧ください)
心拍数が1分間に237回ということです。
まあ、一般的には60回前後ってのが安静時の心拍数だと思います。(持久力を必要とするスポーツなんかをやってると50回という人もいるし、90回って人もいると思います。)
とはいえ、心拍数237回ってのは異常ですね。心拍が60回/分の人の約4倍の心拍数です。
時計の秒針が近くにあれば、想像しやすいですね。
60回/分だと1秒に約1回心臓が拍動します。237回/分だと1秒に約4回心臓が拍動します。時計の針が1秒分進む間に、指先でもトントンして測ってみて下さい。速いから、すんごく。
さて、僕の心臓には何が起こっているのか。
心臓というのは、心筋(まあ筋肉です)がどくんどくんと動いて血液を押し出してますよね。
ほんで、筋肉ってのは、電気的刺激によって動きます。例えば、お腹に巻いてスイッチを押すだけで腹筋が動いて鍛えられるアレも、電気で筋肉を動かしていますから、そういうもんってことです。
とにかく、僕の心臓は電気的刺激により拍動しています。
通常は、ある一定のタイミングで、ある一定の経路を電気的刺激が進行することにより、心臓の筋肉は正常に刺激され拍動するわけです。つまり、心臓では電気的刺激が流れる経路が決まってるわけですね。
僕の場合には、正常な経路とは別に、意味不明に電気が流れる経路がありました。(昔から症状はあったので、先天的なものらしいです。)
心筋を伝わる電気的刺激の経路が、無意味に分岐し、逆行し、謎のループを作っているんです。だから、その変なルートに入ってしまうと、心臓はぐちゃぐちゃに動きます。それが僕の場合は頻脈発作として現れてます。
とはいえ、通常の状態では電気的刺激はこの意味不明な脇道に逸れません。何らかのきっかけで、急に発動します。
急激な運動が引き金となる場合もありますし、姿勢によって発作に繋がる場合もあるようです。あるいは強いストレスが関係ある可能性もあります。(僕の場合は、何がきっかけで発動するか未だに不明です。)
ところで、先程の心拍数237回/分という数字ですが、頻脈発作時の心拍数として相当に速いです。僕の発作時の心電図を見たときのドクターの第一声は「は? え? これ意識あったの!? 嘘でしょ!?」でした。
これだけものすごいペースで心臓が拍動するとどうなるのか。
少し想像してみましょう。
例えば、1秒に1回のペースで、あなたの手をグーパーグーパーとさせてみてください。
はい。できますよね?
じゃあ、1秒に4回のペースで、あなたの手をグーパーグーパーとさせてみてください。
どうですかね。
出来たなら出来たでいいんですが、1秒に4回のペースで手を開いた時、あなたの手はきちんと開ききっていたでしょうか? あるいは、きちんとグーとして指が握りしめられていたでしょうか?
恐らく、手は開ききらず、握りしめたグーも緩かったのではないでしょうか?
それと同じ事が、1秒に4回のペースで拍動した心臓にも起こります。
心臓は心筋により膨らんだり縮んだりして血液を届けるわけですから、それがきちんと膨らまないとどうなるでしょう? きちんと絞られないとどうなるでしょう?
全身に酸素を運ぶための血液は、心臓から全身の血管に向けて、勢いよく飛び出すことができません。
すなわち、酸素が足りません。
発作が起きると、脳にも、手や足の先にも、酸素が足りないのです。
脳に酸素が届けられないとどうなるか?
