009 有名人
六月のはじめに、百万石まつりという金沢のお祭りがあった。
三週間も前の話だが、わたしの数少ない有名人を見た話なので、聞いてもらいたい。
祭りのメインイベントに、百万石行列というパレードがある。
前田利家公に扮した役者さんが、行列を引き連れて、金沢駅前の鼓門を出発し、香林坊を通って、金沢城に入場する、というものだ。
今年は利家公の役に、俳優の仲村トオルさんが抜擢されて、大変な賑わいだった。
当日、昼過ぎに行ってみると、駅前のメイン通りは、人であふれかえっていた。外国人観光客の姿も多い。
もしかして、金沢がもっとも人口密度が高くなる日かも。
見物しやすそうな場所を探して歩いていると、タイミングよく白い馬に乗った仲村トオルさんの姿が。
生で見るトオルさんは、甲冑を着ていることを差し引いても頭が小さい。耳の形のきれいな人だな、と思った。
仲村トオルと言えば、わたしの世代は『海猿』、『チーム・バチスタ』シリーズだと思う。落ち着いた大人の男性のイメージ。
『海猿』では、トオルさん演じる池澤の殉職に泣いた。いつもと違うエンドロールにしんみりしたことを覚えている。
若い世代であまりイメージの湧かない方は、永瀬廉くんが今から三〇年後に激渋のイケオジになって、殿様の格好で馬に跨っているところを想像してほしい。それはそれは、大層な盛り上がりだった。
トオルさんが手を振ると、みんな喜んで手を振り返していた。
往年のファンのお姉さま方は、手作りのうちわを振って、「キャー! トオルさーん!」、「ステキーー!!」と、黄色い歓声。
まわりの盛り上がりに楽しくなって、わたしも群衆の後ろの方で、ぴょんぴょん跳ねながら、トオルさんに手を振った。こういうとき、自分はミーハーだな、と思う。
トオルさんが勇ましい声で「進め!」と、行列を動かすと、観客からは「おーーっ」と、ひと際大きな歓声が上がった。
東京から引っ越してきたが、実は、出身は北海道である。
東京に住めば、渋谷や新宿あたりで有名人をたくさん見かけるのかな、と期待していたが、実際、そんなことはなかった。
一度、お気に入りの喫茶店で、ある俳優さんと隣り合わせたことがあるくらい。その話はまたの機会に。
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