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【短いおはなし】2月27日は「国際ホッキョクグマの日」
パンダ、クマ(黒)、クマ(茶)、ブタ、ライオン、ピンクの謎の生き物、そしてクマ(白)と選び放題だった。
一番目を引いたのはピンクの謎の生き物で、目が青で他の動物よりもまつ毛がくるりんとしている。あなたは誰ですか?
乗り捨てられた動物たちはみんな違う方向を向いて、お互いに目を合わせないという暗黙のルールがあるようだ。目をキラキラさせて楽しそうな動物の世界にもルールがあるなんて、と私は少し悲しくなったが結果的に放牧的な雰囲気をこの辺りに漂わせることには成功しているので、あながちルールも悪くないのかもと思う。
一番汚れて汚いクマ(白)にまたがってみる。ふむ、悪くないな。
今日はこの子にすることに決め、100円玉を投入する。軽快とはいかない、今にも途切れそうな安いメロディーが流れ始め発進する。
いざ、クマ(白)と共に!
とはいえ、死ぬほどゆっくりのスピードで移動。歩いたほうがもちろん早く、メロディーは昔の携帯電話の着信音を思い出す3和音。
急に先ほど入れた100円のうち取り分はどうなるのか心配になった。おそらく著作権は恐ろしいから、3和音が8割、クマ(白)が2割といったところだろうと予想。クマ(白)は一回の仕事で20円しかもらえないのか。コンビニでバイトしたほうが稼げるよと教えてあげようとしたけど、この胴体の大きさだとレジに入れないと気が付き、寸前で言うのをやめた。
ふと手元のハンドル付近を見ると、バックボタンという赤いボタンを発見。なるほど、一歩通行のところではこれを使ってバックするのね。と思い試しにボタンを押してみた。
「今バックのボタンは壊れてて押せないんで、あれと一緒よ人生と一緒」
3和音の音楽とともに、聞こえる声はクマ(白)の私から見えない顔から聞こえる。
「え、バックできないの? 不良品じゃん」
「お客さんねぇ、ダメよ。そんな夢の乗り物に不良品とか言ったら」
大人な感じで言い返されたので腹が立ち、胴体部分をまたがる両足で蹴ってみた。
「あ! 暴力だ、警察いこうか、このままお客さんのせて警察いこうか」
密着警察24時で警察の怖さを知る私は、素直にごめんなさいと言いながら後頭部を優しくなでた。硬いゴワゴワとした毛を触っていると、毛の奥のほうはまだ白さが残っていることに気が付いた。
「もとはこんなに綺麗な白色だったんだね」
「そりゃそうよ、シロクマだもの。でも都会の空気は汚いからすぐこんな茶色に汚れちゃったの。これじゃ、クマ(茶)と見分けがつかないよね」少し悲しそうに話すシロクマに今日はじめて3和音のメロディーがぴったり合っていた。
「海行く?」最近観た映画の中で、人生に悩んだら海に行けと言っていたシーンを思い出しシロクマに提案してみる。
「海かー懐かしいな。昔は北極の海を毎日見ていたよ」
「じゃあ、行こう! 海に行こう!」そう宣言して、私はハンドルを思いっきり回して急旋回し、遊園地の入り口に向かいシロクマと共に進んだ。
「本当に行くんだ! お客さん若いなー。ここから出るのなんて何年振りだろう。車は空飛んでるんだろうな」
「なーんにも変わってないよ、車は相変わらず地面走っているし、あ携帯電話はスマートフォンってのになってるよ。海もそこにあるし、心配ないよ」
なんかもっと気持ちを盛り上げる壮大なミュージックが欲しいと思ったけど、シロクマからは相変わらず気の抜けた3和音のメロディーが流れ続けた。
2月27日は「国際ホッキョクグマの日」