〖短編小説〗11月28日「猫と人の日」
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猫の国に来てから、かなりの時間が経ったが、まだ僕の正体に猫たちは気がついていないようだ。
猫の国には大きな塔が2つあり(西の塔と東の塔と呼ばれている)その下の住宅街で猫たちは生活している。なかなか人間は猫の国に入れないと聞いていたが、僕はなぜか問題なく入国することができた。
そして、会う猫会う猫と色々と会話はするものの、僕が人間ということに気がついていないようなのだ。僕は別に変装などしているわけでもなく、はたから見れば明らかに人間だ。猫たちは分かっていて、気づかないふりをしているのか。どうにも不思議だ。
普通なら人間を見るのは珍しいはずで、何かしらのリアクションがあるはずなのに。
今日は西の塔の近くにある商店街の喫茶店に行ってみようかな。
「いらっしゃいませ。おや、珍しい旅人さんですか」
猫の店主に話しかけられた。
「えぇ、そうなんです。先週入国しました」
「そうですか、いかがです?猫の国は?」
「はい、とても快適に過ごさせてもらっていますが、ひとつ聞いてもいいですか?」僕は意を決して猫の店主に質問してみた。
「猫の国には人間はいるのでしょうか?」
すると、猫の店主は驚いた顔をしたあと、そっとヒゲを触りながら答えた。
「人間?人間はこの国にはいませんよ。いるのは全員猫だけです」
おかしな話だ。目の前に人間がいるというのに…。
「ご注文はいかがしますか?」
「では、ウインナーコーヒーをください」
その後、ウインナーコーヒーを飲んだが、あまりの熱さに舌をヤケドしてしまった。なんて熱いウインナーコーヒーなんだ。
店を出て、商店街を歩いているとショーウィンドウが目についた。なんのきなしに目をやるとそこには1匹の猫が映っていた。その口元には綺麗に生えた長いヒゲと、たっぷりのクリームが付いていた。
11月28日は「猫と人の日」