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【短いお話】2月17日は「ガチャの日」
これは、一世一代をかけた僕の冒険の物語である。
決戦場に向かう僕は、動きやすい服装という遠足のしおりの最初のページに書いてあるような恰好だった。もちろんリュックサック。機動力が大切とシャアは言っていた。
走る必要も早歩きする必要もない。ないはずなのに足の回転速度はどんどん上がっていく。オリンピックの競歩を思い出す。オリンピックでなければ絶対に見ない競技だと僕は思っている、あの謎の速歩き競争。
だって今歩いているのか、今走っているのか境界線があいまいすぎて、素人には判別不明。歩くこと、そして走ること。その間が競歩。いや違うか。そんな一人で小説「走ることと歩くことの間」の構想を練っていたら決戦場に到着した。
決戦は金曜日。そうまさに今日は金曜日。某大型家電量販店の前に立つ。
いざ参る。
僕は迷わずにエスカレーターに向かう。エレベーターは苦手だ。赤の他人の前で「僕ここでおりまーす」とボタンを押さなくてはならないからだ。僕はおもちゃ売り場の階で降りたい。こんな30歳の僕が6階のボタンを押したときの世間様の目からでる、「えっ、30にもなっておもちゃ? 本気?」というビームに耐えられるだけの盾をまだ持っていない。そんな最強の盾、どこに売っているか教えてください。アムロに聞けば分かるかしらん。
エスカレーターは人間のクズの僕もきちんと6階まで運んでくれた。エスカレーターの世界でははるか昔に差別は撤廃されているのね。見習おうよ人類。そして我が約束された決戦の地たる6階は平日だけあって親子連れが多い。
レゴを見る子。仮面ライダーのおもちゃを見る子。それを見る子(30歳独身)
「お客様のお呼び出しをいたします。社会になんの貢献もせずに平日の昼間からおもちゃ売り場でうろついている、30歳独身フリーターのお客様。暗い未来がお待ちですので、、、」
えはっ、幻聴?
やはりここは戦場、精神攻撃が凄い。自分を取り戻すため目的地に向かってずんずん進む、進む進む。
目の前に突如現る。
それは太古の遺跡群。古より人類の英知が集結している場。並べられた遺跡は同じように見えて、よく見るとその一つ一つイメージの特異性が違う。科学、芸術、文化、、、体現した集合体。
それは未来の墓場。理路整然と並べられたその姿は、宗教を捨てた未来人の墓場。無機質なまでにそぎ落とされたシンプルなデザインの中には、それぞれ故人の思いが詰まっている。同じように見えて同じものは一つとしてない。違うように見えて違うものは一つとしてない。
さーて、お目当てはどこかな。ガチャガチャコーナーから今日新発売のアニメ「機動美少女侍戦記 切り捨てめ・ん・ごっ」のキャラクターガチャを探す。
「隊長! 発見しまいた。3時の方向約3メートル先に標的目視。これより突撃いたします」
慌てず、焦らず、ゆっくりと、スヌーピーのくたびれた財布から300円を取り出す。
「貴様、補給はどうするつもりだ! 300円ではとても戦にならん! 弾が足りんぞ、弾が!」
「隊長、安心してください。手元には5000円札があります。先ほど通った補給基地に戻り、補給を受けて100円玉を大量に補給いたします。弾の心配は無用かと」
「砲弾準備よーーしっ、打てーーっ!」
100円200円300円ガチャガチャ、、、ポン
2月17日は「ガチャの日」