ボイスドラマシナリオ:「夜縹を共に。」
【前書き】
皆様、お疲れ様です。
カナモノです。
昨日出した恋愛もの続き書いてみました。
少しの間でも、誰かに寄り添えることを願います。
【夜縹を共に。】
作:カナモノユウキ
《登場人物》
・川上花道(40)町の役場に勤める男性、高校時代に朱香を見掛けてから一目惚れをしていた。以来、彼女をつくらず独身でいる。
・蒼乃朱香(39)高校の先輩である花道に片思いを続けていた、親の言い付けで制約結婚をして町を離れた。
海の傍にある小さな駅、終電を逃してしまった朱香。
朱香「あ~、行っちゃった。今日の終電…もう無いのね、参ったな。帰るって連絡したばっかりなのに。」
花道「…朱香さん?あの、朱香さんですよね?」
朱香「え…あ、花道…さん?え、嘘…本当に花道さん?」
花道「あぁ、あれから…何年ぶりだろうね。僕が二十七歳だったから…。」
朱香「十四年ぶりですかね、本当懐かしい。全然変わってないですね花道さん、昔のままで。」
花道「いやいや、白髪は増え出してもうお酒も…全然呑めなくて。朱香さんも、全然変わってない…あの頃のままだ。」
朱香「私だって、シワも増えたし。全然…変わってしまいましたよ。花道さんは、どうしてここに?」
花道「飲み会の帰りだったんですけど、若い奴らの面倒見て居たらこんな時間で…田舎町の飲み会も考えもんですね。」
朱香「私も…久々に地元の友達の家に呼ばれて食事して、それで酔った友達の介抱をしていたらこんな時間に。」
花道「やっぱり朱香さんは変わらないですね、優しいところとか、人を助けるところとか特に。」
朱香「私、人を助けたりしたことありました?」
花道「学生の時に、体育祭で倒れた人を助けていたし。たまたま電車で乗り合わせたおばあちゃんが具合悪くなったのをいち早く助けに行ったりしていたの…こそっと見ていました。」
朱香「あ~、ありましたねそんなこと。…花道さん、私のことよく見ていたんですね。」
花道「学年が違いましたし、見掛けるとついつい目で追うのが癖になっていたんですよね、朱香さんのことを。」
朱香「それも、何だか一緒ですね。」
花道「似た者同士、だったんですね。やっぱり、あの時の会話だけじゃ全然…足りなかったですね。」
朱香「本当に、たった一度の会話なのに…花道さんをいっぱい知った気になっていました。」
花道「僕もです。朱香さんをずっと見ていたせいで、あの一度で…満足しようとしていた。」
朱香「…同じ駅で、あの頃と変わらない波の音を聞きながら…貴方に会えた。…嬉しいです。」
花道「僕もですよ。ずっと、朱香さんを…想っていたから。…でも、貴女はもう誰かのパートナーなんだね。」
朱香「え?…あぁ、指輪…。うん、ここを離れたあの日から私は…。」
少しの間。二人を波の音が包む、そして花道は煙草を取り出す。
花道「煙草、吸ってもいいですか?」
朱香「…もちろん。…私も、一本貰っても?」
花道「もちろん。…煙草、吸うようになったんですね。」
朱香「…確かに、ここで電車を待っていた頃は…吸っていませんでしたね。」
お互いに煙草に火をつけて、煙をくゆらす。
花道「(煙を吐く)そんな朱香さんがあの時より艶めいて見えてしまうのは、煙草を吸う姿のせいですかね。」
朱香「きっと、煙で目が曇っているせいですよ。」
花道「そうかな…。」
朱香「…そうですよ。…花道さんは、今日この後どうするんですか?朝までここに?」
花道「いや、二駅歩けば自宅なので歩こうかと。…朱香さんは?」
朱香「私は…ここでこの夜縹の海を眺めて居ようかなって、今日はちょっと呑み過ぎたみたいだし。」
朱香の左手を優しく手に取り、ゆっくりと指輪を引き抜く花道。
花道「良ければ、今夜だけ…僕と一緒に夜縹の海の奥へと…行きませんか?」
朱香「それって…駄目ですよ、私はもう…。」
花道「きっと、今日のこの夜は…あの朝の様に一度だけだ。なら、一度ぐらい…いや、一夜ぐらいは自由になりませんか?」
朱香「…自由になって、いいの?」
花道「僕が責任を持ちます、今夜だけは二人でこの世界に二人きりだと思って。」
朱香「花道さんは、いつも…優しい。」
花道「朱香さんは…いつも…。」
唇を交わす二人、そのまま波の音が二人を包む。
ナレーション:朱香
その夜、まるで二人のアルバムを照らし合わせるような可愛い会話と。
まるで心の枷が外れて、欲望が溢れ出したような、本当に夜縹の奥へと落ちていく様な夜だった。
私は、何度も笑い、何度も泣いた。
ナレーション:花道
その夜はお互いの時間がとてもゆっくりで、早くて。
彼女の知らなかったところ、知っていたところが、僕を満たしていった。
朝まで僕らは一睡もせず、語り合い、求め合った。指輪を元に戻したころには、外す前の顔に戻っていた。
朱香「そして、私と花道さんはもう一度再開する…時は2023年の春。私たちは、もういい歳を越えていた。」
【あとがき】
最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。
…何か、大人ですね。(よく分かってない。)
まだ続きます、次に書く「愛惜の朱。」に続きます。
次で最後っす、この二人。
では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。
カナモノユウキ
【おまけ】
横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。
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