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社会人3年目の日常

目が覚めると、ちょうどスマホのアラームをセットした時間の15分前だった。

7時30分に1度目の目覚まし、スヌーズ機能で二度寝。45分にはなんとか暖かい布団から抜け出すという生活リズムを始めて3ヶ月。脳内時計というものの存在を認めざるを得ない。

普段ならここでもう一度眠りにつく、もしくはSNSを開き、朝の誰もいないタイムラインを更新してみるのだが、今日はなんとなく目覚めが良い。
普段は焼かずに口に押し込んでいる食パンを焼こうではないか。
コーヒーも淹れることにしよう。

この家に引っ越してきたときに購入した真新しいトーストに食パンを投入し、インスタントのコーヒーを作るためにケトルでお湯を沸かす。

社会人になってもう3年が経つが、こんなにゆったりとした朝を迎えるのはいつぶりだろうか。
会社の近くに引っ越そうと決めたのは半年前。決めた2ヶ月後にすんなりと入居できたのは幸いだった。
同棲や結婚の報告の多い世代なだけに、引っ越すことを報告すると妙に好奇の目を向けられるのには気が滅入ったが。

顔を洗い、少し伸びをした後に、カーテンを開けていないことに気づく。
朝に余裕がないと、カーテンも開けないまま準備を済ませて家を出てしまうことが日常になってしまっていた。

朝の光は健康にも良いと聞いたことがある。
明日からも余裕を持って起床することを誓いながらカーテンを開くと、眩しい朝日が部屋に差し込む。

差し込むはずだった。だがそこに太陽の光はなかった。


今日は曇りか雨予報だったか。

昨日見た天気予報を思い出すよりも早く、この暗さは曇りや雨の日の暗さではないことに気づく。

それは夜の暗さだった。
空には三日月と星が浮かんでおり、近くの家の窓からは家族団欒の部屋の光が漏れている。

頭が真っ白になり、ガーンと殴られたような衝撃。
口の中の水分がみるみるうちになくなっていくのは、その水分が冷汗となって流れ落ちているからだろうか。

部屋の時計は確かに7時25分を指しているが、AM PMが分からない。アナログ時計をこれほど憎く思うこともなかなかない。

テレビだ。今が本当に夜だということを受け入れるには、テレビをつけることだ。
テレビというのは朝と夜ではやっている番組の雰囲気が全く違うのだから。

テレビのリモコンを取ろうと部屋の中央のテーブルへ足を踏み出したとき、焦りと「朝」特有の体のもたつきで両足が絡まるのを感じた。

やばい、転ぶ。

転ぶと思ったときにはもう転んでいるのが人間というものだ。わたしはとっさに手を前に出し、頭から床に激突することだけは避けようと構えた。

だが頭にも、床に打ちつけられるはずだった体にも衝撃は来なかった。

代わりに来たのは「ビクッッ」という振動であり、どうやらその振動はわたしの体が震えたことで起こったものらしかった。

恐る恐る目を開けると、わたしはベッドの上にいた。ちょうどスマホのアラームをセットした時間の35分後だった。

タイムスリップか?と思った10秒後に、8時5分という時間の意味を理解する。

「遅刻だっっ」

脳内時計も余裕のある朝も、私には存在しないようだ。

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