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コーヒーの実が一杯のコーヒーになるまでの記録 【国産コーヒー栽培】
コーヒー。
世界中の人々に愛され(時には依存され)ている、ポピュラーな飲料。
日本人は1週間で平均的に約11.5杯ものコーヒーを飲んでいるらしい。
しかし、コーヒーがどのように木に実り(まず、果物であることを前提として知らない?!)、その実からどのようにコーヒー豆を取り出し、焙煎して、コーヒーとして飲める形に姿を変えるのか、わからない人がほとんどであろう。
私も人並み以上にコーヒーが好きでこだわっていた方であったが、コーヒーの生産についてはほとんどと言ってわからない、というのが本音であった。
今回私は熊本県の阿蘇地域で行われている「コーヒーの木のオーナー制」に参加し、1年間の間、1本のコーヒーの木のオーナーとなった。実際にコーヒーの木を観察しながら、世話しながら、収穫・処理・焙煎の一連の工程を行いながら、思ったこと・・・
1杯300円のコーヒーは絶対的に労働対価に見合わない!!
実際にどんな過程を経て美味しいコーヒーにありつけたのか、自分でとった写真を中心に、記録していく。
参考:
コーヒーができるまでの年間記録
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2021年の6月1日をもって、ひよっこFarmer、コーヒーの木のオーナーになりました。まさかこんな日が来ることは想像していませんでした!笑
「君に決めた!」と直感で木を一本選定。これから1年間よろしくお願いします!
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コーヒーのオーナーを開始してから直後に見られたのが、コーヒーの花。咲き始めてから、2日間前後しか見られない貴重なコーヒーの花。真っ白でとっても可憐なお花だった。
枝ごとに一気に開花のタイミングが来るのだが、月の引力による潮の満ち引きの影響で、新月か満月の時期に重なるそう。農業をしていると、植物や動物は月の満ち欠け、宇宙のエネルギーに多少なりとも影響を受けていることがわかり、とても面白い。
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花が落ちて、その後中心に残った子房がコーヒーの実となる。と言っても、成長のスピードはかなりゆっくりで通常のコーヒー生産国でも約8ヶ月間かけて、熟するようだ。
阿蘇地域の場合は10ヶ月はかかっている計算になる。ゆっくりじっくり養分をため込む分、美味しい果実ができるそう。どんな味になるのかワクワク。
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開花から約約半年が経過した冬。米粒よりも小さかったコーヒーの実が、チョコボール(今も売ってる!?)くらいの大きさまでなった。
ここまで綺麗な実に育つまで、実は目に見えない細かな管理が行われている。
大きく2つ、温度管理と害虫対策。
まず、温度管理。コーヒーの主要生産地としてあげられるのが、コロンビアやブラジルなどの中南米、ベトナムやインドネシアなどの東南アジア。暑いところで作られるイメージがあるが、実はいずれの生産地も標高の高い、冷涼地である。
「暑いはずの地域にありながら高度が500m~2500mの高地」
コーヒーベルト内の生産地はこの条件に当てはまるようで、意外と涼しいところが適地であることがわかる。
とは言っても、冬になると氷点下の日も多い阿蘇地域では、木が寒さにやられないように、ビニールハウス内でしっかりと温度管理する必要がある。毎日コツコツとコーヒーの木に向き合う。生産者はすごい!
2点目は害虫対策。コーヒー栽培においての最大の害虫は、カイガラムシ。柑橘類などの果樹農家にとっても大敵であるこの虫は湿ったところ、風通しの悪いところが大好き。カイガラムシが集まると、その排泄物が黒っぽい「すす」として果実や葉っぱにつき、被害を被る。
今回のコーヒー栽培では、農薬を使用しないので、手作業や自然由来のオイルなどを駆使して、地道にカイガラムシの大量発生を防いだ。安全に綺麗なコーヒーを栽培するのには、手間がかかっているんだな、と実感。
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やってきた、待望の収穫期!
コーヒーの実が全体的に濃い赤色になったら収穫のサイン。手でつまんで、ちょっと柔らかいくらいがベスト。熟していて、糖度が高いので、香りが高く美味しいコーヒーになるみたい。
楽しい作業ではあるが、相当な量が一つ一つハンドピックされていると考えたら、結構大変な労働力を収穫に使っていることが想像できる。大体実25個分がコーヒー1杯に換算できる。うーん、地道!
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収穫してすぐ行うのは、収穫した実から種の部分(パーチメント付きコーヒー豆)と外皮(カスカラ)に分ける作業。
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このように、真っ赤なコーヒーの実を手で押しつぶすと中から殻付きのコーヒー豆が出てくる。大体2粒ずつ、たまに1粒や3粒といった変わり者も。
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分け終わったら、天日干し。
パーチメントの周りには糖度たっぷりのコーヒーの実のエキスがついているので、ここでしっかりと乾かして、カビが生えないようにするのが鉄則。
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しっかりとコーヒー豆が乾燥したら、焙煎前の状態である「生豆」にするために、硬い殻であるパーチメントを外す。
脱穀すると、出てきたのが薄緑がかった、綺麗な色のコーヒー豆。
生産地から船便で運ばれるコーヒー豆はこの状態。しっかり乾燥させてあれば、長く保存がきく。
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やってきました、焙煎/試飲の日。
いろいろな焙煎方法があるが、この写真では、網の中に豆を入れて、直火焙煎をしている。
自家焙煎の醍醐味は好みの焙煎に仕上げられること。オーナー何人か集い、それぞれが自分の焙煎道具を使って、好みの焙煎度合いに仕上げる。
私は中煎りを目指して焙煎。
ちょっとムラができてしまい反省が残るが、早速その場でコーヒーを挽いて試飲する。
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薄すぎず、濃すぎず、とっても綺麗な色。
ドキドキしながら一口、いただきま〜す!
「ん〜〜〜〜、美味しい!!!」
滑らかで優しい、口当たりと、ほのかに甘い果実の香り。
うっとりするような上品なお味でした。これはプライスレス。
丁寧に作られ、言わずもがな鮮度バッチシな国産コーヒーは、本当に最高の施工品だった。しかも自分の木から採れたと考えると尚更美味しい。
やっぱり、コーヒーは安すぎる。
長々と書いてしまったが、やっぱり1年間を振り返って思ったのが、世の中に出回るコーヒー1杯300円ほどのコーヒーは安すぎるということ。
コーヒーは農産物であり自然の産物。長い時間と多くの労力が費やされていることがわかった。そして、生産者の他にも、加工業者、流通業者、焙煎士など様々なプレイヤーのおかげでコーヒーが飲料として飲める形に姿を変えていることもわかった。
生産地からのフットプリントや輸送費・・・何をどう考えても、コーヒー1杯の値段は見合っていないのではないかと改めて実感した。
今後は、コーヒー豆を購入するときは、きちんと生産者や焙煎士の情報がわかり、妥当な価格で販売されているコーヒーを選ぼうと決めた。そしてコーヒーを飲むときは、今回やっと見えてきた生産の過程を思い出し、遠い生産地で豆を栽培・加工する人に想いを馳せながら、大事に飲もうと決めた。