あなただけの一番星、見つけます
農業団体への就職が決まり、ようやく僕の就活が終わった。
来年からは、初めての一人暮らし。
今のうちに住む場所を探さないといけないが、あてがない。
先生に相談すると、
「そうだな。この不動産屋さんに聞くといい。親切だ」
そういえば、学校の道すがら『エナジー不動産』
と書かれた古い看板を毎日見ていた。あそこの事か。
【張り紙】あなただけの一番星、見つけます
不動産屋につき、ガラス戸を軽くノックする。
ガラガラガラ...。中からメガネをかけたタヌキのオヤジがでてきた。
「学生さんかい?学校の近くを探しているのかな?」
社会人になるので職場近くの住まいを探している旨を伝えた所、
良物件があるらしく一緒に見に行く事になった。
【紹介物件】太陽から遠い冬の星
僕たちは宇宙船から降りた。
この星は1年中寒いが、暖房完備で太陽の向きも良く日当たり良好。
水も豊富で海もある。農業に適している土地もあった。
「風呂もあるから、一人暮らしには丁度いい星だよ」
火山があり、そこから温泉が湧いていた。
試しに二人で足湯をする。あぁ...。こりゃ最高だ。
ここで空を眺めながら、ゆっくり休めそうだ。
「近くにコンビニ惑星もあるから。そうそう、大家さんを紹介しよう」
不動産屋は、足湯から出て電話をし始める。
ほどなく大家さんと思われる毛並みの良いネコのお爺さんがやって来た。
「やあ。よく来たね。この星は古いけれど、住み心地はいいと思うよ」
たしかに、少し古い感じの星だった。地表の所々に大きな地割れもある。話を聞くと、築70億年で惑星内部のコアに少し異常をきたしている。ただ、修繕は定期的に行っているようで、もう少し持たせたいらしい。
大家さんはそんな話をしながら、手にもったマグカップを私達の前に置いた。そこに暖かい飲み物が注がれる。ほろ苦い香りがした。
「これはコーヒーと言ってな、昔、地球という星で飲まれていたものだよ」
地球は、教科書に載っていた中世期時代の星だ。大家さんの話では、この星の砂漠から化石が出てきて、その中にコーヒーの種があり、遺伝子をひっぱりだして栽培したそうだ。
「地球は、100億年で壊れたっけ?小さい星なのにまあ頑張ったよなぁ。この星もあと30億年か。そろそろリフォームするか更地にするか迷ったけど、あんたが住んでくれればありがたいよ。やっぱり、誰かいないと惑星はすぐダメになるからね」
ズズーっと、ぬるいコーヒーを飲みながら話すネコ。いや、大家さん。
寒空の下で、足湯につかりながら、まったりと時間が流れる。
「どうだい?学生さん。農業もやりたいなら、あそこはいいと思うよ。決めるかい?」
帰り道、タヌキの不動産屋と話しながら、僕は星の間取り図を見る。
一人暮らしは寂しそうだが、冬の土地を開拓しながら過ごすのも悪くない。コーヒーマメも育ててみたい。
「そうですね。でも、他の星もみたいかな」
僕の一番星を探す旅はもう少し続きそうだ。
(おしまい) --1192文字--
*** この物語は『城戸 圭一郎さん』主催
「1200文字のスペースオペラ賞」応募作品です。
城戸さん。すてきなコンテストをありがとうございます。
*** 2020/05/13 追記
本記事は、文章素材として「konekoのおもちゃ箱」に提供いたします。私が書いた小説以外の物は製作者に著作権があります。文章以外の2次使用は、製作者に直接確認を取るか、ご利用を控えるようにお願いいたします。
*** 2021/08/22 追記
noteお題コンテスト「#宇宙SF」に本作品を参加いたします。
とてもワクワクするnoteお題をありがとうございます。