ボイスドラマシナリオ:「きっと、銀河鉄道みたいな夜だ。」
【前書き】
皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
今回は2024年4月7日に開催の『STFドラマ祭2404』のシナリオを公開させて頂きます。
合わせて楽しんで頂けると幸いです。
【きっと、銀河鉄道みたいな夜だ。】
作:カナモノユウキ
〔登場人物〕
槌谷太賀(ツチヤタイガ):33歳、新しい人生を胸に秘め田舎に越してきた男性。
天根彩歌(アマネサイカ):29歳、イラストレーターで感性を研ぎ澄ますために田舎へ、そこで太賀に出会う。
樫平野(カシヘイヤ):41歳、田舎の青年団のリーダー。太賀と彩歌の事が好きな漁師。
森香奈枝(モリカナエ):48歳、専業主婦。夢を忘れきれず、細々と音声配信などをしている。
海原洋子(ウナバラヨウコ):50歳、スナックのママ、香奈枝の親友。
空知聖(ソラチセイ):40歳、ヘイヤの幼馴染でスナックでバイトをしている。性別は女性だが、中身は男性。
エル(本名ハナエル):年齢不詳、生星鉄道の車掌。
【プロローグ】
《太賀》
これは、きっと夢なんだと思うんだ。夢はどうせ忘れる。…けどさ、『忘れちゃいけない夢』てのも…もしかしたら。
だったら、だとしたら…神様でも何でもいい。お願いだ、もう一度だけ…。
【本編】
何か不穏な音、地鳴り、大きな波の音、全てが朦朧と聞こえて、しばらくしてから電車の走行音で目が覚める太賀。
太賀「ん…ふう…アレ、寝てた?」
エル「おはようございます。」
太賀「おわあ!」
エル「よくお眠りになられていましたね。寝顔がとても可愛かったですよ。」
太賀「あれ、彩歌…え?あの…ここって…何処ですか?」
エル「何処って、列車の中に決まっているでしょう。ほら、コチラの席にもお連れの方が居ますよ。」
向かい側の席には彩歌が心配そうにこちらを見つめていた、その横の席には平野と聖。
斜め右方向には香奈枝と洋子が座っている。
しかし、太賀は電車に乗った記憶も無ければみんなと一緒に居た曖昧。
太賀「え!?ヘイヤさんに、セイさん…。」
彩歌「太賀…ごめん。」
太賀「うん?…いや…なぁ彩歌、ここどこだよ。俺たち…いつ乗ったんだよこんな電車に。」
彩歌「それは、これから…。」
エル「(被せる様に)太賀さん!切符を拝見してもよろしいですか?」
太賀「は?え、切符って…。」
エル「おや?太賀さんは、切符をお持ちでないのですかな?」
太賀「いやそんなもんどこに…。」
平野「どうした、無賃乗車か?」
聖「ヘイヤ、その言い方良くないよ。でも太賀くんはその辺変わらないな。ちょっと抜けてると言うかなんというか。」
洋子「なになになに、アンタまた何かなくしたの?最初に会った時からアンタはホント変わらないねそういうとこわ。」
太賀「あ、洋子ママ…香奈枝さんも。」
香奈枝「居ちゃ悪いの?太賀くんまたポケットにくしゃくしゃにして入れてるんじゃないの?」
太賀「いやいや!そもそも電車に乗った記憶が無いんですよ?」
平野「…太賀。いいか?俺たちは今から…。」
エル「(また被せる様に)みーなーさーま!そろそろトンネルに入ります。さぁ、切符を握りしめてください。」
各々が顔色を変え、陽子と香奈枝は席に戻る。
切符を握り占め、切符が光りを放ち始める。
太賀「え?切符が光ってる?…なぁ、駅員さん。これ何やってんだよ、俺切符ないんだけど。」
エル「見て居れば分かりますよ、それに…切符が無いなら、貴方は見守ることしか出来ないんですから。」
太賀「それってどういう…。」
エル「ほら、そろそろトンネルを抜けますよ。」
トンネルを抜けると、外は宇宙空間の様だが暗闇ではなく絵に描いた様な運河が広がっている様だった。
彩歌「凄い…子供の時見たアニメの…。」
聖「銀河鉄道の夜でしょ。」
平野「…銀河鉄道なら、この辺りは白鳥座の近くになるのかな。」
