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vol.1 データ活用の落とし穴

1. はじめに


最近、医療や健康に関する分野でも、「データを使って判断する」や「数字をもとに運営する」、いわゆる「データドリブン」のアプローチが注目されています。たとえば、2015年頃からは、保険組合や自治体が、生活習慣病が重症化しやすいリスクを測ったり、健康サービスの効果を測ったりするために、データを活用するのが当たり前になってきました。これは、医療費を抑えたり、より良い健康サービスを提供したいという社会全体のニーズが背景にあります。

私は現在お仕事として、医療や健康、介護に関するデータを活用したい企業や団体と、データの専門家とをつなぐ役割を担っています。具体的には、まずクライアントが達成したい目的を整理し、どのデータをどんな条件で集計・分析すれば良いかを考え、その分析を依頼します。次に、出てきた結果を分かりやすいレポートにまとめ、何が問題なのかを見極めます。そして、その問題を解決するための具体的な対策を提案し、セミナーやワークショップなどを通じて実践につなげています。

これまで、保険組合や自治体が行う健康増進事業、病院やクリニックでのデータ分析、医療サービスの質向上のためのレポート作成など、さまざまな現場でプロジェクトに関わってきました。その中で、多くの担当者が「データはたくさんあるけど、どの数字を見ればいいのか分からない」、「分析しても何が言いたいのかピンとこない」、「結果から実際に何をすればいいのか分からない」といった悩みを持っているのを実感しています。

ここでは、データ分析の専門家ではない人(例えば、自治体や企業の企画・営業・施策担当など)が、データをどう活用すれば「本当にやりたいこと(=目的)」を実現できるのか?という視点で、私の経験と知見をお伝えしていきます。

2. データ活用の落とし穴


日本でデータを活用したビジネスが広まったのは、2010年代前半からです。その後、2015年頃からオープンデータの普及や使いやすい分析ツールのおかげで、誰でもデータを扱える環境が整いました。そして、2020年代に入ると生成AIが登場し、データ分析はますます身近なものになりました。今では、誰でも手軽にデータを活用できる時代です。

データを分析し、課題を見つけ、そこから解決策を計画する―― 一見、理にかなった流れに思えますが、ここには大きな落とし穴があります。それは、データだけでは全ての事実を把握できないという点です。

「そりゃ当たり前でしょう?」と思われるかもしれません。しかし、実際には、目の前にある大量のデータやグラフ化されたレポートを見ながら、「このデータから何が読み取れるのか?」、「ここに隠れている課題は何だろう?」と考える人がほとんどです。

そもそも、データは特定の事象を測定・記録したものにすぎません。つまり、データに表れていないことは当然見えてこないのです。だから、データだけに頼って課題を設定してしまうと、本当に解決すべき問題を見逃してしまう可能性があります。

データを活用する上で忘れてはならないことは、「データに映らないものをどう捉えるか」という視点です。データの限界を認識し、単なる数値の分析にとどまらず、現場の実態や背景にある文脈をしっかり考慮することが求められます。データはあくまで意思決定のツールの一つに過ぎません。数字に表れない部分にも目を向けながら活用することで、本当に重要な課題解決につながっていきます。


イメージしやすくなるように、事例を使って説明してみます。

【事例】健診受診率改善の試みとその盲点

データ分析の結果、生活習慣病の重症化患者が多い原因に、
①特定健診で基準値からはずれているにもかかわらず、病院へ受診せずに放置していること
②そもそも特定健診を受けていない人が多いこと
が分かりました。
そこで、ある健康保険組合は、②の対策としては、健診受診率を上げるため、対象者に特定健診の受診を促す通知を送付しました。
ところが、受診率は大きくは改善されませんでした。なぜでしょうか?

その理由は、「なぜ健診を受けないのか?」という根本的な理由を十分に理解していなかったからです。例えば、

  • お店を休むと売り上げに影響が出るため、健診を受けるのが難しい

  • 近くに健診を受けられる施設がなく、遠くまで出向かないといけない

  • いつでも受診できると思うと、結局受けずじまいになってしまう…

  • 健診の予約方法はWEBサイトを見るよう書いてあるが、調べるのが面倒だ

  • そもそも健診を受ける優先順位が低い

といった理由が考えられます。

施策を考える際は、単に通知を送るだけでなく、「なぜ健診を受けないのか?」ありとあらゆる要因を洗い出し、実態と照らし合わせて、対策を検討することが大切になります。

3.まとめ

 💡 データ活用のポイント
✔ データだけでは、すべての事実は見えないという前提を認識する
✔ データの数字と共に、現場の実態を考慮することが大切
✔ データを活かすには、見えていない文脈(コンテクスト)に目を向け、適切な施策を検討する

目の前のデータは、あくまで事実の一部に過ぎません。数字の裏にある背景や意図に目を向ければ、問題の核心に迫る道が見えくることがあります。データの特徴を知った上で、うまく活用していきましょう。


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