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私の夢【ショートショート】

日曜日の昼下がり、私は「夢占い てらい」と書かれた扉を開けた。

「いらっしゃいませ」

店に入ると、爽やかな男性の声がした。

「こちらの席にどうぞ」

その男性が指差す木製の椅子に、私は腰を下ろした。黒の長机を隔てて、彼と私が対面する格好になる。

「こんにちは。ご来店は初めてですか?」

彼は、にこやかな表情で語りかけてきた。

「ええ」

「そうですか。まず初めに、お名前を伺っても……」

「三上です」

「三上様ですね。ありがとうございます」

彼は質問を聞きながら、手元の紙にメモをとっていた。目の前に机があるのに、そこには紙を置かずに、白のバインダーに挟んだ状態で記録している。

誕生日や出身地、年齢など、個人情報に関する質問がいくつか続いた後、いよいよ本題に移った。

「では、ここからは、三上様の『夢』を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい。あの……」

私は、肩にさげたポシェットから、折り畳まれた紙きれを取り出した。それを見ていた彼は、不思議そうな顔をして言った。

「紙に書かれてきたのですか?」

「ええ。こういうのは書いておかないと忘れてしまうので」

「用意周到な方なのですね」

「そうですか?」

「はい。こういうお客様は、あまりいらっしゃらないので」

「そうなんですね」

それを聞いて、私は少し驚いた。見た夢を頭の中に留めておこうと思っても、うまくいった試しがないからだ。夢は現実の出来事ではないせいか、口に入れたわたあめのようにフッと記憶から無くなってしまう。他の人もてっきりそうだと思っていたが、どうやら違うらしい。

「きっと、私の記憶力が悪いだけなんでしょうね」

「いえいえ。私としては、お客様の『夢』が聞ければ、記憶でも記録でも方法はなんでも良いのです。それでは、ぜひ紙にまとめられた三上様の『夢』をお聞かせください」

「これは二日前に見た夢なんですが……」

「ああ、三上様もですか」

急に話の腰を折って来た彼に、少々ムッとして「何がですか?」とぶっきらぼうに返す。

「あの、大変申し上げにくいのですが、その『夢』ではないのですよ、うちは」

「えーと、どういうことですか?」

「『Dream』の方の『夢』です。いや、これだと伝わらないか。うちで占っているのは、将来の夢とか、夢を語るとか言う時に使う『夢』です。人によって、描く『夢』は違いますよね? それを深く掘り下げていって、最終的にお客様が進まれるべき道を考えてお伝えするのが、うちの『夢』占いです」

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かなりあ
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