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〖短編小説〗11月14日は「いい石の日」
この短編は1529文字、約4分で読めます。
まるで、個性のまったくない部屋に通された男は初めにこう言った。
「この部屋は明るすぎるな」と
「おい、カーテンを閉めてくれ」
私は部下の笹本にそう指示をした。この狭い部屋にいるのは男三人だけだ。
「はい、今閉めます」
大柄な、笹本が立ち上がりカーテンを閉めた。
そこから、私の質問が始まった。いや、我々からの質問といったほうが正しいか。
「今日、来て頂いたのは他でもありません。電話でお話した通り、【E2318-E001型鉱石】我々の研究所が使っている通称で言うところの、【EE.stone(いい石)】について、お話を聞きたいのです」
すると男はこう答えた。
「あんた、名前は?この研究所に来てどれくらいだ?」
「私は菊地、ここに来て5年になります」
ニヤニヤと笑みを浮かべるその男に、菊地はどうしても好感が持てなかった。しかし、この男は【EE.stone(いい石)】の情報を持っている。かならず情報を聞き出さなければ。
「ほぉ、5年か。で、単刀直入にきくぜ。お前見たことも触ったこともないのか?あの石をよ」
ぶっきらぼうに質問してくる男の顔は、真剣さのかけらもない。
「ありません」
菊地は素直に答えた。本当にこの研究所に来て【EE.stone(いい石)】を見たこともなければ、触ったこともない。もっと正確に言うならば、見たり触ったりしたことのある者のほうが、遥かに少ない。
「おまえらの言う、Eなんたら石?はっきり言って、そんなもんはそこらじゅうにゴロゴロ転がってる。おまえらが見ようとしていないだけだ」
この男はいったい何を言っているのだ。そんなはずはないではないか。我々が必死になりその存在を追い求めている、かの石がそこらへんに転がっているはずがない。
「言葉を返すようですが、我々も長く様々な石の研究しています。もっと言うならばこの国のトップの鉱石専門家が何人も在籍しているのです。そこらへんに転がっているなど、ありえません」
男は更にいやらしい笑いを隠そうともせずこう言った。
「自分もそのトップの専門家とでもいいたいのか?」
間髪を入れずして、笹本が
「いい加減にしろよ。我々をからかっているのか」
「おー怖い怖い、インテリがそんなに怒りなさんな。せっかく手土産をもってきたのに、それにも気が付かないなんて大層なインテリもいたもんだな」
そんなはずはない。菊地は言葉がでなかった。男と私を挟む机の上に、いつのまにか石が置いてあったのだ。まるで、そこにあることが運命付けられたかのように。静かに、そっと。
「おいおい、そんなに驚くことはないだろう。俺がこの部屋に入った時においたんだぜ。まぁ、少しサービスで、素人でも見やすいように部屋を暗くしてやったがな」
「いったいどうゆうことですか。我々をからかうのはやめてもらいたい。最初から置いてあったですって?そんなはずがない。それに、こんなどこにでもありそうな石。ペテンもいい加減にしてください」
男の返答は、この部屋に入ってから一番はっきりとした声で、静かに語られた。
「お前らは見ようとしていないんだ。そこらへんに転がっているはずがないと思いこんでな。頭の固い奴はこれだから困る。どこにでもあるし、どこにもない。それがお前たちの探している石だ。名前を勝手に付けるのはそちらさんの自由だ。だけど、一つだけ言っておくぞ。お前には一生かかっても、この石を触ることも、今後二度と見る事もできない」
そう言って、立ち上がり部屋を出ていく男を見て、すぐに目の前の、あの何の変哲もない石に目をやったが、そこにはすでに何もなかった。まるではじめから存在しないかのように、きれいさっぱり、何もなかった。
「いい(11)石(14)」の語呂合せから、
11月14日は「いい石の日」