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分かるということ③

前回に登場人物と一つになるために具体的に意識することを書きました。
それは、五感、幸福、動き、でした。

今回は僕がどのようにしてテレビの画面という壁を無くして、登場人物と一つになったかを書いていきたいと思います。

僕が使ったのはアニメでした。浦沢直樹原作の「YAWARA!」という作品で、主人公の猪熊柔というキャラクターを対象にしました。
「YAWARA!」という作品は主人公の柔が柔道でバルセロナオリンピックの金メダルと国民栄誉賞を取るまでを描いた作品です。その主な道筋に沿って、恋愛というのが重要な位置を占めて関わってきます。柔道青春ラブコメディと言って良いかもしれません。この作品は柔道それ自体を表現したスポーツ漫画というよりは柔道を通じて、恋愛、家族の絆といった人との繋がりを描いた作品です。

この作品全体での柔の幸福は「普通の女の子になりたい」です。この言葉だけではなかなか伝わらないと思いますがここでそれを詳しくと今回のテーマからズレそうなのこれくらいに留めておきます。
この物語全体の幸福とそのエピソードだけの幸福というものがあります。〇〇試合に勝つと言ったものです。これらを毎話意識します。

そして五感で感じる刺激を身体全体で感じるように想像します。例えば柔道の試合では柔道着のゴワゴワが肌に当たる感じや、裸足で畳の上に立つ感じや、周りの声援の声、汗臭さ、などです。

そして動きも想像で忠実に追いかけます。それも具体的に。例えば走るなら、自分も走り、その感じを想像します。誰でも走ったことはありますからその苦しさの感じそのものは経験で知っていますので想像することは容易なはずです。やったことが無い動き、例えば柔道の技、はこれはもう推測しかありません。しかしこれはテストで解答を出すようなことじゃ無いので、だいたいこれくらいの感じかなとなんとなくつかめればそれでいいです。

以上のように五感、幸福、動きを忠実に追いかけて行き、そしてさらにキャラクターのセリフを役者の声の後ろに付いていくように自分も演技するとなお良いです。英語のシャドーイングみたいな感じで。なので本当に声優をやっている感じで新鮮です。これは前回の記事で書きませんでした。理由はどちらでもいいからです。セリフを声に出すというのはもちろん棒読みではありませんから、それなりに周りに迷惑をかけます。なので周りの迷惑を考え、やらないか、または口パクでも大丈夫です。しかしこれをやるとキャラクター同士で会話をしている感じを味わえてなかなか面白いです。

これらを続けていくと、不思議なことに、私(かなめ)と柔の境界が無くなりました。私(かなめ)=柔となったのです。キャラクターと一つになったのです。

さらにこれを歌にも応用しました。
僕はZARDが大好きでよく歌います。
そしてよくよく考えると歌って登場人物がいて幸福願望を持っています。
ならばこの幸福を意識すれば私(かなめ)と坂井泉水(※ZARDのボーカル)との境界が無くなるのではないかと考えました。

すると、本当に、境界が無くなり、私(かなめ)=坂井泉水になりました。
まるで時間が無くなったかのような不思議な気分になりました。

これらから僕が出した結論は
<人は死なない>です。

柔はアニメのキャラクターでそもそも生きていませんが、この世に存在したいという意味で死んでいるといって差し支えが無いはずです。
私(かなめ)=柔となった時、柔は今ここにいるのだから死んでいません。
私(かなめ)=坂井泉水となった時、坂井泉水さんはここにいるのだから死んでいません。
坂井泉水さんは2007年に亡くなりました。もちろんそんなことは分かっています。別にこの事実が信じられないというのではないです。
しかし、やっぱり自分と同一化した時に、自分の実感として死んでいないと言わざる終えません。「死んでも、私の心の中に生き続けている」というのはもしかしたら自分と死人の境界がなくなり、完全にその人として生きるという意味なのかも知れません。

あるとき、文芸批評家の小林秀雄の言葉を思い出しました。

死んだ人間というのは何故、ああはっきりとしっかりとして来るんだろう。まさに人間の形をしているよ。してみると、生きている人間とは、人間になりつつある一種の動物かな
(無情ということ / 小林秀雄)

本当に人間になるのは死んでから。
つまり人間を人間と感じることが出来るのは自分がその人間と一つになった時、なりきれた時なのだと言いたいのかも知れません。

自分がその死んだ人となるということは自然と自分とは何かという問題にぶつかります。むしろそんなものはないという結論がこの経験から出てきそうです。無私の精神ですかね。分かりませんが。まだまだ考えなければならない問題です。

次回はこれまでタイトルにつけてきた分かるということについて書いていきたいと思います。

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