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研究室に配属された卒研生が,はじめて論文を読むときは,どうやって論文を読んでいけば良いのか分からないことも多いでしょう.
また,大学院に進学した修士や博士の学生でも,どうやって論文を読めばよいのか色々試行錯誤している人も多いと思います.
私も博士課程を修了し,研究を続けていますが,どういった読み方が正しいのか,効率が良いのかは分かりません.
自分に合う方法というのは各々が試行錯誤しながら見つけていくものなので,人それぞれの答えがあって良いのだと思います.

ここでは私の読み方や考えを紹介しますが,あくまで現時点での私の考えの一つに過ぎません.
一つでも何か参考になる情報があれば,採り入れてみてください.
そして,可能であれば,周りの人と情報共有しあってみましょう.
アウトプットする過程で,自分の思考が整理されるので,より自分自身の理解も深まります.
※このnoteは理系の論文を読む場合を想定しており,また,レビューのような複数の研究をまとめた論文の読み方は想定していません.

1.最初から順に全部読まない

一番はじめに,大事なことを言っておきます.「最初から順に全部読まない」のが,途中で読むのに挫折しないコツであり,また効率良く読んでいくためのコツです.
初めて論文を読む人は,順番に読むものじゃないかと思われるかもしれませんが,初めての人ほど最初から読むと途中で挫折しやすく,
しかも,内容が全く頭に残っていなかったりします.

2.要旨を読み,What's new?と問いかけてみる 

どの論文でも,基本的にまずはじめに要旨(Abstract)が書いてあります.
まずここをじっくり読んで,その論文では何を初めて明らかにしたのか(What's new?)を理解しましょう.
論文とは,新しい発見を報告するものです.
何が新しいのか,どういった点で新しいのか等を予め頭に入れておくだけで,その後中身を読んでいった際の理解のスピードが変わってきます.

3.序論は研究の背景を理解するために読む

序論には,著者らがそのような研究をするに至った,研究の背景が示されています.
著者らがなぜそこに疑問を持ったのか,その研究分野ではどのようなことを解明することが期待されているのかなど,研究の背景を手っ取り早く理解するには,序論の内容を一通り理解するのが重要です.
初めて論文を読む人や,自分の専門外の論文を読む際には,特に序論が重要な役割を果たします.
要旨を読んだ時点で,著者らがなぜそのような研究を行ったのか想像出来なければ,序論を読んでおいた方が良いと思います.

4.方法についてはとりあえずスキップする

序論に続いて,実験方法について述べている論文が多くあります.
私は,この段階では,まだ実験方法を読みません
特に,論文をあまり読み慣れていない人ほど,まずはスキップすることをオススメします.
ただし,全く読まなくても良いのかと言われれば,答えはノーです.
次に,実験結果(データ)に目を通していきますが,その際に必要となります.
これについては次のセクションで述べましょう.

5.結果については本文は見ずに図表を見る

これは,研究室のゼミなどで論文の輪読や,論文紹介(Journal club)などを経験している大学院生にも,是非とも強くオススメしたいと思います.
要旨と序論を読んで,著者らが明らかにしたかったことを理解できている読者であれば,結果については,基本的に図表を見るだけで,著者らの主張について議論できるでしょう.
本文を見ずに」がポイントです.
本文には著者ら言いたいことが書かれているので,先に本文を読んでしまうと著者らの主張をそのまま鵜呑みにしやすくなります.
著者らがデータを都合よく解釈している可能性だってあります.
批判的に読むためには,著者らが図表に示したデータをじっくりと読み,そこから何が言えるかを読者は再構築しなければなりません.
それぞれのデータが何を示しているデータなのかを理解するためには,どうやって得られたデータなのか知る必要があります.
ぱっと図表を見たときに,どうやって取得したか不明なデータについては,ここで実験方法を読めばOKだと思います.
データに一通り目を通してから,本文を読みます.
そこで,著者らの主張がきちんとデータ(証拠)によって裏付けられているか,確認していきましょう.
うまく読み解けないデータも,本文を読んでいくと理解できることもあります.(著者らの主張に引きずられてしまう可能性もあるので注意.分からなければ,先輩や先生などに聞いてみて,アドバイスをもらうのもアリです.)
ここで,批判的に読む訓練を積んでおくと,自身の研究発表等にも十分活かされるでしょう.

6.事実と真実

すこし話がそれますが,ここで事実と真実の話をしたいと思います.
事実は,起きたことそのものです.
ある実験をして,何かデータを得たとしましょう.このときの,データに相当するものが「事実」です.
一方で「真実」はそれよりももう少し深いところにあります.
例えば,ある試料(サンプル)に対して,実験Aをすれば,必ず結果Aが得られるとしましょう.同じサンプルに対して,異なる実験Bをすれば,次は違った結果Bが得られるとします.
同じサンプルなのに,異なる実験を行うと,異なる結果が得られる,というのは,実験方法(アプローチ)の違いによって,サンプル を異なる側面から見ているということです.
このとき,それぞれの結果(事実)だけが分かったとしても,なぜそのような異なる結果が出るのか,というのは,サンプルの本質(サンプルが持っている性質や特徴)が分からなければ,説明できません.
真実というのは,ここで言うサンプルの本質に相当します.
研究者たちは,様々な実験(試行錯誤)を通して,そのサンプルの本質(真実)に迫ろうとしているのです

7.残るは考察と結論

さて,残るは考察と結論ですが…
特にコツというものも思いつかない,というのが正直なところです.
真実の解明に近づくために,著者らがどう考えているか,というのが読み取れるパートであるのですが…

ただ一つ言えることは,考察パートに関しては,初めての人が読むと,ほぼ間違いなく挫折します.
というのも,考察のところでは先行研究の細かい内容とかがわんさか出てくることが多いです.
序論が,著者らが示したい実験結果について語るにあたって必要な事前情報を提供してくれるパートであるのに対して,
考察は,実験対象となるサンプルの真実を追求するにあたって,著者らの考えがこれでもかと言わんばかりに述べられていると言ってもいいでしょう.

8.結局どうやって読むのか

初めて論文を読む人,あまりなじみのない分野の論文を読む人は,まず要旨と序論をしっかりと読み,その論文で著者らが何を調べたのか,どんなことが言いたいのかということを理解しましょう.
ある程度その分野のことが分かっている人の場合には,序論は適宜読み飛ばしても良いと思います.
その上で,実験結果(必要に応じて実験方法)を読み,著者らの主張したいことがきちんとデータで裏付けられているのか,じっくり読み解くと良いかと思います.
示された図表をベースに,著者らの主張が成立するか批判的に読むのは,時間もかかり,訓練を要することですが,
研究に携わる以上,この能力を向上させていくことは,義務とも言えるでしょう.

9.おわりに

今回は論文の読み方について,私の考えをまとめてみました.
私の理解,考えが及んでいない点も多々あるかと思います.
そんなこと当たり前じゃないか,という指摘もあるかもしれません.
私自身も発展途上ですから,これからも様々な試行錯誤を通して,より良いやり方を見つけていきたいと思いますし,
必要に応じてこのnoteもアップデートしていきたいと思います.

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