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ショートショート:「むすんで、ひらいて」feelto:remix

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。

今回は去年だした「むすんで、ひらいて」という作品を、自分と親交の深いemiさんとのクリエイティブユニット【feelto】での作品にするために声劇バージョンとして修正を加えたものになります。

楽しんで頂けると幸いです。

emi🍀さんのnoteはこちらから

emi🍀 | https://note.com/brainy_holly456


【むすんで、ひらいて】

作:カナモノユウキ


〔登場人物〕
真白洋平 29歳の在宅ワーカー
・米倉明日香 28歳で難病を患う

「今日はどこいこうか?」
「そうだね、あの新しく出来たカフェに行きたいな。」
「いいね、そこ行こうか。」
今日も僕たちは手をつなぐ、それは二人に取って一番大事なこと。
何をするにしても、先ずは手をつなぐ。
そうしないと、直ぐに振出しに戻ってしまうから…
「ここのカフェのエクレア、凄くクリームが濃厚なんだって。」
明るく無邪気で、好奇心が旺盛な僕の彼女、米倉明日香。
彼女の手はいつも暖かくて、冬はカイロのように温めてくれるし、夏は陽だまりのようで心地いい。
カフェの長い待ち時間も、この手の温もりがあれば「あっ」という間に終わってしまう。
「いらっしゃいませ、こちらのお席へどうぞ。」
ウェイターに案内されて、席に行くときも手は繋いだまま。
なるべく離さない様に、慎重に席へ向かう。
「結構混んでるね、やっぱり人気なんだね、ここのエクレア。」
「そうだね、なんかワクワクするね。」
甘い香りに彼女は興奮している、僕もそれを見てワクワクする。
キラキラと店内を見渡す、ただ当たり前だけど、手を繋いでいるカップルは僕たちだけだ。
「お客様、ご注文をお伺いしてもよろしいですか?」
「特製エクレアとコーヒーのセット二つ。」
「…ハイ、畏まりました。」
「はぁ…。」
「エクレア、結構大きいかな?あたしの口でも入るかな。」
「そりゃ入るよ、明日香の口はカービーみたいにお菓子を吸い込むからさ。」
「ちょっと!それは言い過ぎじゃない!?」
手を繋いでいると、相手がどういうことを考えているかもわかってくる。
気分がいいとき悪いとき、悲しいときなんかも。手のぬくもりが、お互いのバロメーターだ。
だからこそ、ウェイターに苛立った僕に笑顔を向けてくれた。「気にしないで」と言うかの様に。
「お待たせしました~。」
「やったー!テレビで見てずっと楽しみだったんだエクレア!」
「凄いね、クリームはみ出しすぎているよ。」
ワクワクしている彼女、ただサイズが大きすぎて、〝両手〟じゃないと食べられない感じだ。
「これは、両手じゃないと無理だね。」
「……手、離したくないな。」
「仕方ないよ、今準備するから、少し待って。」
僕は鞄からいつものノートを取り出す。
表紙には【驚かないで読んで欲しい、目の前にいる人はあたしの彼氏です、証拠はここに。】と書かれている。
ノートを開くと、二人で撮った写真がビッシリ貼ってある。
「落ち着いて、大丈夫、食べ終わったら直ぐ繋ぐから。安心して。」
「……わかった。」
ゆっくりと指が開き、明日香の手が離れていく。


――――――――――――「あなた、誰ですか?」
僕は静かにノートを指さす、彼女はオドオドと中身を読み進める。
一通り内容を理解した彼女が話しかけるのを僕は待つ。
「あの、〝彼氏〟…さん。このエクレア、食べていいの?」
「もちろん、二人で食べに来たんですよ。せっかくですし、食べましょう。」
「はい…。ん!…凄く、おいしい!」
「良かった。」
甘いクリームが口の中いっぱいに広がり、お互いに幸せを感じる。
でも今は、少しお互いに距離のある〝幸せ〟だ。
僕の彼女は、不思議な病気に侵されている。
〝手を握っていないと、僕との記憶が無くなる〟という原因不明の病(やまい)。
始まりは突然起こった。


