先輩の初試練
ある会社に中途採用で入社したら、最年少だった。しかも、ちょっと厄介者で自由奔放な先輩の後釜だったから、重宝がられた。
それから4年、『明るくて元気な妹』『みんなの後輩』のポジションで楽しく、ゆるくやらせてもらってた。
ある日、他社と合弁会社を作ることになった。どうやら、私の穏やかな日々が終わるらしい。
中途採用があり、相手の会社の社員が増えたり、スタートアップの手伝いをすることになったり、かなりの変化に戸惑った。
合弁会社がスタートして2ヵ月後、私に初の後輩ができた。年齢は1つ上だけど後輩。しかもOL経験が無い。ややこしい話だけど、増えてきた手元の仕事を一緒にこなせるようになってほしい。
私は、手取り足取り、丁寧に教えていった。優しくて何でも話せる先輩、そこを目指した。だけど、部長から「ちゃんと説明しておいて」と言われてしまった。
それは、後輩は8時半には出社してるんだけど、合弁会社の女性と仲がよく、ロッカーでたっぷり30分話してから9時にデスクにつく。
部長は、「あの人はいつも始業ギリギリに来るんだね」ってボソッと言った。30分も前に来てるのに、部長に勘違いされてたら印象悪すぎる。
危機感を抱いた私は、後輩に伝えようと決心した。だけど、これってなんて伝えたらいいの?
よく考えたら言いづらい。
だって、あなた悪いから直しなさいってことでしょ。そんな悪口を面と向かって言ったことがない。
よし、私は先輩だ。悪口じゃなくて注意をするんだ。今日中には言おう、と心に決めた。明日の9時前にデスクにはいてもらえるように。
なんと私、業務中には言えなかった。ずるずると、心の中であとでを数十回繰り返し、ヒア汗をかくだけ。言いにくいことが言えない私の悪い癖が発揮された。だから、一緒に駅まで帰ることにした。
「あのね、9時にデスクに来てるでしょ。少しだけ早く席に来れる?」突然、私の口から飛び出した。ごめん、これが精一杯です。
後輩は、「え?何か問題あります?」不安な顔をした。「部長がね、いつも始業ギリギリに来るねって言ってたから、もっと前に来てるのに、もったいないなって思って」。意外にもこんな言葉が返ってきた。
「そんな。もっと早く言ってくださいよ。」と。拍子抜けした。後輩を思って頑張って言ったのに、責められてしまった。「ごめんね。始業前だから話しててもいいけど、一度でも荷物置きに来るとか、来てますアピールしてもいいかもね」と付け加えた。
「すごいショックです。。。早く会社に行ってるのに。あっ、教えてくれて、ありがとうございます。」確かに、意図しないことを思われてるなんて、納得できない話。
だけど、そんな中でお礼が言えるなんて、きっと私にはできないと思った。だって、悪気があるわけでもなく、勝手に部長が勘違いしてるだけとも言えるのではないか。
後輩の配慮もあって、先輩としての試練を乗り越えることができた。言いづらいことを言うって本当に体に悪い。言わずに過ぎてくれれば、こんないいことはない。
でも、乗り越えたお陰で、壁が取り除かれたように仲良くなった。仕事終わりにご飯に行ったり、ゴルフを習いに行ったり、後輩の結婚式にも参列して、新居にもお邪魔した。
後輩がいいと、先輩も悪くない。