洋子「凄いわね~、こんな景色を拝めるなんて…乗れてよかったわ。」
聖「そうですね、僕も一人じゃなくて…みんなで、この景色見れて幸せです。」
香奈枝「そう。」
聖「ん?どうしました、香奈枝さん。」
香奈枝「別に、確かにね…綺麗だわ。」
洋子「香奈枝、こんなとこまで来てわだかまり残していくつもり?」
香奈枝「そんなつもりないけどさ。」
平野「聖、お前そういえば好きだったよな。銀河鉄道の夜。」
聖「うん…好きだったけど、まさか自分が乗るなんてね。」
彩歌「太賀…凄いね。」
太賀「…なぁ、状況がつかめないんだけど…。」
エル「ここは、生星鉄道(きせいてつどう)。人が星の海に帰るための、準備を行う電車です。」
太賀「準備?なんだよそれ…。」
エル「さぁ、皆さま準備はいいですね。皆様お忘れごとをお残しにならない様、しばしご歓談ください。」
平野「お忘れごとねぇ、これは…まぁ話してスッキリしろってことなんだろうな。」
洋子「話すって、うちの店で散々毎日話してんのにね~。」
聖「でもまぁ…話さなかったことも、まぁまぁありましたよね。」
洋子「そうね…、腹割って話すって中々してなかったかもね。」
平野「海月で飲み明かすときは、楽しいことだけしか…なかったからな。」
彩歌「本当、良い名前で…フワフワとお酒呑んで楽しむ。スナック海月はそんなお店でしたね。」
洋子「ほら、覚えてる?アタシがさ、お店立ち上げた時…香奈枝が海月飼っていて、そこから名前つけたこと。」
香奈枝「酔っぱらった勢いで、考えなしに名前着けて…本当びっくりしましたよ。」
洋子「アレね、考えなしじゃないのよ。今だから言うけどさ、香奈枝が羨ましくて…仕方なかったのよアタシ。」
香奈枝「なんですかそれ、腹割って話すってやつですか?」
洋子「だって、今話さないともう話せないんでしょ?だったら伝えないとさ。」
香奈枝「だからって、私のこと羨ましいって…何で。」
洋子「いっつもキラキラしててさ、夢がいつもあって。何度挫折しても違う形で何とかって…カッコいいなってね。隣の芝生ってさ、青く見えるのは分かってんのよ?でも香奈枝の芝生はさ、いつもカッコよくて。憧れてたんだよ。」
香奈枝「…全然、うれしくない。」
洋子「フフ、まあアタシに言われてもそうか。」
香奈枝「全くです!いつも自由に笑ってる洋子さんには言われたくないです!」
聖「ちょっと、香奈枝さん。」
香奈枝「私は…私は頑張って来た!女優になりたくて劇団入ってオーディションもいっぱい行った。自分は頑張ればイケると思ったのに、何もうまくいかないし…劣等感抱えておし潰されそうになって。挫折して嫌いな田舎に帰って、お見合いして…専業主婦して。ぬるくずっと生きて行ける様になって。それがすごく怖くなった!自分がこの世に残らないと思って!残らず死んじゃうのが怖くなった!…だからポッドキャストで人気者になってやろうとしたのに、こんな…。」
聖「…怖いですよね、凄く。」
香奈枝「貴女に何が分かるのよ!」
聖「分かりますよ…なりたいものになれない気持ち、自分が残らず消えるのが怖い気持ちも、全部。」
香奈枝「貴女には…分かってほしくない!…貴女なんかに!」
聖「僕も!…香奈枝さんが羨ましかった、真面目で素直で…だから、香奈枝さんが僕のこと嫌いなのも知ってた。でもそんなことどうでもいい、僕にとって…貴女は憧れの人だった。」
洋子「香奈枝さ、アンタ素直で分かりやすいのに…そこは隠したがるじゃない。私も聖もアンタがそうやって吐き出すのを待ってたんだよ。それを全部聞いた上で…友達になりたかったんだよ。」
香奈枝「じゃあ!…最初からそう言ってよ。今更、そんなこと言わないでよ。」
聖「ごめんなさい。素直になるのが怖かったんです。…いつも素直になることが出来なくて、町から出られなかった。親に縛られ、家を継いで。身も心も、男性になりたいと言えずに。女の体のまま。僕には…香奈枝さんが凄く自由に見えていた。…けど、違ったんですよね。香奈枝さんも、怖がりで不自由だった。」