「キャーーー!あなた誰ですか!?ここどこですか!?何でここにいるの!?誰か!助けて!」
「なぁ何言ってんだよ明日香、僕だよ。頭でも打ったか?僕のこと分からないのか!?」
「あなたなんて知らない!ここはどこなの!?なんなのここ!人さらい!?」
訳が分からず、ただただお互いパニックで。
どうにか暴れて逃げようとする彼女の振りかざした手を掴んだ時だった。
「え?……アレ?洋平?何で、手握ってるの?」
「明日香?僕のこと分かるの?今の何だったの?」
「今の?何の話かわからないよ洋平、何かあったの?」
お互い頭の中に疑問が沢山浮かんだ、冷静になろうと手を離した時だった。
「あなた誰よ!何なのここ!あたしはどこにいるのよ!」
手を放すと、やり取りは振出しに戻った。
これを5回ほど繰り返して、やっと状況が理解できた。
最初は絶望した、手を握り続けないと全てがやり直し。
それでも、どうにか出来ないかとお互いに手を握りながら、必死に考えた。
そして辿り着いた〝なるべく手を握り続ける〟という生活。
放したときは、思い出をまとめたノートを見せて記憶のない彼女を、彼女自身の言葉で説得する。
最初は大変だった、ノートを見せてもピンとこないのか疑われて、警察を呼ばれるは。
手を握るのを拒否されて、丸一日押し問答を繰り広げたりもした。
その度にノートを改良して、ようやく今のような状況に落ち着いた。
今分かっていることは、手を離した彼女も手を繋いでいる彼女も、記憶を共有してはいない。
ただ自分が【米倉明日香】という自覚はあり、離した彼女は〝ある地点からの記憶〟からリセットされるらしい。
僕も知らなかった、彼女だけの記憶から…。


―――「ごちそうさまでした、こういう所はじめて来ましたけど、このエクレア美味しいですね。人気なんですか?」
「そうみたいですよ、テレビでも紹介されるぐらい人気みたいで。」
「急にこんなおしゃれなカフェに居てビックリしましたけど、結果得しちゃいました。
あたし、いつも病室に居るから、こんな経験したことなくて。〝彼氏〟さん、ありがとうございます。」
「いえ、気にしないで。」
「手を繋いだあたしは、いつもこんなにいい思いをしてるなんて、羨ましい。」
僕の知らない彼女の記憶、昔は病弱で友達と出掛けることも出来なかったと聞いている、もう10年も前の話だ。
今の彼女は、見た目は28歳の女性でも、中身は17歳の少女なのだ。
「今度、どこか行きたいとこはある?」
「あー、水族館、本物のペンギンが見たい。」
「いいよ、必ず行こう、今日の約束を思い出せるように、このノートに書いておいてもらってもいいかな?」
「あたし、この時間も忘れちゃうの?」
「わからない、でもきっと覚えているよ。ただ思い出しやすいように、残して欲しいんだ。」
「わかった、あたし字が汚いから、書いてるとこ見ないで。」
「はいはい。」
ノートにまた一つ、思い出と約束が記される。
繋いだときの彼女はこのノートを〝過去の自分との文通ノート〟と言っている。
経験している体は一つなのに、記憶は二つ、片方はすぐに消えてしまう。
その二人を繋ぐ、とても貴重なノート。
『大人の私へ。エクレア、凄く美味しかったです。ありがとう。今度は、彼氏さんと食べて欲しい。
だから、またここに来てね。その時は二人で食べれます様に、応援してる。頑張ってね、大人の私。
あとお願いがあります。私ペンギンが見てみたいです。大人の私が良ければ、連れて行って欲しいです。
叶えられなかったことを、叶えてみたいです。よろしくお願いします。』
「書けたよ。」
「ありがとう、ちょっと待ってて、今お土産買いに行ってくるから。」
「わかった。」
カフェの入り口にある、テイクアウトコーナーでエクレアを買う。
家に帰れば、彼女も人目を気にせず、エクレアを食べられるはず。
手を離さなくても、気にせずに。
「お待たせ、さぁ出ようか。」
「うん、あの……エクレアありがとうって、あたしに伝えて。」
「わかった、必ず伝える。」
店先に出て、そっと手を差し出してきた彼女。
僕は一言〝またね〟と伝えて、手を握る。


―――――「ただいま。」
「おかえり。」
「はぁ~、エクレア食べたかったなぁ。」
「そういうと思って、お土産買っといた。うちで食べよ。」
「え!?本当!?やったー!ありがとう洋平!持つべきものは出来る彼氏だ!」
「褒めてもエクレア以外なんもないぞ?」
「えー、無いの?残念だなぁ~。」
「あ。そうだ、明日香。次は水族館だって。」
「水族館かぁ、そしたら来週行こう!時間あるでしょ?」
「うん、もちろん。」
僕たちはこうして、むすんで、ひらいてを繰り返す。
むすんで伝えて、ひらいて紡ぐ。
今を伝えて受け入れて、なるべく幸せを紡げるように。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

先にも書きましたがこちらはemiさんとのユニット【feelto】での第一回作品として修正を加えました。

主に「会話」を意識して書いてみたのですが、前の作品に今の自分が向き合い手を加える作業はとても新鮮で。「今の自分なら…」や「emiさんならいい演技をしてくれる」といった刺激もあり、同じようでも少し違うという部分が楽しめるようになっていたらいいなぁ…とか思います。

今後も【feelto】としても、作品作りを頑張りますのでよろしくお願い致します。

では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。

【準備中】


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    ※事前報告、お願いいたします。

  2. 配信アプリなどで利用の際は【#カナモノさん】とタグをつけて頂きますようお願いいたします。

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尚、一人称や日付の変更などは構いません。
内容変更の際はメールでのご相談お願いいたします。

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