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〖短編小説〗11月23日は「手袋の日」

この短編は858文字、約2分10秒で読めます。

片方だけ落ちている手袋を見かけると、なんだか悲しい気持ちになる。生まれたときからずっと一緒に、寝食を共にしてきた双子の兄弟がある日急にバラバラになるようなような。

かくいう僕も、先日手袋を落としたばかりだ。気に入っていた手袋だったが駅について、さぁ歩こうと思いポケットから出したが片方しかなかった。

それから、なかなか新しい手袋を買う気になれず、生き残った方の手袋は家においたまま、仕方なくコートに手を突っ込んで寒さをしのいでいる。

昨日、初雪が降ったので一面銀世界。ポケットに手を入れて歩いて、転んだりでもしたら大変だと、今日は我慢してポケットから手を出して歩いた。

会社の最寄り駅から、会社までの道のりに団地があり小さな公園の横を通る。そのとき、雪だるまがあるのが分かった。頭にはバケツが、目にはゴムボールが、首にはマフラーが、そして手に見立てた棒には私の落とした手袋がはまっていた。

なるほど、この近くで手袋を落としたのか。もちろん回収をしようと、雪だるまに近づいた私は、ふと手を止めた。

「あの、すみません。手袋のもう片方をご存知ないでしょうか」

急に、雪だるまが話しかけてきて、僕は驚いた。しかし、雪だるまが手袋を探していることに大変興味を抱いた。

「手袋をさがしているのかい?片方しかないのは心もとないね」僕はそう雪だるまに話しかけてみた。

「おっしゃるとおりなんです。片方だけの手袋というのは、どうにも落ち着きません」雪だるまは困っているようだった。

「君の着けている手袋によく似た手袋が近くに落ちていたから、明日持ってきてあげるよ」と僕は少しだけ嘘をついた。

「本当ですか?ありがとうございます。実は、この体は動かすことがきなくて、背格好は気に入っているのですが、そこだけが問題です」

そして翌日、僕は家から片方の手袋を持ってきて、雪だるまに着けてあげた。雪だるまは特に何もしゃべらなかった。きっと、今日はしゃべる気分ではないのだろう。2つそろった手袋は雪だるまの手に気持ちよさそうに収まっていた。

11月23日は「手袋の日」

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