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【短いおはなし】3月7日は「さかなの日」
この部屋は、いつも空気が悪いなと思う。窓がないせいか、それともこの部屋にいる者たちの無言の圧力のせいか。一歩足を踏み入れた時点でもう出たいと、いつも思ってしまう。
入り口から一番近い席に座る。暗くてよく見えないが、もう評議員は全員そろっているのか、私をカタカナのコの字のように囲んで配置させている席は、その配置からして意図的な攻撃性を感じる。とても意図的な。
少し暗さに目が慣れてきたとき、誰かは分からないが合図の声がした。
「それでは、評議委員会を始めよう」
私一人がすっと立ち上がり、いつものように誰に向けていいのか分からない一礼をして、着席した。硬い椅子の座り心地は決していいとは言えなかった。
「最近の君の活躍は目覚ましいものがある」
まずは、当たり障りのない話題から始まった。褒められるのは悪い気分はしないが、褒められるためにここに来たわけではないことは、ここにいる誰もが知っているはずだ。
「お褒めいただき、光栄です」
この部屋に入ってはじめて声を出したので、うまく声がでず、変にこもった声になった。自分の声が自分でないような奇妙な感じがする。それでも、話をはじめると声はいつもの調子を取り戻した。
「万事、計画は順調に進んでいると自負しています。我々の計画は人類が気が付かないうちに着々と進んでいます」
別の評議員から声があがった。
「君のことは大変信頼している。ただし、我々は君が最近、人類側と近づきすぎているのではないかと疑念をもっている」
なるほど、そう来たか。評議委員会は私が裏切るのではないかと思っているのか。しかし、その心配などないはずだ。こんな足かせを私につけ、24時間監視を行っているのだから。
「その心配は無用かと。なにせ私は例の足かせにより、自由に行動することができません。なにより評議員の皆さんが一番ご理解されているのでは?」
珍しくざわざわと、珍しく評議員同士で話す声がする。具体的な言葉は一切聞こえてはこなかった。
私から一番離れた奥の席に座る、他の評議員から議長と呼ばれる者が、話しをはじめた。
「まずは、感謝を。我々と人類の架け橋となり、さらに我々の計画を日々実行してくれている、さかなクン。君には感謝しかない。君の言う足かせである、頭のハコフグ帽子も我々と君の関係を良好に続けていく上で大変重要な物だ。理解してくれたまえ。そして、今後も我々さかな王国の発展の為にスパイとして活躍してくれたまえ」
議長が立ち上がると、他の評議員も次々と立ち上がった。
「我がさかな王国に繁栄あれーぎょぎょぎょ!」
「「我がさかな王国に繁栄あれーぎょぎょぎょ!」」
3月7日は「さかなの日」