杉山久子の俳句を読む 23年02月号③
きさらぎの猫の眼浅葱萌黄色
(句集『猫の句も借りたい』所収)
句の後半にきて、猫に詳しい俳人たちはおや、と思う。
「猫の眼浅葱萌黄色(あさぎもえぎいろ)」とは、左右の目の色が異なるいわゆるオッドアイだが、和語でも「金目銀目(きんめぎんめ)」という言葉があるのだから、12音から6音に節約できるのではないかと。そうすれば、もっと多くのことが言える。
しかし猫の虹彩には青、緑、黄、橙など様々な色合いがあり、オッドアイの組み合わせにも幅がある。「浅葱」「萌黄」と書くことで、掲句は写生句になった。作者は春の季語の中でも「きさらぎ」によって時季を限定し、かつ、見たものをありのままに写生したのである。句中に3つ鏤められた「ぎ」の音がこれらの要素をよく繋いでいる。
オッドアイの猫は古来より縁起の良いものとされてきたが、聴覚障害を持っていることが多い。作者によれば、この猫には「道後温泉で出会った」とある。陰暦にしたがうのか、現在の新暦の2月と捉えるかで異なるものの、いずれにしても如月は冬と春の重なった季節だ。人間のように暖房もなければ衣更着(きさらぎ)=重ね着もできない野良猫にとって、冬は死の陰に怯える最も過酷な季節である。ようやく春を迎えようとする猫の眼に、旅人は植物の萌える色を見た。
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