洋子「アタシにはさ!二人しかいなかった…だから、二人がどうにか素直に居られる場所をって思ってさ。香奈枝が三十路越えて町に戻って苦しんでた時も。聖がずっと自分のことで苦しんでいた時も…アタシは無力で。何かできないかなぁ~!ってずっと思ってたけど、あんな小さなスナックで、二人が笑顔で楽しんでくれて。一緒に居て、子供も旦那も亡くしたアタシにとってはそれが救いでさ!そんな二人がずっと、笑顔で居てくれる場所を守るのが…アタシの生きがいになってたよ。」
聖「僕にとっても、スナック海月は家族って感じで…救われました。」
洋子「フフ…だから最近、聖と香奈枝がギクシャクしてるのが…辛かった。でも、どうにもできなくて…。ごめんね。」
香奈枝「二人は、私のことなんて…心のどこかで憐れんでたと思ってた。…洋子さん、聖くん…ごめん。ポッドキャスト始めたって話した時に。二人にバカにされた気がして…。ムカついて。」
洋子「バカね。アタシらは…そう言うの知らないから、反応に困ったのよ。…私こそ、ごめんね。」
太賀「何か、三人ともいつもと違わないか…。」
エル「皆様が持っている切符は、心を少し素直にする。胸に秘めた思いが、最後に溢れたのでしょう。」
彩歌「最後の…。」
香奈枝「はぁ~何か、言ってたら…どうでもよくなってきた。」
洋子「何だか、学生時代の香奈枝の顔に戻った気がするわ。」
身体が光始める洋子と香奈枝。
洋子「あぁ…アタシらが先か。気にかけてたこと言えて…スッキリした。…最後の最後が、みんなと一緒で良かったわ。香奈枝、あんた旦那は大丈夫なのかい?」
香奈枝「あの人は、最近若い女がいるみたいだから…大丈夫。子供も居ないしね。」
洋子「…ごめんね、大事な話。あんまり出来なかったね。」
香奈枝「ううん…、この町の、みんなの居場所を守ってくれて…ありがとう。洋子さん。みんなも、お世話になりました。また生まれ変わるなら、今度は…みんな家族が良いな。」
洋子「アタシも同じこと言おうとしたわ!ハハハハ…じゃあ、香奈枝…聖くん。みんな、じゃあね。」
聖「二人とも…。ありがとう、ございました。」
平野「洋子さん、美味い酒ありがとな。香奈枝さん、お疲れ様。」
太賀「…なぁ、どういうことだよ!おい!」
洋子「太賀!アンタ頑張んなよ!負けんじゃないよ!」
香奈枝「応援してるから。無理だけはしないでね。」
太賀「何だよ、お別れみたいに。」
彩歌「太賀…お別れだよ。…洋子さん、香奈枝さん、本当にお世話になりました。」
香奈枝「みんな、ありがとう。またね。」
洋子「人生!楽しかったわ!…はぁ…またお酒呑もうね。」
光になって消える香奈枝と洋子。
平野「…なるほど、こういうことか。」
太賀「嘘…だろ、消えちまったぞ?二人はどうなったんだよ?」
エル「星になった。…それだけのことです。さぁ残りの皆様も、最後の時間を大事にお過ごしくださいね。」
太賀「何なんだよそれ!さっきから…何が起きてんだよ!」
彩歌「太賀…落ち着て、話そう。」
平野「…大大丈夫か?聖。」
聖「僕たち、本当に…もう駄目なんだ。」
平野「ああ、大人しく受け入れよう。あの二人みたいに。」
聖「…僕はさ、何か残せたかな。」
平野「何かって、生きた証とかか?…残ってるだろ。高校卒業して、聖が本当の居場所が欲しいって言ったとき。二人で借りたボロアパートは今でも残ってたし。お前が造った彫刻は、町の市役所に飾られてる。そして、俺たち六人が集まって毎晩騒いでたスナック海月も…きっと。」
聖の身体が光始める。
聖「…僕ね、やっぱり平野が好きだ。」
平野「うん。俺も好きだ。」
聖「平野はさ、町の皆が大好きで。だから町の為に働いて…でも僕には、それが辛かった。」
