【短いおはなし】3月20日は「上野動物園開園記念日」
あの、棒の先に鳥みたいなのが付いていて、押すと鳥の羽根が動くやつがほしいと言われ、ぼくとまいちゃんは動物園にきた。
その棒の先に鳥が付いているやつは、どこに売っているのか分からなくて、色々調べたらやっぱり動物園にしか売っていないみたいだった。
最初、まいちゃんが何を言っているのか分からなくて、棒の先の鳥が付いているやつ、あと押せるやつというのを理解するのに時間がかかった。しかし理解すればすぐ想像することができる。小さな子どもが勢いよく押している姿、その勢いに付随するようによく動く羽。
なんなら動物園のどの生き物よりも羽が動いている瞬間はあの鳥が一番元気なのではないか。
ぼくは昔から動物園は苦手だ。というか動物園以外で野生の動物を見たことがないからなんとも言えないが、動物園の檻の中にいる動物は、とても悲しそうな目をしている。悲しそう? 諦めた? そりゃ諦めるよね。檻の中なんだもの。動物たちは一体何を考えているのか。想像すると怖くなる。明日にでも檻を破って脱走する計画でも立てているのではないか。しかし、そんな難しいことはとうの昔に考えるのをやめて今は何も考えてなさそうだ。
動物園ではかなり変わっている来園者だが、まずお目当ての棒の先についた鳥を買いに行く。ここが園内で一番とがった屋根の建物です。とすごい主張する売店の外にその棒の鳥は売っていた。色違いで二種類あった。
まいちゃんは、ぼそっと「これってワンサイズ?」とぼくに聞いた。
うん、大人はそれ使わないからワンサイズだと思うという旨を、まいちゃんが傷つかないように工夫して伝えた。
諦めたのか、納得したのかわからないが、まいちゃんは鳥が黄色のほうを選んで尖った屋根の建物に入っていった。しばらくすると厳重に包装紙に包まれた棒の鳥を大事そうに抱えたまいちゃんが出てきた。
「あれ、押してかないの?」
「なんか、ご自宅用ですか? って聞かれて、そうですと答えたらこうなった」とまいちゃんは答えた。
包装紙に包まれた棒の鳥は、早く固まった羽を動かしたそうだった。
ぼくはだけど、君は棒が付いている限りは空には飛び立てないんだよということを傷つけないようにどう伝えようか考えていた。
3月20日は「上野動物園開園記念日」
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