無題

Vtuberとマネタイズ~信頼と愛情で経済を考える~

先日(2019/12/08)、飯田橋にてVirtual Forumが開催されました。

そこでの発表を加筆・修正してnoteにまとめていきたいと思います。

VtuberとYoutuberの収益構造の違い

この記事を読んでいるようなVtuberファンのみなさんなら、YoutuberとVtuberは大きく形態が違うなと感じていると思います。

個々の形態はそれぞれ違いますが、一般的な傾向として

・Vtuberは生配信

・Youtuberは動画投稿

そんなイメージがあると思います。実際に大手の三箱(にじさんじ、ホロライブ、アイドル部)も生配信がメインですし、国内の生配信ランキングを見てもVtuberが生配信に強いということは分かると思います。

2019/12/17 22:33分時点

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もちろん、このような状況では主な収入源も大きく変わってきます。

Vtuberの主な収入源は、スーパーチャット、企業案件、グッズ、

Youtuberの主な収入源は動画広告、企業案件、

このことから、Vtuberの方が少人数のユーザーに支えられる傾向が強いことが分かります。スーパーチャット、グッズは少数の濃いファンが買うものだからです。

次項ではこれらについて分析していきます。

主な収入源である投げ銭に関する分析

まず、現在の世界トレンドを押さえておく必要があります。

現在、世界的に生放送のプラットフォームが増加しつつあり、その傾向は高まっています。

ゲームのライブ配信に利用されることが多いStreamlabs OBS利用者がいわゆる投げ銭によって得た収益は2017年に1億ドル(約1200億円)に達しています。

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また、世界で初めてライブストリーミング市場に火が付いた中国では400億元(約1450億円規模)です。

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上記の図を見れば分かりますが、この市場規模はオンラインミュージック市場規模の175億円を大きく上回り、tiktokなどに代表されるショートビデオよりも大きいです。これがさらに伸びてくるというのですから、市場可能性は十分にあるでしょう

この傾向は日本でもトレンド化しつつあり、多くのライブプラットフォームがリリースされました。

プラットフォームとしては「ニコニコ生放送」や「Twit Casting(ツイキャス)」、「LINE Live」、「SHOWROOM」などが有名でしょうか。

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バーチャルYoutuber文化が花開いたとされる2017年12月、インターネットコンテンツのトレンドがそのような状況であったことは記憶に留めてほしいところです。

新型インターネットコンテンツの特徴

また、インターネット市場もwindows95が出てから、早25年が経とうとしており、その市場も大きく変化しています。近年では5GやAI、そしてVR・ARなどがトレンドでしょう。

基本的にインターネットコンテンツは個人にマーケティング対象を絞ります。それは、多くの個人の趣向を収集し、個人に合ったマーケティングすることがインターネットによって可能になったからです。Youtubeのオススメが自分の興味のある内容に変化していく様子が分かりやすいでしょうか。

これは旧来型の新聞・TVを用いたマス(大衆)向けのマーケティングとは大きく異なります。このような状況下では、深く刺さった数人の個人が大きなコンテンツを支える傾向が強くなります。

また、共感を軸にしたコミュニティの形成もインターネット前後では大きく変わっています。インターネット前夜ではニッチコンテンツほど共感を得ることは難しい状況でしたが、インターネットによって、個人通しで繋がることが可能となりました。

Vtuberにおいては、コミュニティの形成がコンテンツの根幹となっているのでこの部分には触れざるを得ません。分かりやすいところで言えば、シロ組、キズナーなどに代表される推し名文化でしょうが、このコミュニティの形成はファンのみの話ではありません。というものも一種のコミュニティと呼べるものに属しますし、細かく見ていけばVtuber通しのリプライによって生まれる「てぇてぇ」はある意味でコミュニティ間の共感に当たるのではないでしょうか。(このレベルだと一般的なコミュニティとは呼べないかもしれませんが、ここではVtuberとVtuberのリプライに共感して感動を覚える私たちを含めた広義的なコミュニティと定義します)

そして、コミュニティの形成がマネタイズに関わってきます。「周りがみんなやってるから、見てみよう」このような現象を誰もが感じたことはあるでしょう。(筆者は小学生時代、モンスターハンターが爆発的に流行ったときに感じました)

このような状況下の行動を経済学では「条件付き協働者」と言います。インターネットによって、私たちはニッチなジャンルでも仲間を作り出し、共感することによって行動しやすくなったのです。この話は後々、投げ銭にも関わってきます。