平野「分かってたよ。…ごめんな、俺にはお前を選ぶことが出来なかったし。お前はお前の道があると思った。子供の頃から美術が得意で、高校の頃から有名アトリエから声掛かったりしてさ。同棲してみたけど、俺は仕事だ付き合いだで家にいない。そんな俺に気を回して、聖が作品を作れなかったり。そんなん見てられなくて、お前も俺も…離れることを選んだ。」
聖「でも、二人で暮らしたあの時間は…とても素直に、男で居られたんだ。短髪にしても、汚い言葉遣いでも。女としてじゃない、男の空知聖を平野が受け入れてくれて…そうして過ごせた。町の人たちの偏見の眼もない、親が抱く期待通りの女で居なくてもいい…あの自由が無かったら、僕は…。」
平野「聖、お前はずっと自由だったぞ。性別なんて関係ない。お前は、お前だった。大丈夫だ、お前は…この世界に残っているさ。俺が保証する。空知聖は、残り続ける。」
聖「よかった…よかった、本当に。」
彩歌「ありがとう…ございました。」
太賀「聖さん…アンタも?」
聖「太賀君、頑張って。…平野、愛してた。…またね。」
平野「ああ。…またな。」
光になって消える聖。
平野「あとは、俺たちだけだな。」
太賀「なぁ、何だよこの夢は…冗談キツイって。」
平野「太賀、よく聞け。これは、夢でも幻でもない。…俺たちは、ここでお別れだ。」
太賀「お別れってどういう意味だよ!」
平野「文字通りだ。俺も、聖も、香奈枝さんも洋子ママも…彩歌も。お別れなんだ。」
太賀「そんな淡々と言われても…俺には全然分からない!さっき…窓の外が星でいっぱいとか話してたけどよ。俺にはそんなもん見えないし!ただ嵐が見えるだけじゃないか!」
太賀に目に映る光景は、運河ではなく嵐そのものだった。
その時、平野の身体が光始める。
平野「そうか…お前にはそう見えてんのか。」
彩歌「平野さん、いつも助けてもらってばっかりで…。」
平野「良いんだよ彩歌ちゃん。君と、太賀が幸せだったなら…本当に良かった。」
太賀「……(荒い呼吸)。」
平野「太賀!…聞いてくれ。今ここに居たみんなは、もがき苦しみながら自分の居場所を、夢や安らぎを。必死になってこの小さな町で追いかけていた。洋子ママは、二十代で旦那と息子、更に両親も亡くした。それでも、懸命に生きて俺たちみたいな寂しい奴らのよりどころを作った。香奈枝さんも、町に来た時は酷い顔だったが…俺たちみんなと接して笑顔になった。聖は心は男でありながら、女の体で生まれ。小さい町の迫害にも耐え、自分を残したいとアーティストをしながら世話になってる洋子ママを助けるためにスナックでバイトしていた。彩歌ちゃんも、お前と同じように苦しんでここに辿り着き…お前と愛し合い、生きて居た。」
太賀「…やめろ。やめてくれ。…聞きたくない。」
平野「俺は…太賀、弱虫なんだ。この小さい町から出られない。ずっと言えなかった。でも今なら言える、俺は怖かった。この田舎の町から出ることも、他人も全てが…怖かった。」
太賀「もういい!やめてくれ!」
平野「お前には感謝してんだ、こんな臆病な俺を慕ってくれてさ。」
太賀「アンタが!人生に疲れて、都会から逃げ出した俺を受け入れてくれたんじゃないか!」
平野「そうだったな。でもそれはな、俺が得た唯一の都会…憧れだったんだ。」
太賀「憧れって、俺のことをか?こんな負け犬を?」
平野「負け犬なんて、人それぞれだ。…俺はな、高校卒業して大学にも行かずに親父を手伝いに海に出た。そこからはただ何も考えず、漁をすればいい生活だ。…退屈で、死にそうだった。でもだからと言って、外に行くのは怖い。そんな中、お前がやって来て都会の話を聞かせてくれた。それはそれは刺激的で、楽しかった。仲良くなって、また色んな話が聞けて…ありがとうな、太賀。彩歌ちゃんも、色々とありがとう。」
太賀「もうやめろ!黙ってくれ!」
彩歌「平野さん、次で会えたら…都会でお茶しましょうね。」
平野「そうだな。しよう。」
太賀「平野兄さん!」
平野「二人とも、ありがとう。」
光になり消える平野。
