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〖短編小説〗12月30日は「地下鉄記念日」
この短編は852文字、約2分で読めます。あなたの2分を頂けると幸いです。
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暗い階段をゆっくりと、慎重に降りていく二つの影。
おとなとこども。
「ユメ、暗いから足元に気を付けてな」おとなが言う。
「…うん」気を付けて降りることに頭がいっぱいで、返事は最低限だ。
慎重に階段を降りると、少し広いスペースに出た。人気はなく、ここも暗い。一部天井版がはがれてしまっているようだ。
「ここは、なにをするところ?」ユメが聞いた。
「見てごらん、あそこに機械があるだろう。あれにお金を入れて切符を買うんだよ。そして、そこの改札機に切符を入れてホームに降りるんだ」
「きかい、かいさつき、ほーむ」聞こえた単語だけを繰り返すユメ。知らない言葉を聞くと毎回このような反応になる。そしてグルグルその場で回る。
それに構わずおとなは言う「今日は練習だから、切符は買わずに改札を通ろうか」
おとなに続いて、ユメは改札の横を通ってホームへ降りた。ホームには所々だが照明がついている箇所があったが、そのせいか余計に物悲しい雰囲気だった。
「いま立っている場所がホーム、そして左右に低くなっているところに電車が来るんだよ、地下鉄だよ」
「ここに地下鉄がくるの?ワクワク」ユメはワクワクしていた。
ここに来る前に、さんざん地下鉄の本を読んでいたユメ。残念ながら乗り方は本には書いていなかったが、どんな色の地下鉄が来るか楽しみだ。
「ユメ、ワクワクしているときに残念なお知らせです」少し悲しそうにおとなが言う。
「はい、なんでしょう?ワクワク」
「地下鉄は今は来ないんだよ。昔はたくさん走っていたんだけどね」
「地下鉄は来ない、来ないの?そうなんだ…いつかは来る?」残念がるユメ。本物の地下鉄を見たかったのだ。
「あぁ、いつかは来るさ。今日はそのための練習」
そう話すおとなにユメは納得したようだった。今日は地下鉄の乗り方を勉強した。地下鉄に乗れるようになったらどこに行けるのか。考えただけでワクワクする。
「こんど地下鉄に乗るときはお金いる?」
「そうだね、無賃乗車になるからね」
「むちんじょうしゃ…」知らない言葉は多い。
12月30日は「地下鉄記念日」