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あなたの人生は無駄ですか

「人生無駄にする気か」

そう私に言ったのは中学の同級生でした。
私も彼も冬服だった頃のこと。そろそろ卒業を意識し始める時期で、私も彼も、まぁよほどのことがない限り志望校には合格する見立てがついていました。どちらの志望校も定員割れしていたので当然っちゃ当然であるんですが。

彼はその当時から行きたい大学が決まっていました。そして必ずや行けるだろうと周囲から思われるほどの学力を遺憾なく発揮していました。
彼の両親は教師で、そこに行くまでの塾や予備校や参考書や、一人暮らしの費用には困らなさそうでした。

対して私は、自分の家の経済状況で果たして高校を卒業できるのかを危惧していました。
自分だけならまだしも、妹の未来を奪うことにならないかと考えていました。
良くも悪くも勘が良いほうである私は、自分の家の経済状況が、薄ぼんやりと分かってきていた頃でした。

そんな頃でした。彼に帰り道で大学に行くのかと聞かれたのは。
分からないと答えました。
分からなかったからです。勉強してみたいという気もしましたし、働くべきだという気もしました。働いたら家計は楽になると確かに考えていました。
すると、冒頭の言葉を掛けられたのです。

あの時の気持ちを何と表現したらいいのでしょうか。
悔しさでしょうか切なさでしょうか羨ましさだったでしょうか。
行きたいと思っても行けない人の気持ちをお前は考えたことがあるのかと問い詰めたかった。裕福な家庭はいいなと嫌味を言いたくなった。中卒で、高卒で、働いている人たちは人生を無駄にしているわけじゃないだろうと怒鳴りつけてやりたかった。
でもどれも出来ずに、言葉が出てこなくて、唇をかみしめるしかありませんでした。

今思うと、彼はそんなつもりで私にそう言ったのではないかもしれません。もしかしたら、好意の一端だったのかもしれない。
それでも、私はあの言葉を未だに耳にこびりつかせたままです。
彼は一浪し、あの志望大学へと通っているそうです。そして、今の私は大学を辞めるか迷っています。
……彼の貧乏揺すりの癖が直っているなら、卒業してもいいかな。


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