032 『シャーロック・ホームズの帰還』コナン・ドイル/あるいは、初めて買った文庫本のはなし
「初めて買ったCDは?」
プロフィールで、よくある質問ですね。
わたしはCD世代だけど、残念ながら、初めて買ったのが何だったのか、まったく覚えていない。
ベタに、ジャニーズとかだったと思う。
でも、初めて買った文庫本なら、覚えている。
それは、新潮社版の『シャーロック・ホームズの帰還』。
ホームズは、名推理でスコットランドヤードでもお手上げの難事件を解決する。
小学生のわたしには、それよりも、物語ので序盤で、人のちょっとした振る舞いや、持ち物の特徴から、ズバリと相手の性格や考えなんかを言い当てるホームズが、とても格好よく思えた。
知的でクール、そして、ヴァイオリンもボクシングもプロ級の名探偵に、夢中だった。
学校の図書室で本を借りていたが、『踊る人形』のページが一部、誰かに破られていた。
転校した先の学校でも、なぜか『踊る人形』だけ一部が抜けていて、最後まで読めない。続きが気になる。
それじゃあ、自分で買おう。
どうせ買うなら、子ども向けの、字が大きなハードカバーじゃなくて、文庫本にしようと、当時よく行ったTSUTAYAに買いに行った。
小学校6年のときの話だ。
そのTSUTAYAは、一階の入り口近くに児童書があった。
まず、そこでエミリー・ロッダの『デルトラ・クエスト』シリーズや、ダレン・シャンの新作が出てないか確認。
それから、雑誌コーナーで『MOVIE STAR』や『SCREEN』をチェックして、二階で洋画のDVDを探す、というのが、いつものコースだったが、その日は、文庫本コーナーに直行した。
父が以前、「いろんな出版社から翻訳版が出ているけれど、『シャーロック・ホームズ』は、新潮文庫のがいちばん良い」と言っていたことが、記憶に残っていたので、新潮文庫の外国人作家コーナーを目指した。
ドイルは、すぐに見つかった。
青い背表紙の本の並びから、一冊手に取ってみた。
表紙には、英語のタイトルと、その下に小さなホームズのシルエット。
シンプルなデザインが、おしゃれで印象的だった。
目次を確認して、『踊る人形』が載っている、『シャーロック・ホームズの帰還』を買うことに。
文庫本は、細かい字がぎっしりで、挿絵すらない。大人の本だ、とドキドキした。
それがきっかけで、わたしは文庫本を読むようになった。
始めのころは、字が小さくて読むのに苦労したがすぐに慣れた。
ホームズの次に買ったのは、『宝島』と『十五少年漂流記』だったと思う。相変わらず、世界の名作ばかり読んでいた。
もちろん、ぜんぶ、まだ手元にあります。