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【ショートショート】 スリップ
※本文528文字です。
突然、占い師風の男に呼び止められ、俺はタイムスリップを勧められた。
「貴方のためにも、先祖に会っておくべきだ。」
俺の家系は鎌倉時代から続く由緒正しい血筋だ。鎌倉時代の先祖に会いたくて、俺は占い師の前に座った。
机の上の大きな水晶球を、言われるままに覗き込む。突然時空が歪み、衝撃波を受け、俺はきつく目を閉じた。
次に目を開けたとき、俺は満月に照らされた日本庭園に立っていた。突然、屋敷の中からただならぬ叫び声が聞こえる。
「殿に似ているという、その男を呼べ!」
参勤交代を間近に控えた殿の急死。男子の出生がまだのため、このままではお取り潰しだと大騒ぎだ。
俺は呆れた。
「しょぼ…鎌倉時代じゃないのかよ。」
だが、展開が気になり岩陰に潜んで様子を見ることにした。殿の顔は江戸城で知れているため、似ている男が必要らしい。程なくして、その下男が連れてこられた。
「まことに瓜二つ!よし、この男を殿の替え玉に、参勤交代を成功させる。いいな!」
重臣たちの決定により、下男は殿となった。俺は息を呑んだ。
鎌倉時代から続く自慢の血筋は、このとき途絶えた。
俺の先祖は、苗字のない男だったのだ。
次の瞬間、俺は現代に戻っていた。
それ以来、俺は自分の家系を語らなくなった。
(本文528字)
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これは物語のプロローグです。
もしも、ご興味をお持ちいただけたら、以下の小説もよろしければ、お願いします。この物語以降、彼がどうなったかを書いています。
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