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作品「空の家」についてのメモ②

この記事は、前回更新した『作品「空の家」についてのメモ①』の続きである。

今日は私の作品「空の家」シリーズの素材にもなっている「曽祖母のポートレート写真」について書いてみようと思う。フォトドローイングを制作し始めてから、曽祖母がなかなかにぶっ飛んだ人間だったということに、今更ながら気付くところがあったので記しておきたい。

「空の家09」2015年

曽祖母は明治生まれで、102歳まで生きた。あまりにもパワフルな人で、私の中ではアニメーション映画『千と千尋の神隠し』に出てくる湯婆婆のような存在でもあった。我々家族は彼女のことをこっそり妖怪と呼んでいたこともあった。
私が曽祖母に興味を持ったのは死後、彼女がおおよそ30〜80歳まで、自身のポートレート写真をフィルムカメラでコツコツ撮り続けていた事を知ってからだった。もしかしたらそれより若い時代にも撮影していたのかもしれないが、私の手元にある写真は30歳のものから存在している。

撮影者が誰だったのかは不明だが、美しい服を着てモデルのようにポーズをとった曽祖母の写真を眺めていると、今でいうところの「自撮り女子」を連想してしまう。それらの写真は曽祖母のアルバムから多数発掘された。現代と違って昔はスマホがある訳でもないし、写真機で撮ること自体かなりハードルが高いと思われるが、とにかく美しい自分を残しておきたいという強い気持ちと、その欲望に対する素直さと行動力に、私は衝撃を受けた。もしかしたらギャル魂があったのかもしれない。

「空の家45」2015年

思い返せば、生前の曽祖母の机の上には、いつもお気に入りのモデルさんの写真が置いてあった。といっても、それはファッション雑誌の切り抜き等ではなく、新聞の折込チラシに偶然掲載されていたような名も知らない女性の写真だった。曽祖母のポートレート写真をみれば、綺麗なポーズや柔らかな笑顔の作り方など彼女なりに研究していたことが伺えて、なんだか面白かった。

今も昔も、美しくあろうとする女性の多くは、リアルの素の自分と作られた美を行き来しながら、自己肯定感を高めているのかもしれない。時代を問わずその欲望の変わらなさを勝手に愛おしく思って、曽祖母の写真を、現代のイラストタッチの女の子の絵に書き換えて作品化した。そうする事で、今も昔も変わらぬ女性の美意識を、時を超えて繋ぐ事が出来るんじゃないかと思ったのだ。(そもそもなぜ写真の上にドローイングをし、作品化しなければならなかったのかは前回の作品メモ①をお読み頂きたい)

「空の家44」2015年

とはいえ、せっかく綺麗に撮ったお顔の上から私が絵を描いてしまっているので、もしかしたら曽祖母は天国で怒ってるのかもしれないが、尊敬の念と愛が動機なのでどうか許してほしいと思っている…。これは個人的な感覚に過ぎないが、生前の曽祖母の周りに与える影響力があまりにも大きかったので、こんな風に写真をちょっとやそっと書き換えたところで、彼女の存在はちっとも薄まっていないと感じる。その影響力がどれほどのものかといえば、死後もなお彼女がまだ生きているかのように、しれっと悪口を言ってしまえるぐらいなのだ。むしろ作品化することで、曽祖母の存在はより一層強まっているとさえ思う。

曽祖母のポートレート写真を使った作品に関して私が大切にしたのは、家族写真のもつシリアスさよりも、単純に見た目を可愛らしく仕上げることだった。作品の複雑さより、まず可愛いと言われた方が、作品にとっても、たぶん曽祖母にとっても(せめて)きっといいだろうと考えたからだ。



そのような感じで、曽祖母の写真について語れる事はそれぐらいかな…と思っていたら、つい先日、私も知らなかった驚くべき新事実が明らかになった。
家族に聞いたところ、なんと曽祖母は生前に、ポートレート写真を自ら焼き増しし、周りの人達に配り回っていたらしいのだ。
「これって、まさにリアルSNSでは…!!?」と、さすがに大興奮してしまった。「リツイート機能がなければ生写真を配ればいいじゃない」の発想である。若かりし頃の曽祖母の時代背景を考えると、改めてとてつもない精神力だし、そこまでして美しい自分を知ってほしかったのかと…

ことの真相は分からないままであるが、この作品制作を通して家族写真と向き合う事で、これまで見落としていた、曽祖母という人間の新たな面白さに気付く事ができた。家族写真を単に見返すことと、それを使って作品化することで得られるものは、自分が思うよりもずっと大きく違っていた。写真を書き換え作品化し、もとの形ではなくなる事で、逆説的に見えてくるものが沢山あると改めて感じた。

この曽祖母の写真を使った作品は私の画集にも掲載されている。いま改めて、あの世にいる曽祖母に御礼を言わなければならない。

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大槻香奈画集「その赤色は少女の瞳」 (河出書房新社)


※このテキストは2018年5月27日に大槻香奈の pixiv FANBOX にて掲載していたものを再編集したものになります。

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