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〖短編小説〗1月9日は「とんちの日」
この短編は1226文字、約3分で読めます。あなたの3分を頂ければ幸いです。
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「なんとも不思議な絵を手に入れましてね。是非にと思って持って来たんですよ。こちらです、どうぞご覧になってください」画商が丁寧に梱包を外し、絵があらわになった。
「これは、見たことない絵だね。いつ頃のものだろうか?」
「それが、詳細は一切不明でして、その…」絵を見ながら口ごもる画商に私は、これは、なにかいわくつきの絵だなと感じた。
その日本画に描かれているのは現代ではなく、江戸時代の町屋の通りであろうか、5人の男女がそれぞれ、通りを歩いていたり、立ち話をしたりしている。まぁ、何の変哲もないと言われれば、その通りの絵だ。
「こちらは、生き絵と言われています」静かに画商が言った。
生き絵が実在するという噂は聞いたことはあったが、目の前の絵がそれとは到底考えられなかった。
「絵の中の人が動くとでもいうのかね」私は少し笑いながら画商に尋ねてみた。
「おっしゃる通りです。それだけではなく、前時代では疫病や、天災を絵が予言したと言われています」
「ほぉ、絵が予言ね」その画商の言葉を聞いて、私は一層興味がわいた。
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結局、相場の数倍近い金額を払い、私は絵を手に入れた。それから数週間、毎日のように絵を眺めていたが、特段絵に変化はなかった。これは一杯食わされたかと思っていた、とある晩。
いつものように、絵を見に行ってみると私はすぐに異変に気が付いた。絵の中の人の位置が変わっている。5人の人間が絵の中にはいるが、微妙に位置が変わっているのだ。
まさに生き絵。そこからはどのように絵が変化するのか、確認するのが楽しみになっていた。数日して、大きな変化が現れた。何人かで固まっていた人が5人全員バラバラに散らばり、そのうちの1人が、まるで体調が悪いようにうずくまっているのだ。
それからの変化は驚くべきものだった。5人のうち2人が地面に横たわり、苦しそうにしているのだ。どう考えてもおかしい状態だ。そしてついにはその2人は絵から消えてしまった。
残る3人も全員、地面に苦しそうに横たわっている状態だ。そして最悪の日を迎える。ある朝、絵を確認すると、絵の中の人全員がいなくなっていた。あたかも、最初から絵には人が描かれていなかったかのように。
急いで、画商に連絡をした。
「君から買った絵だが、あれは本物の生き絵だ。そして、困ったことに絵の中の人が、全員消えてしまったんだ」ことの顛末を説明すると画商はこう答えた。
「疫病でも流行ったのでしょう。看病はされましたか?栄養バランスのよい食事は用意しましたか?だめですよ、絵の中の人々は生きているのですから」当たり前のように言う画商。なんだそれはと文句が喉まで出かかったが、画商の一言で血の気が引いた。
「現実の世界でも、間もなく疫病が流行ります。お忘れですか?その絵は予言の絵でもあるのです。新型のインフルエンザでしょうか?未知のウイルスでしょうか?まぁ、この事実を知っているのは我々だけです。お互い気を付けましょう」
1月9日は「とんちの日」