彩歌「…ねぇ、太賀。」
太賀「話すな!…お前はもう話すな。」
彩歌「聞いてよ太賀。」
太賀「嫌だ!聞きたくない!」
彩歌「太賀。」
身体が光出す彩歌。
太賀「…。」
彩歌「町に来た日。区役所で聖さんの作品がロビーに飾られていて、誰も見てなかった中で私と太賀だけ見入ってたの。」
太賀「…昔ばなしなんてするなよ。」
彩歌「躍動感ある男性の彫刻がかっこよくてさ…その夜に晩御飯食べに行った食堂で、平野さんと聖さん…太賀に会って。まさかその日のうちに、製作者さんに出会ったり、お世話になる人や…恋人に会うなんてね。運命だったよね。」
太賀「やめろって…お願いだから。」
彩歌「それから平野さんと聖さんに連れられて、スナック海月に行って…楽しい夜を過ごしてさ。その頃には、誰よりも太賀と仲良くなっていて。お互いのこと話していくうちに、凄く近い存在だなって。都会でのいじめとか、親との不仲とか…全部太賀がどうでもよくしてくれた。だから、付き合いたいと思った…嬉しかったよ、凄く。ありがとう…本当に、ありがとう。」
太賀「話すなって!…それ以上話したら…みんなと同じように…お前も…。」
彩歌「私は、恋人もろくに居なかったから。太賀との同棲が初めてで…だから、ちゃんと、家族になりたかったな。」
太賀「結婚するんだよ!プロポーズ…今日…そうだ、今日だよ!みんなで彩歌にプロポーズするからって!海月にみんな集めて、サプライズでプロポーズする予定で!それで!」
彩歌「受け取りたかったな。…それに、私からも言いたかったこと…あるんだ。」
太賀「……それって。」
彩歌「でもさ、もういいの。今ので、分かってくれたし。」
太賀「嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ!…行かないでくれよ、彩歌。」
彩歌「楽しかった、この町に来た五年間。都会から逃げた先が、ここで良かった。太賀、いっぱい言わせて。…出会ってくれて、ありがとう。一緒に居てくれて、ありがとう。大事にしてくれて…。」
太賀「やめろ!もうよせ!」
彩歌「太賀、大好きでした。」
太賀「彩歌…。あぁ…、世界一、宇宙一!大好きだ!」
彩歌「ありがとう…。太賀…最後にね、言いたいことがあるの。」
太賀「…なんだよ。」
彩歌「私のことを、これからは…。」
太賀「っく!聞きたくない!それを聞いたらお前!」
何かを伝えようとしているが、聞こえずぞのまま光になり消えた彩歌。
しばしの間。
太賀「……おい、なんだよ。何て言ったのか…分かんなかったじゃないか。…彩歌。」
エル「槌谷太賀様、お疲れ様でした。」
太賀「……俺も、光になるのか。」
エル「貴方様は、まだ生ある身。今回は、天根彩歌様の願いで、同じ場に居たことも踏まえて…ご同行して頂いたまで。」
太賀「彩歌の?」
エル「お別れをちゃんと言わないと、寂しがるからと。…さぁ、戻りますよ。」
咽び泣く太賀。
エル「窓の外を、ご覧ください。」
太賀「…外なんてただの嵐じゃ…なんだこれ。」
窓の外には、嵐ではなく燦々と星の輝く運河が広がっていた。
立ち上がり、窓に手を当てる太賀。
太賀「…綺麗な、星の…海か。」
エル「今輝いているのは、彩歌様に平野様、聖様に洋子様と香奈枝様。皆様、輝いておられますね。」
太賀「あの、欠けた月みたいに見えるのは…。」
エル「あぁ…そうかもしれませんね。」
太賀「…このまま、どうなるんだよ。みんなは。」
エル「星は、いつかは元の場所に帰ります。それまでは、輝き続けるでしょう。」
太賀「…俺は、またこの列車に乗れるのか?」
エル「ええ、もちろん。その際はしっかりとお忘れごとをお済まし下さい。」
電車の走行音が大きくなり、太賀の意識はだんだんと遠くなる。
【エンディング→君とフルムーン】
【エピローグ】
《太賀》
彩歌と同じ様に、人間関係に疲れてやっきたこの町。さびれていて、バスで移動しないとコンビにすらない。