以下にまとめます。

従来
新聞・ラジオなどでマス(大衆向け)に宣伝→大衆において共通認識の形成→マス向けの大人数に対して少しづつ利益を得ることによってマネタイズ

インターネット革命後
個人にパーソナライズされた広告によって宣伝→twitterなど深く刺さった個人同士で共通認識の形成→深く刺さった個人に対してマネタイズを行う。

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なぜVtuberは生放送主体なのか

さて、少し脱線してしまいましたが、ここで話を戻します。

時代背景として設定するのはバーチャルYoutuberブームが起こった2018年です。前述したように、この当時のトレンドは生放送プラットフォームでした。にじさんじが初期は生放送アプリの開発を目指していたところや、ときのそらがhololoveアプリの宣伝キャラクターとして始まったところからも垣間見えると思います。以上から、生放送がトレンドだったことは確実に生放送主体の大きな要因でしょう。

次に、主なプラットフォームであったYouTubeという媒体について考えてみます。当時からYoutuberと呼ばれる存在は活況を呈しており、今からYouTubeに参入するのは大きな障壁がありました。つまり、レッドオーシャンと化していたYoutube動画よりも、Youtube生放送の方が大きな顧客を捉えることができたと考えられます。

実際に、youtubeが生放送へ力を入れ始めたのは2017年からであり、まだ多くの参入余地がありました。(スマホ版youtubeアプリでSuper Chatができるようになったのは2017年からです。)

また、同時にニコニコ動画の衰退時期と一致していたことも私には大きな要因のように思えます。ちょうどニコニコなどで活躍した人材がニコニコの衰退によって活躍できる場を失っていたからです。経済学的に考えれば、労働市場に優秀な人材が溢れていたと考えられるでしょうか。

これらの要素を勘案すると、まさに時代に適したコンテンツであったと総括することができます。

投げ銭心理・投資心理

近年、行動経済学というものが注目されています。経済は必ずしも合理的なものではないと解釈し、不合理な人間の経済心理を分析する学問です。

その中で一つの命題として存在するのが「なぜ人は路上ギターに投げ銭するのか?」という命題です。

この命題を理解するには「フリーライダー」という単語を理解しなければなりません。(邦訳するとただ乗り)一般的にサービスは、対価を支払った者に限り便益を受けることができきますが、一部例外があります。分かりやすい例で言うと、道路や水道管などの公共財があります。これらの財やサービスは無料で利用しようとする人のことを排除することができません。私たちはそれに対して対価を支払わなくとも、無料で利用することができます。

一般的なVtuberの生放送や路上パフォーマンスも公共財と同じ性質を持っていると考えられます。私たちは、直接的にその生放送に対してお金を払う必要はありません。そして、対価を支払わないで便益を享受する者をフリーライダーと呼びます。実際、Vtuberの生放送のほとんどの視聴者はフリーライダーでしょう。

このような構造のサービスでは合理的な人間はサービスの対価を支払いません。そりゃ、タダで見られるわけだからね?

投げ銭をする目的を考えてみる

「投げ銭が非合理的な行動であるのならば、なぜ人はするのか?」

今度はこれについて考えていきましょう

投げ銭をする理由を考えてみると……

・配信者に金銭的な支援を送ることができる

・メッセージを強調して送ることができる

・ほかの視聴者へのアピール

・配信への対価

主に挙げられる理由はこんなところでしょうか。

これらの理由を大別すると、配信者に対する金銭的な支援をするという目的と自己承認欲求に分けることができます。

そしてこれら二つの要素はVtuberと非常に親和性が高いのです。

Vtuber界隈は新規で発展が求められるため、投資に対してのモチベーションを与えます。二次元と話せるという要素はオタクが長年求め続けてきた願いであり、コメントが読まれたり、ふぁぼをもらうことによって、承認欲求を満たします。

これらのことを考えるとVtuberは生放送に適した媒体であると言えるでしょう

投げ銭をするために重要なこと

Vtuberが生放送に適しているし、投げ銭を誘発することは分かってもらえたと思います。次に投げ銭を阻害するものについて考えていきます。

神経経済学という学問があります。脳の報酬回路を分析し、経済学に応用しようという学問です。神経経済学では、信頼と愛情とオキシトシンで経済を考えていきます。オキシトシンは信頼ホルモンとも呼ばれ、信頼関係こそが経済的な繁栄をもたらすと神経経済学では考えています。

そして、神経経済学に則ると、投げ銭をもたらすには信頼関係の構築が何よりも大切なのです

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この構図をVtuberに当てはめていきましょう。

Vtuberと信頼関係を構築するために

私はVtuberと信頼関係を考えたときに、Vtuberの形態によって、大きく信頼関係構築のプロセスが異なることに気づきました。
以下、CTuber、企業系Vtuber、個人Vtuberに分けて考えていきます。

