〖短編小説〗1月18日は「いい部屋の日」
この短編は1091文字、約3分で読めます。あなたの3分を頂ければ幸いです。
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かの有名な犬築家、ジョゼ = ベランジェは言った。
「人間には人間の建築を、犬には犬の建築を」
この名言で知られる、フランスの犬築家のジョゼ = ベランジェは幼いころから、しつけに厳しい教師だった母親と、無口だが手先は器用なワインの樽を作る工場で働く父親との間に生まれた。
幼少期は母親からは嫌と言うほど、勉強をそして合間の気分転換に父親の工場に出向いては、樽を作る父親の作業を始めは見学そして手伝いと、どんどんとモノづくりの楽しさを覚えていった。のちに、母親にそのことがばれて、工場への出入りを禁止されるが、まだ少し先の話。
学校の成績はもちろんトップで、さぁ大学受験という時に事件が起きる。母親は自分と同じ教師の道に進ませたいと常日頃思っており、むろん息子は教育学部に行くものだと信じて疑わなかったが、そんな母親の思いはどこ吹く風。さっさと、建築学科のある大学を受験し、見事合格。父親は大学合格については、なにも言わなかったが合格を聞いた夜、嬉しそうに一人酒を飲んでいたと後にジョゼ = ベランジェは語っている。
その後の彼の人生は怒涛だ。戦争があり、両親の死、結婚。そして彼を語る上で欠かすことのできない、世界的なうねりに巻き込まれていく。そう、アジアとアメリカの一部の地域で起こった行き過ぎた動物保護運動。
その最終的な形は「World Dog Organization」通称「WDO」として完遂される。犬にも人権をいや、犬権をと犬の権利をことさら主張し、日本でお馴染みの徳川綱吉の生類憐みの令の現代版となる。
犬に自由を!をスローガンに、犬を飼うに値するかの飼い主の適正検査や食事をしっかり与えるための、犬食。野良犬は禁句となり、殺処分などは何年も行われていない。そして、飼い主の厳格化の末、何が起こったかというといわゆる一昔前の言葉でいうペットとしての、犬が減り。施設で管理する犬が増えたということだ。なお、ペットは禁句でパートナー犬と呼ぶ。
さぁ、困った。犬小屋は今まで星の数ほどあったが、犬たちが快適に犬権を守られる形で生活できる住まいがなかったのだ。そこで白羽の矢が立ったのが、ジョゼ = ベランジェである。
犬の生活や、快適さとは何かを徹底的に研究、分析。ストレスを与えないように世界で初めての個室タイプの犬の家を設計する。そして彼は今までになかった新たな職業、犬築家を名乗ることになる。
彼は晩年こんなことを言っている。
「私の作った建物を犬たちが喜んでくれているのか。言葉が通じないから残念ながら分からないが、せめていい部屋だね。と言ってほしいものだ」
1月18日は「いい部屋の日」