ギリギリ商店街は生きて居たけど、もうない。何にも…なくなった。
あの銀河鉄道のみたいな夜が、本当にあったことなのか、それとも本当にただの夢だったのか。俺には分からない。
でも、少なくとも。…現実には、もう誰も居ない。
引っ越してきて、仕事を紹介してくれた漁師の平野さん。
町で小さなアトリエをやっていて、夜はスナックで働いていたトランスジェンダーの聖さん。
そのスナック、海月のママでいつも美味い煮つけを食わしてくれる洋子ママ。
町で一軒しかないスーパーでパートしてる時、内緒だよと値引きシールを貼ってくれる、優しい香奈枝さん。
…同じように、都会が嫌でこの町に逃げて来た。一際真面目で、みんなと笑っていた…彩歌。
そう、目を覚ましたら…ここに来てからの6年間が嘘のよう、誰も居なくなっていた。
「…彩歌、最後に…なんて言おうとしたんだよ。」
俺は今日も、彼女の好きな曲を聞きながら…藻掻くように生きていく。
(苦しそうに泣く太賀。)
―完―
【クレジット】
~◆出演者◆~
「槌谷太賀役/ざきノたいる」
🔻ラジオ(stand_fm)
https://stand.fm/channels/6151a53b9ccb419e5ff6f5a1
「天根彩歌役/emi」
🔻YouTube
https://youtube.com/@emi_derevoice?si=60lfVhSfq6NuKKh1
🔻note
https://note.com/brainy_holly456/
🔻ラジオ(stand_fm)
https://stand.fm/channels/5f8f615337dc4cc7e1388634
「樫平野役/シカヘル」
🔻note
https://note.com/shikahel
🔻ラジオ(stand_fm)
https://stand.fm/channels/5ff266241f63b1cf68ed0bfd
「空知聖役/桜吹雪」
🔻各種LINK
https://lit.link/sakurafubuki
🔻ラジオ
https://stand.fm/channels/60a89190b82bc5e1f316b8d3
「森香奈枝役/朗読あん」
🔻ラジオ(stand_fm)
https://stand.fm/channels/61e4ebcd299c4d50053dae35
「海原洋子役/嬉読屋しおん」
🔻note
https://note.com/kidokutheater
🔻ラジオ(stand_fm)
https://stand.fm/channels/5f899ea137dc4cc7e1b6c2d4
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~◆主題歌◆~
「君とフルムーン╱月波イロ」
🔻ご購入&サブスクはこちら
https://big-up.style/5CTVGEcclS
🔻歌詞(note)
https://note.com/iro_tukinami/n/n6ae52cdc8602
🔻ラジオ(stand_fm)
https://stand.fm/channels/5f338d26907968e29df2a15e
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〜◆BGM・効果音◆〜
「彗星」「月夜」 作(編)曲:蒼い鍵盤様
「ふりつむ悲しみ」 作(編)曲:のる様
「Guitar Melancholy」「Memories2」 作(編)曲:PeriTune様
「帰りみち」 作(編)曲:hotaru sounds様
「三日月の夜」 作(編)曲:Ryo Lion様
「追憶」「もう一つの誓い」「夏に咲く花を」「Memories of My childhood」 作(編)曲:EINE様
「抜け殻」 作(編)曲:REPSAPP様