CTuber

CTuberとはキティちゃんに代表されるようにキャラクターとして、Youtube活動を行う形態です。ゲーム部騒動のときに話題になりました。

特徴として、中の人は、中の人の個性を出すのではなく、あらかじめつくられたキャラクターを演じます。

このような形態では、コンテンツに影響するのは運営のみです。よって、運営に対する信頼関係の構築が必要になります。

企業系Vtuber

現在、多くの人の目に留まる存在がこの形態ではないのでしょうか。キズナアイ、シロ、ミライアカリなど……例を挙げればきりがありません。

この形態は運用方法もバラバラであり、一概に表現するのは難しいかもしれませんが、コンテンツを供給するのは演者、運営の双方である場合が多いです。Twitterまで運営が完全に管理しているところはほとんどないでしょうし、コンテンツに運営の意向が全く入ってないことも少ないでしょう。さらに、企業系ならば、コンサルや外部の投資家の意見も取り入れる可能性もあります。

この形態の場合、コンテンツに影響するのは運営と演者であり、双方に信頼関係の構築が必要となります。

個人Vtuber

数としては最も多いのがこの形態でしょう。自己のやりたいことをそのままできるのが魅力です。ガワの入手経緯は如何にせよ、運営を個人で行っているものとします。

この形態の場合、コンテンツに影響するのは、演者のみです。よって、演者に対する信頼関係が必要です。

結論として、企業系Vtuberは収益を出さなければならないにもかかわらず、信頼性という点で大きく劣っています。CTuber、個人Vtuberは一つの信頼関係を構築すれば良いのに対して、企業系Vtuberは二方向の信頼関係を構築しなければなりません。
(よって運営が前に出ざるを得なくなります。Aちゃんやいわなが、たけしなどVtuber運営が表に出ているのはこのためだと考えられます)

この部分は最近の様々な騒動の根本的な要因と言えます。Vtuberのマネタイズを行っていく上で、今後も大きな障壁となるでしょう。

でも、人間は合理的な生き物じゃないだろ?

ここまで、フリーライダーや信頼感などvtuberのマネタイズに関してその問題を提起してきました。しかし、まだ、「なぜ路上ギターに投げ銭をするのか?」という疑問に答えていません。それは端的に言ってしまえば、人間は合理的な生き物ではないからです。

最後に、ノーベル経済学者のセイラー教授の言葉を引用します。従来の経済学者が想定していた合理的な経済人を批判して、合理的な愚か者と批評しています。

 世の中に役に立つように貢献しようとする人もいるように、現実の世界は様々な人で入り混じっている。ただ乗りする人もいれば、こうやって手を貸してくれる人もいるということだ。
 経済学者のアマルティア・センは、そういう人を『合理的な愚か者」と称した。彼らは合理的な方法を知っているけども、愚か者である。何故なら、もしすべての人がそのような行動をとったら、世界は今ほど良い場所にはなっていないことを自覚していないから愚か者なのだ、と

私たちはVtuberに投げ銭をしますが、それをしたところで必ずしもVtuberが次の配信を確約してくれているわけではありません。投げたお金が自分の思っている通りに使われるか分からないし、その使い道がどうなろうと私たちは関与できない。それでも、私たちは、世界をより良くするために投げ銭をするのです。それが正しいと信じて。

先程話した「条件付き行動者」の話を思い出して下さい。

路上パフォーマーに投げ銭をする時ってちょっと、勇気が必要ですよね?なぜって投げ銭する時「たった1人の人」にみんななりたくないから。だから頭のいい路上パフォーマーは、あらかじめ帽子の中にお金を入れておいて、あたかも他の人が投げ銭してくれているようにみせている。

困っている推しがいたら、推しのために、その一歩を踏み出すことが何より大切です。あなたの小さな一歩がそのVtuberを変えるかもしれません。

まとめ

・Vtuber生放送文化は時流とVtuberという形態が双方に合致した形態だった。

・企業系Vtuberは収益を出さなければならないにもかかわらず、信頼性という点で大きく劣っている

・その一歩が世界を変えるかもしれない。


少し追記しました!


参考

ライブ配信サービス(投げ銭等)の動向整理
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/policy_coordination/internet_committee/pdf/internet_committee_190117_0002.pdf

群雄割拠のライブ配信サービス!17Live、Live meなど人気サービス7選を紹介!
https://compass-media.tokyo/sns_live_streaming/

投げ銭(スパチャ)する心理について考えてみる

なぜ人は路上ギターに投げ銭するのか?|ノーベル経済学受賞者はこう考えた。


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