遺留分減殺請求訴訟において寄与分の主張をすることができるか否か等について判断した事例

  1. 前提
    以下の事案は、旧民法化における遺留分減殺請求に関する事案となります。現在の新民法においては、金銭を請求することができる遺留分侵害額請求となっていますので、その点は、ご注意いただけますと幸いです。

  2. 取り上げた裁判例
    東京高判H3.7.30判時1400号26頁

  3. 事案の概要等
    1 被相続人Aは、公正証書遺言により、本件不動産を含む財産全部を包括してYに遺贈した。
    2 被相続人Aは、昭和62年7月6日に死亡し、相続が開始した。相続人は、被相続人Aの妻であるB、X、Yを含む六人の子である。
    3 Yは、本件不動産につき、同年10月15日、1記載の遺贈を原因として所有権移転登記手続をし、その旨の登記を行った。
    4 Xは、被相続人Aの相続財産について24分の1の遺留分権を有している。
    5 Xは、Yに対し、同年11月27日到達の書面で遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。
    6 Yは、同年11月30日、不動産の1つを訴外C、Dの2名に代金2億1900万0074円で売却した。
    7 そこで、Xは、Yに対し、
    ①遺留分減殺による本件不動産に対する遺産共有権に基づき、本件不動産について、昭和62年11月27日遺留分減殺を原因とし、Xの持分の割合を24分の1とする持分一部移転登記手続を求めるとともに、
    ②選択的に、価額弁償ないしは不法行為に基づく損害賠償請求として、912万5003円及び遅延損害金の支払を求めた。
    8 このXの請求に対し、Yは、被相続人Aの相続財産である本件不動産につき、6割の寄与分があるので、具体的遺留分の計算において、これを考慮すべき旨主張した。

  4. 結論
    ①について
    Yは被相続人Aの死亡の時点で、包括遺贈により、同人が相続開始当時所有していた本件不動産を含む全遺産を取得したものであるが、遺留分権利者(法定の遺留分24分の1)であるXが遺留分減殺請求権を行使したことに基づき、遺言による指定(全部)が修正され、修正された各相続分の割合により、本件不動産を含む全遺産につき、YとXとの遺産共有の状態になった、すなわち、本件不動産を含む被相続人Aの全遺産につき、YとXとの間ではYが24分の23、Xが24分の1の各相続分の割合による遺産共有の法律関係になったものというべきである。

    したがって、XのYに対する本訴請求中、遺留分減殺請求権の行使の効果としての本件不動産の一部について、遺産共有権に基づき、昭和62年11月27日遺留分減殺を原因とし、Xの持分の割合を24分の1とする持分一部移転登記手続をすることができると判断した。

    なお、Yは、被相続人Aの相続財産である本件不動産につき、6割の寄与分があるので、具体的遺留分の計算において、これを考慮すべき旨主張していたが、寄与分は、共同相続人間の協議により、協議が調わないとき又は協議をすることができないときは家庭裁判所の審判により定められるものであり、遺留分減殺請求訴訟において、抗弁として主張することは許されないと判断した。

    ②について
    Yは、Xによる遺留分減殺請求権行使の効果としての遺産共有中の本件不動産の一部の土地について、24分の23の持分を有するに過ぎないのに、当該土地を訴外C、Dに売却している。当該売却行為事前に、Yは、Xから遺留分減殺請求権を行使する旨の通知を受けていた。そのため、Yは、故意に(少なくとも過失により)、当該土地を売却して登記をすることにより、Xの当該土地に対する24分の1の持分権を喪失させたものというべきである。

    したがって、Yは、土地の売却によりXが被った損害912万5003円(売買代金2億1900万0074円の24分の1)を賠償すべきであると判断した。

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