「効果音ラボ様」
https://t.co/fsx2eiev0A
「ポケットサウンド様」
https://t.co/txmFOi9b0C
「無料効果音様」
https://t.co/VvVDOLMPRy
「無料効果音で遊ぼう!様」
https://taira-komori.jpn.org/
「ニコニ・コモンズ様」
https://t.co/jktsVGpxye
「OtoLogic様」
https://t.co/RA0OVplDXF
「VSQplus+様」
https://vsq.co.jp/plus/
「PIXTA様」
【あとがき】
最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。
まず最初にお礼を言わせてください。
このドラマに声で命を吹き込んでくれた、ざきさん、emiさん、シカさん、桜さん、あんさん、しーさん。音楽で物語に鼓動を生んでくれた、イロさん。
以上、劇団Off会のメンバーの方々。
そして最後まで聴いてくださった物語を読んで下さった皆様。
ドラマを聴いて下さった皆様。
心より、感謝申し上げます。
この物語を出すに辺り、正直最後の最後まで迷いながらでした。
どう皆様に届くのか、どう伝わるのかなど。
製作過程でも、「これは誰に向けた物語なのか?」と言う疑問の指摘が頭を駆け巡り続けました。
正直、答えはこれからだと思っています。
これが皆様の耳に届いたとき、それぞれの答えの中にボクの答えも生まれ出すんだろうと。
余談ですが、この物語のプロットは5年以上前に書いた「踏切で見送る」から派生しました。
元々書きたかった物語は、今回の銀河鉄道だったのですが、自分の中で纏まらず。
踏切は銀河鉄道の為に産み出された、《始発》の様な作品でした。
そこから時間が立ち、過去の出会いや感銘を受けた台本に立ち返り、色々な《乗り継ぎ》を経て物語を書き起こすまでに至りました。
この銀河鉄道が生まれる切っ掛けは二つ。
それはあるバイカーさんとの出会いと、ある脚本との出会いでした。
悲しい出来事で全てを失い、日本一周をしているという方に出会い。
その方の話を明け方まで聞いた夜。
まだお芝居を勉強している時に、またその悲しい出来事から生まれた物語に触れた時。
この様に自分でボイスドラマを製作するなんて夢にも思っていなかった頃に。
確かに心の中で、形にしたいと思った出来事がありました。
そのバイカーさんと脚本家さんにも、心からの感謝を。
ありがとうございます。
「きっと、銀河鉄道みたいな夜だ。」は皆様にはどの様に届いたでしょうか。
もしも、誰かに何か伝えたい。
そんな切っ掛けになってくれたら幸いです。
改めて。
今回は「きっと、銀河鉄道みたいな夜だ。」に出会っていただき。
誠に、ありがとうございます。
では次も楽しんで頂けることを祈ります。
お疲れ様でした。
カナモノユウキ
【おまけ】
横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。
※これは収録の際に使用したPDFそのままのモノとなります。記載内容の際などもありますが、その違いとかを楽しんで頂けると幸いです。
《作品利用について》
・もしもこちらの作品を読んで「朗読したい」「使いたい」
そう思っていただける方が居ましたら喜んで「どうぞ」と言います。
ただ〝お願いごと〟が3つほどございます。
ご使用の際はメール又はコメントなどでお知らせください。
※事前報告、お願いいたします。配信アプリなどで利用の際は【#カナモノさん】とタグをつけて頂きますようお願いいたします。
自作での発信とするのはおやめ下さい。
尚、一人称や日付の変更などは構いません。
内容変更の際はメールでのご相談お願いいたします。
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