014 ハムスター
ハムスターを飼っている。
ジャンガリアンの女の子で、カラーはノーマルグレー。わが家の二代目ハムスターである。
前の子は、パンダ柄(実際は、ウシ柄)のジャンガリアンの男の子だった。
この子は、独立心が旺盛で、人に媚びない孤高のハムスターだったので、次の子は、手の上でエサを食べてほしいな、と夢見ていた。
でも、元気で長生きしてくれたら、どんな子でもいい。
五月の終わり、夫とペットショップに行った。
次に引っ越したら、ハムスターを飼おうね、と話していたのだ。
ペットショップには、二〇匹以上のハムスターがいた。
ゴールデンの種類が豊富で、初めて見る長毛の子やダルメシアン柄の子に目が釘付けなった。ちっちゃいロボロフスキーたちは、皆でくっついて寝ている。どの子もかわいくて、キュンキュンしっぱなし。
一つひとつのケースを覗いていると、一匹のハムスターが目に留まった。
ジャンガリアンのノーマルグレーで、令和六年うまれのハムスターが多いなかで、この子だけ、令和五年の十一月うまれだった。
見たところ、一番長くここにいるらしい。店員さんに確かめると、やっぱりそう。
生後半年なので、もう十分おとなである。ペットショップ生活が長いせいか、両耳の後ろの間より少し下あたりに、小さいハゲが。ほかのハムスターたちと比べると、毛のぼしょぼしょ感が目立つ。それでも、値段はほとんど変わらない。
この子は売れないだろうな、と思うと、すごく気になった。
店員さんに頼んで、手に乗せてもらうと、怯えた様子はない。怖がっている子は、ぶるぶる震えるので、すぐわかる。
わたしは、このハムスターを見つめた。
ハムスターは、ここは、どこだろう、ときょろきょろした。それから、わたしの指をやさしく甘噛みした。小さな小さな、でも、少し力を加えれば、わたしの指先から血をにじませる歯。つやつやのビーズのような目には、好奇心がうかがえる。
この子にしよう。
一緒にいられる時間は短いかもしれないけど、放っておけなかった。
ケージやエサなどをまとめ買いしたレシートの一番最後に、「小動物 1,980円」と印字されていた。
帰る道すがら、名前を何にしよう? と夫と盛り上がった。
背中の毛色と顔のとがった感じが、ちょっとタヌキっぽい。「たぬちゃん」もいいね、と話していたが、友だちにいるので却下。あほハムだったら、「ぽんぽこ」にしようとなった。
名前は、その晩決まった。
晩ごはんの時間に、ケージを開けると、のそのそおうちから出て来て、わたしの手に乗った。ペットショップと同じように、甘噛みはするけれど、決して本気で噛まない。これは何なのか、確認中、という感じ。
わたしと夫は、顔を見合わせた。
先代は、とりあえず噛む子だったので、食べられるかどうかまず確認するこの子は、かしこいかもしれない、と盛んに誉めたてた。
そして、決定的だったのは、エサ皿。
ケージの隅に水平に置いたのを、小さいおててで、自分の食べやすい角度にくいっ、と調整してから、晩ごはんを食べ始めたのだ。
なんて、おりこうさんなんだろう!
感動した。それで、この子の名前は、「りこちゃん」に決まった。ぽんぽこは、嫌だったらしい。
こうして、りこちゃんとの暮らしが始まった。
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