簡単な話です。倒れます。意識を失います。
ただ、僕はなぜか倒れませんでした。
最初に公開したような発作を何度も起こしたことがありますが、意識を失ったことはありません。
なぜか。
「なんかスポーツしてました? あ、長距離が得意とか?」
その通りです。野球をしていましたし、長距離が得意です。
僕の心筋は血液を運ぶ能力を多少なりとも強く持っていたらしいです。運が、運が良かったです。
例えば、運転中に心臓発作が起きて、意識を失っていたとしたら……。まあ、現に僕は生きていますけど。
おお。適度に死にかけている。
はい。だからね、だからと言ってね、僕は全くしんどくも無いし、普通に働いています。
そりゃね、死への恐怖はありますよ。何かが違っていたら、僕は意識を失って、死んでいたかもしれない。
それに、心臓が異常な動作をするということは、血液の流れも通常では無くなるということです。だから、心臓や血管内の変な場所で血液がゴロゴロと回ったりして、血栓ができるリスクもあります。あるいは、高血圧症を持っていたら、僕は心臓発作に耐えられなかったかもしれません。
もちろんですが、発作時はマジで死ぬかと思います。
これまた、僕の心電図を見たドクターに言われましたが、
「こりゃあ、相当心臓がバクバクしたろう? 胸の中で暴れてて、それこそ心臓が口から暴れて飛び出るんじゃないかと思わなかったか?」
おっしゃるとおりです。
心臓はクソほどに暴れますが、身体には酸素が足りなくて動けません。馬鹿みたいに動く心臓と、全く動かない身体は、簡単に死を連想させます。
自分の一部が、明らかに正常ではないのに、身体が動かなくて何もできないという無力感は、死へ抗うことも出来ない恐怖を一気に連れて来ます。
ですが、ですが、ですよ。
僕はね、この心臓を焼く治療をしました。
『カテーテルアブレーション』という手技です。
太腿の両方の付け根にそれぞれ3本ずつ、首から1本、カテーテル(細い管みたいなやつ)を通します。そのカテーテルの先には電極とかが付いてて、心臓をびびびっとやるわけです。
太腿の付け根と首筋には局所麻酔をします。
ほんで、意識はずっとあります。
カテーテルを血管に通して、心臓まで到達させて、心臓をびびびっと刺激すると、心臓発作がオペ中に発生します。むっちゃキツい発作をオペ中にわざと起こします。
はい。
オペ中に心臓発作を誘発したときに、びびびっとやってたソコ!
ソコを焼きます。病変部です。
同じく、カテーテルの先端に電極が付いた奴を、ソコ! まで到達させて、先端の電極に電気を流して焼きます。
ごめんさい。
これは、痛いです。
心筋に痛点はあるらしいです。
で、焼き終わったら、心臓を動かすための電流が正常に流れるわけですから、もう発作は起きません。(僕はダメでした。嘘みたいな不整脈ルートが多くて、焼くと心臓が止まっちゃう位置に病変がありました。)
そんなわけで、焼いたら終わりです。
ただし、心筋ももちろん細胞ですから、ずっと生きてて、十数年とか時間が経過すれば、また病変が現れるかもしれません。(逆に僕の病変は自然に消えるかもしれません。)
そうそう。思い出しました。
オペ中の「ソコ!」ってやつが、病名になりました。
僕の場合は、AVNRT(房室結節回帰性頻拍)というらしいです。英語にしても漢字にしても、あんまりピンと来ませんね。まあ、どうでもいいですけど。
えっと、ごめんなさい。
他にも色々書こうと思ったんだけど、まあ良いかな。
それはそれとして、僕の病気は根治となっていませんが、「闘病」みたいなこともしてないし、時々くる発作にびびってる程度です。普通に育児と家事と仕事をして生きています。
なんかこう、あの、別に生きづらくも無いし、どうでもいいです。
ジェットコースターには乗れないし、電気風呂みたいなのにも入れませんけど、どうでもいいです。確かに、僕は何のきっかけで発作が起きるか未だに不明なので、上記に挙げたような施設に「心臓に疾患をお持ちの方は……」と書かれていると、念のため遠慮しています。(書かれてなくても自重する事柄は多いです。ただ、死なないためです。)
別に僕の疾患は重篤でもなんでもないし、まあ誰しも身体の悪いところの一つや二つあるでしょう。
だから、どんどんジェットコースターは楽しむ人のために発達して良いと思いますよ。
だめだ、眠いから何書いてるのか分からなくなってきました。
そうそう。「カテーテルアブレーション受けるんだけど、実際どうなん?」みたいな不安のある方は、いくらでもなんでも聞いて下さい。剃毛された話から退院までの間に、僕が経験したことであればいくらでも答えますし、いや、参考にならんか笑
あ、思い出しました。
結局僕はこうして心臓さんと仲良く生きているので、小説を書くときによく心臓のネタを使います。そりゃね、自分の事は自分でネタにしやすいですわ、ほんとに。まあ、もし、僕が心臓のことで経験した何かを、具体的でなくとも、どこかに書ければ、それはそれで消費されるために書きたいわけです、はい。
はい。そんな感じで。
(あ、もし偶然、医師の方がいらっしゃった場合、投稿した心電図は僕の個人情報に当たりますが、おもしろい心電図なので、興味のある方は何でも聞いて下さい。今後の医療発展のために、何でも答えます。まあ、医師の方に読まれる可能性はとても低いでしょうけど)
おしまい。またね。