深夜にヒットチャートをかけぬけろ！　#いまから推しのアーティスト語らせて

大学生の頃、私は流行りの曲はあまり聞かず、
授業とバイトに明け暮れる日々を過ごしていた。

夜間学生だったため、お金を少しでも貯めたかった...。

学費と教科書代を稼ぐ目的もあったが、
もう一つ重要な目的があった。

それは、当時付き合っていた彼女が、遠くにいた事。
東京と大阪までは距離があり、
学生の自分には、そこまでお金がない。

しかし、若さとはすごいもので
昼は購買部でバイトし、週2で家庭教師を入れ、
土日はパソコンスクールでバイトした。

この気合を、今の職場でも持ち込んでいたら、
私はもっと早く出世した事だろう。

当時の連絡手段としては、テレホーダイの深夜チャット。
LINEで簡単に連絡がとれる現代社会がとても羨ましい。
昔の自分に教えてあげたい。

やっと、貯めたお金で深夜バスのチケットを買い、
東京 八重口から神戸に私は向かった。

忘れもしない12月26日。クリスマス明けの日。
みんなクリスマスを堪能し、関西に帰る人が多い中、
私は一人、逆に神戸に向かうのだ。
そして、その夜には帰る弾丸バスツアー。

疲れ切っていたので、深夜バスでも余裕で寝れる。
8時間ほど、眠っていると神戸 三宮についた。

12月の神戸は寒かったが、
久々に合えた彼女と会った事で寒さを忘れた。

いつもは、そのままブラブラする事が多かったが、
今日は違う。

彼女が神戸ライブハウス「チキンジョージ」のチケットを持っていた。
それが『スガシカオ』さんのコンサートチケットだった。

彼女はラジオから聞こえるスガシカオさんの曲が好きになり、
それ以来、ハマっていたとの事。私にもよく話をしてくれた。

スガシカオさんは、すでに人気絶頂で、
コンサートも大きなホールが多かったが、
久しぶりのライブハウスコンサートを決行。

今は立て直されて、ビルになっている『チキンジョージ』。
当時は、神戸の震災後のまま、黒い仮設ライブハウス。
オールスタンドでも、すぐに満員。

二人で入った時は、スモークがかかって不思議な感じ。
どんどん、お客さんが入って来て、あっという間にぎゅうぎゅうずめ。
少し緊張してトイレに行きたかったが、不可能になった。

私はライブハウスでのコンサートは初めてで、
この距離で曲を聞けるのは、ワクワクした。

ライブが始まると、歓声が沸く！
案の定、本人が目の前に登場。距離感がすごい！
スガシカオさんの歌ってる姿、他のバンドの方々の表情、
全てがイキイキと見える。
これは、その場にいないと味わえない特別な空間だった。

***
スガシカオさんは、人の闇の部分もあえて歌にして
直球で投げてくる事が得意だ。

ヒット曲『黄金の月』

当時、この曲が私の心を揺さぶった。

そして、最近聞き直すと、やたらと頭の中に訴えかけてくる。
年齢を重ねると、過去の失敗や、嫉妬、
苦しかった経験が増えて、その情景と重なるためだ。

スガシカオさんは、
当時では珍しい『サラリーマン上がり』の遅咲きミュージシャン。
営業時代のにがい経験が歌にも如実に現れている。
改めて聞くとすごく共感が深まる。

私も、学生時代には味わえなかった歌の聞き方を、
社会人となった今、しているだろう。

この時のコンサートでは、まだ誕生していない曲。
そして、社会人のしぶい経験が、とても良く表れている曲が、
のちに発表される

NHK「プロフェッショナル」主題歌『Progress』

「サラリーマン」の応援ソング。
仕事での挫折、失敗、それでも泥臭く仕事を頑張る姿勢が心情が
歌を通して訴えかけてくる。
そして、最後は希望を見出し前向きに終わる。

今だから分かる。
胸に突き刺さしてくるこの曲も好きだ。
紅白で、この曲が流れた時は、涙腺が緩くなった。

***
ライブコンサートが終わった後、私は岐路につくため、
再びバスに乗り込んだ時、彼女が1枚のCDを貸してくれた。

その中の曲に、スガシカオさんのデビュー曲があった。

デビュー曲『ヒットチャートをかけぬけろ』

泥臭い歌だった。そして、人間味の溢れる魂がこもった歌だ。
人生のヒットチャートを駆け抜けてやる野心的な曲だ。

深夜のバスが高速道路をかけぬける中、
私は寝るまでこの曲をずっと聞いていた。

学生の頃の私は、この先にやってくる、
自身のヒットチャート（乗り越える壁）が、
いくつも来ることを、まだ知らない。

そして現在、この曲を妻となった彼女と二人で聞くと、
もっと泥臭く人生を駆け抜けていくのも悪くないと思う。