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香水

瑛人の「香水」という歌が流行ったのは、何年前のことだっただろうか。


確かこの歌は、3年ぶりに会った元カノの「ドルチェ&ガッバーナ」の香水の香りで楽しかった日々を思い出すという歌だった。
キャッチーなメロディーにのせられた「ドルチェ&ガッバーナのその香水のせいだよ」という歌詞を聴かない日はなかった。



そういえば少し前、妹が新しいコロンを買った時に
「香水売り場に行くとさ、『あ、これあの人の匂いだ!』ってなることたまにあるよね!」という話をした気がする。



香りというものは実体がないのに、ある人や特定の物事を思い出す強烈なトリガーになるのだ。


そういえば1度だけ、「香り」が印象的なポストカードが届いたことがある。


とある日届いたドイツからのポストカード。

エアメール風の、「ポスクロあるある」のような文章がたくさん書かれたカードだった。


私がそれらの「あるある」を一つひとつ読んでいる時、ふわりといい香りがした。


自分が着ている服の柔軟剤の香りか、ヘアオイルの香りかとも思ったけれどどうも違う。
私が一生懸命出所を辿っていると、私をからかうようにふわり、ふわり、と香るのだ。


まさか、と思いつつ手に持っていたポストカードに顔を近づけると…香りの正体はこれだった。



相手の部屋の香りが染みついたのかもしれない、と思ったけど、それにしては香りが強すぎる。
それに香りが染みついただけなら、カード全体から均一に香るだろう。
だけど、それは私の名前と住所が書いてあるところからピンポイントに香っている。


私は相手が香水を吹き付けてくれたのかもしれない、と思った。


マスキングテープやシール、カリグラフィーでデコレーションをして自己表現をするポストクロッサーはたくさんいるけれど、香水をつけて個性をアピールする人は初めてだった。


この香水をつけているのはどんな人だろうか。
ダンディーなおじ様だろうか、
それとも綺麗なお姉さんだろうか。
自分を翻弄した香水の持ち主が気になって仕方がなかった。


私は相手にこんなメッセージを送った。


「素敵なカードをありがとう。ここに書いているたくさんの文章を読むのが楽しかったです。
ところで、あなたのカードは香水のいい香りがしました。私はその香りも楽しみました。」


相手が言葉をあえて使わずに、五感を使って私にメッセージを送ってくれているような気がした。
私はきちんとそのメッセージを受け取ったことを、どうしても相手に伝えたかったのだ。


ポストクロッシングは、受け取ったカードに書いてあるIDを登録すると、送り主のプロフィールを見ることができる。
私に香水のメッセージを送ってきたのは、サッカーが好きな27歳の女性だった。


プロフィールの顔写真は香水のイメージとはちょっと違ったけど、笑顔の素敵な女性だった。


ちなみにカードを受け取って3ヶ月たった今でも、
彼女のカードは私のポストカードファイルの中で香り続けている。



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